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Highlighting JAPAN

持続可能な稲作のための魅力的アイデア

2017年11月に日本科学未来館(以下、未来館)で開催された世界科学館サミット2017 (SCWS2017)に関連して、未来館はアジアの稲作を巡る持続可能性について魅力的な考察やアイデアを紹介する特別企画展を開催した。

東京臨海地域にある未来館において、2017年11月15日から17日まで、アジアで初となるSCWS2017が開催された。今回のSCWS2017は、「世界をつなぐー持続可能な未来に向かって」をメインテーマとして開催され、持続可能な開発目標(SDGs)達成に向け、次回2020年のSCWSまでの世界の科学館における行動指針となる「東京プロトコール」が採択されるなど成功裏に閉幕した。(参照

未来館は、SCWS2017の開催に合わせて、2017年11月11日から2018年1月8日まで、特別展示「ビューティフル・ライス〜1000年おいしく食べられますように」を企画した。SDGs普及啓発のための未来館独自の取組の一環でもある。

この特別展示は、アジア各地の農村で数千年に渡り続いてきた伝統的な米作りについて、稲作に加えて料理や祭など稲作に深く関連する生活や文化、さらには民俗資料の展示を通して、稲作を巡る物質循環を科学の視点で紹介している。

例えば、アジアの農村に見られる稲作に関係の深い生活や文化、化学肥料の活用や大規模化などにより高い生産性を実現した一方で、環境問題や生物多様性低下といった課題を抱える近代農業の現状、さらに植物工場や循環型都市計画などのブレイクスルーとなり得る「持続可能な食糧生産」の方向性などに関する写真やイラスト資料などが展示された。

特別展示の目的は、参加者一人一人が、持続可能な食糧生産の在り方、今後の1000年においても「おいしく食べる」ためのアイデアを探ろうというもの。参加者は「火星で作った米」、「1000年前の方法で作った米」など架空の「米」から、稲作の環境負荷や収穫量などの一長一短を比較し、何がベストかを考える参加型の企画展示となった。

展示を監修した佐藤洋一郎・大学共同利用機関法人人間文化研究機構理事は「持続可能性という観点から世界の未来を表現するなら、地域ごとの持続可能性にも光を当てる必要があります。未来は科学者ではなく、社会の人々が皆で決めるのです。科学館の仕事の一つは、こうした展示を通じて、人々が未来を決める時の素材を提供することだと思います」と語る。

特別展示の初日には、「アジアに学ぶ1000年おいしい」と題する佐藤さんによる講演が行われた。

展示を主催した未来館は、2001年に開館し2015年度には国内外から約110万人が訪れるなど、日本で最も人気の高い科学館として知られる。未来館の理念は「科学技術を文化として捉え、社会に対する役割と未来の可能性について考え、語り合うための、すべての人々に開かれた場」である。この理念の下、展示やイベントを通じた先端科学技術の発信、科学者や技術者と市民の橋渡し役を担う科学コミュニケーターの養成、そして科学者や技術者、教育機関、内外の科学館など、様々なステークホルダーとのネットワークの構築に取組んでいる。

未来館では、いずれの展示も、誰もが楽しく理解できるように工夫が凝らされている。来館者は、科学コミュニケーターによる専門的ながら面白い解説(日本語または英語)を聞くことができる。常設展示の目玉であるヒューマノイドロボット「ASIMO」や遠隔操作型ロボット「オトナロイド」を始めとして、子供たちと科学、科学と社会、人々と未来を繋ぐ様々な企画展示が繰り広げられている。また、未来館のシンボル展示「Geo-Cosmos」 は有機ELパネルを約1万個使った直径約6mの球体ディスプレイで、宇宙空間に輝く地球の姿、日々の地球の雲の様子や未来予測シミュレーション、地球が抱える問題などの映像を映している。

東京プロトコールが掲げる目標:「科学館がSDGsの普及啓発に優先的に取り組む」ためにも、未来館は今後も社会と未来をつなぐ企画展示を続けることとしている。