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Highlighting JAPAN

世界に影響を与えるワイン漫画

ベストセラー漫画「神の雫」が、世界中のワイン愛好家の人気となっている。

2004年にコミック誌で連載が始まった「神の雫」は海外にも人気が飛び火し、中国、台湾、韓国、アメリカ、フランスなどの国や地域で翻訳版が発売されている。コミックの累計発行部数はすでに1,000万部を突破した。

神の雫はその芸術性のみならず、ワインが新しい様式で描かれていることが絶賛されている。フランスではコミックが非常に高く評価され、ワインスクールのテキストとしても使用されているほどだ。「亜樹直」というペンネームで共同でシリーズを執筆している、原作者の樹林ゆう子氏と樹林伸氏の姉弟は、フランスで料理本のアカデミー賞とされる「グルマン世界料理本大賞」の最高位やフランス農事功労章など、数々の名誉ある賞を受賞している。

「神の雫」は、主人公とそのライバルが“使徒”にちなんだ12本の優れたワインと、さらにはその頂点に立つ1本の“神の雫”を探し出す物語である。

「この漫画が誕生するきっかけは、弟の自宅で開いたワインパーティで“DRCエシェゾー85年”に出会って衝撃を受けたことです」とゆう子氏はいう。「優れたワインのボトルの中には、自然や人間や文化や時間など様々なものが詰まっているという真実が、瞬時にしてわかりました。それで二人とも、ワインにすっかり魅せられてしまったのです」

感動との出会いを求めてワインを飲み続けているうちに、二人のなかに違和感が生じてきた。「カシス」や「杉」の香りなど、5,000語ほどあるワインの味わいを伝える言葉は分析的で、それらの言葉でそれぞれのワインのイメージを伝えるには限界を感じた。

「例えば、どのような絵具が使われているかを分析するだけでは、絵画の芸術性を伝えるのは難しい。それはワインも同じではないか、ワインの本質を伝えるまったく新しい表現を、漫画で追究できるのではないかと思ったのです」と伸氏は言う。「“神の雫”というタイトルは即座に閃き、そこから“12使徒のワインを探し求める”というストーリーの骨格もすぐに生まれました」

ストーリーはワインに関する知識ではなく実際に飲んだ感動から生み出されるため、物語の着想以来、二人は年間1,000本以上のワインを試飲し続けている。

「私たちがやっているのは、ワインの持っているイメージを照らし出す作業です」と伸氏は言う。「イメージは素晴らしいワインに出会ってこそ膨らむので、ストーリーを考えるのはそれからです。その逆はなかなか難しいので、まずは二人そろって様々なワインを飲んではイメージを語り合う。それなくしてこの物語は生まれません」

こうして導き出された「12使徒のワイン」は各国で大反響を呼び、ある蔵元のワインが即座に売り切れたり、価格が一気に高騰したりするという現象まで起きた。それだけに物語の大団円で発表される究極の1本“神の雫”は、はかり知れない影響力を及ぼすことになりそうだ。「それは覚悟のうえで、私たちの思いを込めた何本かにすでにリストを絞り込んでいます」とゆう子氏は言う。

世界のワインにはそれぞれ独自の魅力がある。日本でも山梨県などブドウの産地でワインが醸造されているが、伸氏は日本のワインについてこんな印象を語った。

「伊勢志摩サミットの際に政府に依頼されて日本のワインをセレクトしました。ひと昔前は国産ワイン限定でのセレクトは難しかったと聞いていますが、この10年ほどで、日本ワインのレベルは急速に上がりました。先人の苦労が、今ようやく熟成されてきたのです」

「神の雫」同様、日本のワインが世界に影響を与える日も近いかもしれない。