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Highlighting JAPAN

オンデマンドの再生紙

紙のアップサイクル技術ドライファイバーテクノロジーがオフィス内で紙の未来を変える。

2016年12月、世界初*1の乾式オフィス製紙機『PaperLab(ペーパーラボ) A-8000』が販売された。オフィスで発生する使用済みの紙には機密情報なども含まれ、古紙回収業者に処理を委託するのが一般的である。この新製品は、インクジェットプリンターやプロジェクターなどの情報機器製造を主力とするセイコーエプソン株式会社(長野県諏訪市)によって開発され、文書情報を完全に抹消した上で、オフィスの古紙を原料として新たな紙を製造する画期的な製品である。同社のペーパーラボ事業推進プロジェクトで課長を務める藤田恵生さんに誕生の秘話を聞いた。

「当社の主力製品はオフィスや一般家庭用インクジェットプリンターですが、プリントに使用する紙は限りある資源です。紙に関わるメーカーとして、我々は今まで以上に循環型社会に貢献する必要があると考えています」と藤田さんは語る。

紙は、持ち運びが自由で、さまざまな発想をメモしたり、書き加えたりできることから、創造力や記憶力を高めるには欠かせないものだ。しかし、その反面、大量の文書を保管するにはスペースが必要であり、情報が流出する危険性もある。

「そうした紙に対するためらいを解消しながら、気兼ねなく紙を使ってもらうにはどうしたら良いかと考えた時に生まれたのが、オフィスで紙を再生するペーパーラボでした」と藤田さんは説明する。

 リサイクル原料を使わない上質紙(バージンペーパー)にせよ、再生紙にせよ、一般的にA4用紙を1枚生産するにはコップ1杯ほどの水が必要とされている。しかし、オフィスで大量の水を用いて紙を製造するのは困難である。そこでエプソンは紙を作る工程で水を必要としない*2「ドライファイバーテクノロジー」という新しい技術を独自に開発した。これがペーパーラボの最大の特徴だ。

藤田さんによると、使用済みの紙に機械的な衝撃を与えることで繊維化し文書情報を完全に抹消、そこに結合素材を加え、加圧・成形することで新たな紙に再生するという。

「繊維化、結合、成形など、どの工程も従来の製紙方法とはまったく違うため、研究開発は試行錯誤の連続でした。そのうえ、オフィス機器としてお客様に使っていただくには、使い勝手や安全性も十分に考慮しなければなりません。そのため、開発のスタートから発売まで5年という歳月を要すことになりました」

 ペーパーラボは全幅3m弱とコンパクトだが、A4用紙なら1時間あたり約720枚、つまり5秒に1枚の紙を作ることができる。また、A4コピー用紙1枚約0.45~0.7円に対し、ペーパーラボは0.45円*3。さらに、結合素材に色を加えることで、さまざまな色紙を作れるほか、名刺などに用いられる厚紙を作ることも可能である。

「紙を大量に消費するオフィスで、必要な時に必要な量の紙を生産することができれば、紙の購入量は大幅に減らすことができます。新たな紙の調達やリサイクルのための輸送も減らすことができるのでCO2の排出削減にも貢献します。企業などで情報管理を担当する方々から、使用済みの紙をオフィス外に持ち出すことなくリサイクルできる点が非常に高く評価されています」と藤田さんは言う。

 現在、日本国内の一般企業や自治体などでペーパーラボの導入が始まっている。セイコーエプソンの拠点がある塩尻市、諏訪市はいち早く導入し、ともに市長自ら、ペーパーラボで作った名刺を使用している。

ペーパーラボの発表以降、環境意識が高いとされるヨーロッパをはじめ、水資源の貴重なインドや中東など、海外から多くの問合せが寄せられているという。 デジタル化の時代にあっても、紙は人々のコミュニケーションに欠かせない媒体であり続けるだろう。ペーパーラボは、その紙にまったく新しい価値と未来をもたらす可能性を示している。国内外での注目の高さは、環境への関心の高さでもあると言える。

*1:2016年11月時点、乾式のオフィス製紙機において世界初(エプソン調べ)。
*2:機器内の湿度を保つために少量の水を使用します。
*3:消耗品ペーパープラス(結合素材)のコストのみ。PaperLab A-8000の償却費、電気代、水道代は含みません。