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東京スカイツリーの雷観測

人気観光スポット東京スカイツリーが雷観測スポットとして重要な役割を果たしている。

1752年、ベンジャミン・フランクリンが雷雲の帯電を証明するため、雷をともなう嵐の中で凧を揚げた。この実験によって、雷は電気であると証明されて以来260年以上経つが、雷には依然として未知な点が多い。落雷地点を予測し,落雷地点で雷を直接観測するための準備態勢を取ることが難しいためである。

平地での落雷地点の予測は難しいが、高層建築物を活用すれば雷観測が可能である。雷が高所に落ちやすい特性を活かした観測方法である。例えば、過去にはトロントのCNタワー(553m)、モスクワのオスタンキノ・タワー(540m)、ニューヨークのエンパイアステートビル(443m)などで雷観測が行われており、現在は自立式電波塔として世界一の高さを誇る東京スカイツリー(634m)で雷観測が行われている。東京スカイツリーは2012年5月に開業し、2017年3月末までの累計来場者は約2631万人、複合商業施設(東京スカイツリータウン)を含めると1億8353万人に及ぶ。

「スカイツリーでの雷観測の目的は、雷被害に備えて雷を監視すると同時に、雷の科学的なデータを得ることです。データは、高層建築、電力設備、情報機器などを雷から効果的、効率的に守るための方策に役立てることができます」とスカイツリーで雷観測を担当する一般財団法人電力中央研究所の三木貫さんは言う。

東京スカイツリーでは、地上497m地点に設置されたロゴスキーコイルと呼ばれる電流測定装置で雷電流の時間変化を観測している。長さ約30mの銅製のロゴスキーコイルは、タワー鉄骨をすべて囲むように取り付けられ、スカイツリー塔頂に雷が落ちると鉄骨を通って地中深くへ電流が流れる。その雷電流をロゴスキーコイルで検出することで、電流の波形、すなわち電流の大きさ、電流が流れている時間などのデータが得られる。

また、東京スカイツリーへの雷電流にともなって四方八方に広がる電磁波を、北東に27km離れた千葉県の我孫子、南西に57km離れた神奈川県の横須賀、北西に101km離れた群馬県の赤城で観測している。これらの場所で得られた電磁波のデータは、スカイツリーでの雷電流データと合わせることで、落雷の発生位置を高精度に特定する技術の開発に活用できる。さらに、1秒間に18万コマの撮影が可能なハイスピードカメラなど複数のカメラで3つの方向からスカイツリーを撮影しており、落雷の瞬間を映像として記録している。

「東京では、気温、気圧、雨量など様々な気象データを入手できます。そうしたデータと私たちの観測データとを組み合わせることで、個々の落雷の詳細な分析が可能になります。このような雷観測のための条件に恵まれた場所は珍しく、世界の研究者の関心も非常に高いのです」と三木さんは言う。

東京は1km平方あたり年平均で2回程度、雷が発生するようなエリアだが、スカイツリーでは、2012年の観測開始以来、62回、年平均で10回以上の落雷がある。

これまでに明らかになった観測結果の一つは、下向き、上向きの雷の両方が発生していることである。負極性(マイナス)あるいは正極性(プラス)の電気を帯びた雷雲と地面との間の放電現象である雷は、雷雲から地面に下向きに落ちるだけではなく、高層ビル、鉄塔、風車などの建築物から、雷雲に向かって上向きに伸びるものもある。CNタワーなど高層建築物での観測では、上向きの雷がほとんどだったが、東京スカイツリーでは62回の落雷のうち、下向きの雷が25回、上向きの雷が37回発生している。下向き、上向きの両方の雷の特性を観測できるという点でも、スカイツリーは世界的に貴重な観測地点である。

雷研究では、1970年代にスイスの山間部で観測されたデータが、現在もなお基礎的なデータとして利用されている。日本のスカイツリーでのデータがさらに蓄積されれば、雷研究に新たな視点を提供することになるだろう。

「雷による人や建物への被害は、毎年、数多く発生しています。雷の特性を解明することで、より安全な社会の実現に貢献したいと思います」と三木さんは言う。

東京スカイツリーでは雷のほか、二酸化炭素など温室効果ガスやPM2.5などの観測も行われている。スカイツリーは電波塔や観光だけではなく、科学観測の施設としての役割も果たしており、今後の成果が期待される。