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Highlighting JAPAN

世界に広がる日本の包丁

日本の包丁が世界の多くのシェフに使われるようになっている。

江戸時代(1603-1867)は、寿司、懐石料理など、日本独自の料理文化が花開いた時代であった。それとともに、「和包丁」のような料理道具も進化した。和包丁の特徴の一つは、食材や調理方法によって様々な種類があることだ。例えば、魚をさばくための「出刃包丁」、刺身をつくるための「柳葉包丁」、野菜を切るための「菜切包丁」などである。

和包丁のもう一つの特徴は、切れ味の良さである。西洋の包丁は、その食文化からブロック肉をカットすることは得意だが、その反面、繊細な切り口にカットするのは苦手である。伝統的な日本料理は見た目も重視するので、切れ味の良い包丁が発達したのである。

こうした日本の包丁が海外にも広がっている。日本の包丁の輸出金額は2004年には30億円程度であったが、年々増加し、2015年には80億円近くまで達している。また、外国人観光客が日本で購入するお土産としても人気が高まっている。

日本では現在、包丁は主に、大阪府堺市、新潟県三条市と燕市、福井県越前市、高知県香美市、岐阜県関市などの地域で生産されている。

国内包丁生産シェアの約50%を占めるのが関市である。関市は鎌倉時代(13世紀)から江戸時代(19世紀)まで日本刀の生産地で、数々の名工を輩出している。平和が続いた江戸時代の中期には刀の需要が減り、包丁や鎌などの農機具も作られるようになった。明治時代(1868-1912)以降は、廃刀令発布の影響もあり、包丁や洋食器など様々な家庭用製品が生産・販売されるようになり、関市はドイツのゾーリンゲン、イギリスのシェフィールドと並び称される刃物の三大産地の一つへと発展した。

その関市で1908年に創業したのが貝印株式会社である。貝印は包丁、カミソリ、爪切りなど様々な刃物製品を生産・販売しており、家庭用包丁の国内シェアはトップである。

貝印は近年、包丁のグローバル展開に力を入れている。海外向けの主力商品は高級包丁ブランド「旬」である。「旬」は2000年以来、現在まで60か国以上で販売され、累計出荷本数は世界で500万丁以上に上る。一般の家庭から、世界を代表するレストランまで幅広く使われており、世界のナイフ業界で最高峰の賞といわれるアメリカの「ナイフ・オブ・ザ・イヤー」を10回受賞している。

「『旬』を使った多くの方は、その切れ味の良さに驚きます」と貝印の松永由香氏は言う。「また、発売当時、欧米で一般的に売られていた“重量感のある”包丁と比較して、デザイン性の高さも非常に評価されています」

「旬」は様々なシリーズが販売されているが、その代表シリーズ「クラシックシリーズ」には日本刀を思わせる波紋がある。これはステンレスの鋼材を何十層も重ねることで自然に生まれる模様である。そのため、同じ波紋を持った包丁は一つもない。この模様が「美しく、かっこいい、日本的で神秘的」と評されている。

さらに、薄い木材を何層にも重ねて、特殊加工される積層強化木のハンドルは耐水性が高く、握ると手の形にしっくりと馴染んで持ちやすい形に加工されている。この握りやすいハンドルの形は、和包丁では一般的ではあるが、欧米の包丁にはないものであった。

「旬」には職人による匠の技も生かされている。それが、鋭い切れ味が長く続く包丁にするための重要な工程の一つである「刃付け」の作業である。刃を鋭利にする刃付けは様々な作業があり、機械も使われるが、最後の仕上げは職人による手作業である。職人が包丁の刃を回転するドーナッツ状の砥石にあてて研磨しながら、機械によって生じた僅かな誤差を職人の繊細な感覚によって修正していく。ハンドルの部分の最終的な仕上げも、刃付けと同じように、職人の手作業で行われる。

「日本では包丁は、“一生もの”です。包丁を砥石で研ぎ、長年にわたって愛用するという文化があります」と松永氏は言う。「こうした文化もこれから海外に広めていきたいと考えています」