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Highlighting JAPAN

すべての人のための遺伝子解析

東京大学の一人の女子大学院生が開発した遺伝子解析サービスは、ライフスタイルの変化と病気の予防に役立っている。

2014年、日本で初めて大規模遺伝子解析サービスが開始された。東京大学大学院生であった株式会社ジーンクエスト代表取締役の高橋祥子さんが、会員である一般の人々がシンプルなキットを用いて自分の遺伝情報を確かめられるサービスで、病気予防や健康管理に役立てる仕組みを普及させ、広く遺伝子研究にも役立てようと考えたものである。

高橋さんは、東京大学大学院の研究室で遺伝子解析を基に生活習慣病を予防する研究を行っていた。しかし、大学の研究では、個々の被験者に遺伝情報をフィードバックすることは原則行われていない。研究対象となる病気以外で得られた遺伝情報を活用することには制限があり、被験者からのデータ収集にも多額の費用がかかっていた。

「生命科学の発展には、多くの人のデータが必要です。ビジネスを通じて研究成果を広く社会に還元するために、より多くの人からデータを集め、それにより生命科学をさらに発展させる。こうしたビジネスと研究とのシナジー効果を生み出す仕組みを作るために起業しました」と高橋さんは言う。

高橋さんは、2013年、大学院に在籍しながら研究室の仲間とともに、一般向けに遺伝子解析を行うジーンクエストを立ち上げた。彼女は就職経験がなく書籍を通じて経営を学んだものの、起業には多くの困難を伴った。相談をする人もなく、学会や講演会に参加しては大学教授や経営者に積極的に助言を求めた。「学生の私が起業について相談しても、ほとんどの人は聞き流していましたが、中には親身になってアドバイスをくれる人もいらっしゃいました。そうした出会いが重なり、ジーンクエストを起業することができ、スタートから多くの人に支えられています」と高橋さんは言う。

遺伝子解析を受ける手順はシンプルである。まず、ユーザーは同社のウェブサイトから遺伝子解析キットを購入。送付されてきたキットのチューブに唾液を入れて返送すると、4〜6週間後には、解析結果をウェブサイト上で確認できる。解析対象は、病気、体質、体型、性格など約300項目に及ぶ。ユーザーは糖尿病、ガン、不眠症、緑内障、過食症、痛風などの病気に関するリスクの他、筋力や肥満、忍耐力や記憶力、さらには95歳まで生きる可能性など自分自身の遺伝子情報について知ることができる。

「ユーザーからは、『これをきっかけに生活改善したい』といった感想をいただいています。高齢社会の大きな課題となる個人の健康寿命を伸ばし、国の医療費を抑えるためには、個々人が病気を予防する努力をしなければなりません。遺伝子情報は、そのために活用できるのです」と高橋さんは言う。

遺伝子解析技術が進歩しジーンクエストが扱う解析項目数も年々増えている。同社は、遺伝子解析済みのユーザーにも追加項目の結果を無料で知らせ役立ててもらっている。言うまでもないことだが、遺伝子情報は究極の個人情報であるため、同社は、弁護士や大学教授、医師を中心に社外の委員から構成される倫理審査委員会で厳しい審査を受けている。

ジーンクエストは、遺伝子と病気、体質、性格などとの因果関係の解明に繋げるため、同意を得られたユーザーにアンケートを行い、健康状態、血糖値、目の色、身長などの情報を収集している。解析した遺伝情報と回答データから、職業性ストレスと遺伝子との関係、食品が健康に及ぼす影響と遺伝子との関係など、約10の研究プロジェクトを大学や企業と共同で進めている。

「遺伝子との関係があまり解明されていない、運動、食事、睡眠、美容などのヘルスケア分野の研究をさらに進めていきたいです」高橋さんは、アジア各国で拠点作りを進め、アジア最大の遺伝子解析企業を目指している。

アジアでは急速に経済が発展し、個人の健康志向も高まっている。一人の女子大学院生の発想が切り開いたビジネスが、数年のうちにアジア市場で動き出そうとしている。