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Highlighting JAPAN

朝食の見直し

大手食品メーカーのカルビー株式会社は、女性ならではのマーケティング手法によって、女性をターゲットに順調に売上を伸ばしている。

カルビーは、2020年までに女性管理職比率を30%に引き上げる目標を掲げている。2009年に就任した松本晃会長の「女性の活躍なしにカルビーの将来はない」という信念の下、2010年に女性が活躍できる環境整備を推進する『ダイバーシティ委員会』を設置。同年4月に5.9%だった女性管理職比率は、2017年4月には23.4%まで上昇した。営業利益も年々伸びて、2016年度は過去最高益を生み出した。

特に目覚ましい業績を上げているのは、シリアルにドライフルーツやナッツをトッピングしたグラノーラ食品『フルグラ』のカルビー事業本部である。この部署を率いる藤原かおりさんは、2012年にフルグラのマーケティング担当になるとわずか2年で売上を倍増させた。2014年には事業部長に就任、その後売上は2010年度の約10倍(2016年度)になり、2017年からは執行役員も務める。

フルグラは1991年の発売開始から最初の20年を経て年間30億円の売上があったが、カルビーはスナック菓子を主力商品としており、シリアル部門にはそれ以上の期待がかけられていなかった。

藤原さんは、まず、忙しい朝でも女性に不足しがちな食物繊維や鉄分を消費者が手軽に摂ることができるフルグラの良さを前面に打ち出して、ヨーグルトに混ぜて朝食に添える新しい食べ方を提案するなど、様々な広報活動を続けた。結果、大規模な広告宣伝に頼らずとも特に働く女性たちにフルグラの支持が広がっていった。

「カルビーの商品の購入者は女性が多いのが特徴です。ですから、女性のニーズをよく分かっている女性社員が商品開発や営業、マーケティングを担うのは、とても良いことなのです」と藤原さんは言う。「私たちのチームもほとんどが女性で、中には子育て中の人もいます。彼女たちが考案するプロモーションプランや商品には、生活者としての思いが込められています」

こうしたビジネス展開の背景には、カルビーが女性登用と同時に取り組む、労働時間の削減、在宅を含む勤務場所の自由化などの働き方改革がある。「会長は、早く帰宅しなさい、その余暇で本を読むなどして教養を身につけなさい、そして家族を大切にしなさいとよく言っています。社員それぞれの生活を充実させることが会社の成長にも繋がるという考えなのだと思います」と藤原さんは言う。

カルビーは、成果に対して公平な査定をする仕組みづくりも進めており、女性社員が意欲をもって働き続けることを後押しする。こうした取組が評価されて、カルビーは2016年度に『女性が輝く先進企業表彰』の内閣総理大臣表彰を受賞した。

2017年、カルビーでは2人目となる女性工場長も誕生した。そこでは、細やかな配慮が行き届き、工場内のコミュニケーションが円滑になり雰囲気も明るくなったという。

「もちろん、男性が得意な分野もあります。また、ダイバーシティの観点でいえば、外国人社員も増え、彼らは独自の個性を発揮し面白い提案をしてくれています」と藤原さんは、多様性が社内に活気をもたらす効果を語る。

藤原さんは、女性向けのビジネス雑誌『日経WOMAN』が、その年に最も活躍した女性を表彰する『ウーマン・オブ・ザ・イヤー2016』で『ベストマーケッター賞』を受賞した。カルビーの社内では、藤原さんに憧れ目標にする若い女性社員も多い。女性管理職比率30%の目標に向けて改革を進めるカルビーにとって、その先駆けとなった藤原さんが、後に続く女性社員のために果たす役割は大きい。

経営トップが同社の将来を女性社員に託し、女性社員はもとより全社を挙げて女性の活躍とダイバーシティに果敢に取り組む環境が企業の売上だけではなく、目に見えない効果をもたらす、カルビーはそんな先駆的事例として注目を浴びている。