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「みちびき」で高精度位置情報を

高精度の位置情報サービスを可能にする準天頂衛星システム(QZSS:Quasi-Zenith Satellite System)「みちびき」は、自動車や農業機械の自動運転、防災など幅広い分野での活用が期待されている。

現在、カーナビゲーションやスマートフォンなどの位置情報取得には、アメリカの衛星測位システムGPSが(地球全体を周回する約30機の衛星を用いて、)幅広く利用されている。このGPSを補完・補強し、より高精度な測位を実現するために、日本は2010年に1機、2017年に3機の衛星を打ち上げ、2018年度から、この4機体制で準天頂衛星システム「みちびき」を運営し、高精度の位置情報サービス提供を開始する。1機の軌道は赤道上に静止配置し、残り3機は赤道に対してやや傾けて地球を周回させることで、日本のほぼ真上、つまり準天頂を1機当たり1日約8時間程度飛行する。

「3機の衛星が8時間ごと順番に日本の上空を飛行しますので、24時間、ほぼ真上から衛星の電波を受信できるようになります。」と内閣府準天頂衛星システム戦略室長の滝澤豪さんは言う。重要なポイントは「ほぼ真上」、つまり凖天頂に衛星が存在することにある。

測位には、使用者の位置(経度、緯度、高さ)及び時間を確定するために、少なくとも4機の測位衛星が必要である。特に谷間や市街地域では、衛星からの信号が山やビルに遮られたり、低い角度であるため反射したりすることで、高精度の位置情報はかなわず、使用者の位置と時間の推定により多くの衛星が必要であった。

みちびき4機体制後は、24時間、365日必ず準天頂に日本上空を1機の測位衛星が存在するため、みちびきシステムが使用者のリアルタイムな位置推定に役立つだろう。

測位誤差の原因は、地上の山やビルなどのほか、地球を覆う電気を帯びた大気の層「電離層」にもある。衛星からの信号は電離層を通過する時に速度が遅くなり、地上への電波到達が遅れる。この遅れの分を、計算してしまうため、実際よりも長い距離が算出され、誤差になる。みちびきにはこうした問題を回避し測位精度を高める二つの機能がある。一つは、全国に13か所設置した衛星の位置を監視する監視局を基準として、みちびきからの測位誤差を補正する補強信号を衛星に送信し、地上での測位誤差を1m以下に抑える「サブメータ級測位補強サービス」(SLAS)。もう一つは、国土地理院が測量や地図作成のために全国に設置している約1300箇所の電子基準点の正確な位置データを利用して誤差を補正した情報を地上に送信し、測位誤差を数センチ(水平6cm、垂直12cm:95%精度)に抑える「センチメータ級測位補強サービス」(CLAS)である。

「みちびきは、来年度から4機体制で運用が開始されます。専用受信機を用いて、世界で初めて、誤差数センチという高精度の位置情報サービスを受けられます。みちびきの電波は、日本だけでなく、アジア・オセアニア地域でも活用できます」と滝澤さんは言う。

現在、みちびきの運用開始に向けて様々な実証実験が行われている。2017年10月には北海道でトラクターの、11月には京都でコンバインの、みちびきの電波を使った農業機械の自動走行実験が行われ、事前に設定された経路を高精度で走行することに成功している。長時間に渡って正確な制御が必要なトラクターやコンバインによる作業が自動化されれば、高齢化の進む農家の労働力不足の改善にも貢献できる。この他、高速道路での自動走行実験(兵庫県)や除雪車の操作支援(北海道)など民間事業者が主体となったセンチメータ級測位サービスを使った取組が進んでいる。

また、2017年11月には和歌山県と高知県で実施された災害避難訓練で、みちびきのメッセージ通信機能を使った「衛星安否確認サービス(Q-ANPI)」と津波などの災害・危機情報を電光掲示板と音声で知らせる「災害・危機管理通報サービス(災危通報)」の実証実験が行われた。Q-ANPIは、避難所に設置した通信機から、避難所の位置、避難所の状況、避難者の情報を、みちびきを経由して送信するサービスである。災危通報は、政府機関から発信する災害情報を、みちびきを経由してカーナビ、野外に置かれた受信機を接続したスピーカーやデジタル表示装置に送るサービスである。2011年に発生した東日本大震災では、地上の通信設備が津波で被害を受けたため、情報の送受信ができなくなったが、みちびきを使えば、そうした状況を回避できる。

「みちびきは、スポーツや観光など幅広い分野での活用も考えられています。新たなマーケットを作り出すインフラとして多くの人々、企業などに活用していただきたいと思っています。それによって、誰も考えていなかったようなサービスが生まれる可能性があります。」と滝澤さんは言う。

みちびきは2023年には7機体制になる計画で、常時みちびき4機からの信号を受信できるようになることから、みちびき単独での測位が可能となる。

日本独自のセンチメータ級という高精度測位サービスにより、衛星測位システムはさらなる飛躍を迎えようとしている。