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Highlighting JAPAN

 

日本料理を世界へ


近年、日本料理店が海外で増加しているだけではなく、日本料理を楽しむために来日する外国人観光客も増えている。日本料理、西洋料理、中国料理など幅広いジャンルの調理師を育成している辻調グループの辻芳樹代表に、日本の食文化の特徴、日本料理の国際化について話を聞いた。

日本の食文化はどのように形作られてきたのでしょうか。

日本の食文化は自然環境から様々な影響を受けています。例えば、日本各地には魚介類を使った様々な郷土料理、加工品があります。これは、日本の沿岸に豊かな漁場が多数あるからです。その代表的な一つが、東北沖の太平洋です。北から南へと流れる親潮と、南から北へと流れる黒潮がぶつかるこの海域は、世界的にも類を見ない、魚の種類・量が豊富な漁場となっています。

日本の食文化は海外からの影響も大きく受けています。日本料理にとって重要な食材である米の栽培は中国大陸から日本へと伝わり、弥生時代(紀元前3世紀頃から紀元3世紀頃まで)に日本の大部分に広がりました。また、6世紀に中国から伝来した仏教の影響により、肉食が禁止、制限されることで、米、野菜、魚介類が中心となる日本の食文化の基盤が作られました。

海外との交流がほとんど途絶えた江戸時代(1603-1867)に、日本の食文化は独自の発展を遂げます。例えば、精進料理と茶道の影響を受けて生まれた懐石料理が、京都の公家や大阪の豪商などの富裕層に広まりました。また、江戸(現在の東京)では屋台で食べる「ファストフード」として寿司、天ぷら、蕎麦などの料理が登場します。

1868年の明治維新の後には、西洋の食文化が広まり、肉食が一般化します。その中から、すき焼き、トンカツ、カレーライスのように、西洋料理を日本風にアレンジした料理が生まれています。

このように、日本人は長い歴史の中で、海外の様々な食文化を受け入れ、洗練させることで、日本独自の食文化を作ってきたと言えます。

逆に、懐石料理のような伝統的な日本料理は、西洋料理にどのような影響を与えたでしょうか。

日本料理が西洋料理に影響を与えたのは1970年代が始まりです。当時、ヨーロッパの一流シェフが来日して、寿司、すき焼き、懐石料理などの日本料理を味わいました。その美味しさに驚いた彼らは、自らの料理に醤油を調味料として使ったり、生魚をメニューに加えたりしたのです。その後、日本特有の凝固剤とも言うべき葛などを使う料理人も現れました。さらに最近では、昆布から作る出汁をベースにした料理など、日本料理の伝統的な技術が生かされた西洋料理も一流の料理人によって生み出されるようになっています。

近年、日本で料理を学ぶ外国人も増えています。今、辻調グループの学校にはアジアの留学生約200人が在籍しています。ここ5年で2.5倍になっています。彼らはここ日本で、日本料理だけではなく、洗練された中国料理、西洋料理、菓子の技術も学んでいます。母国に菓子の文化を広げたいというインドネシア人、韓国料理と日本料理を融合させた料理を提供する店を開きたいという韓国人など、明確なビジョンを持った留学生が多いです。

今後、日本料理をさらに世界へと広めるためには何が必要でしょうか。

海外では日本料理店が急増していますが、人材が不足しています。ただし日本人だけが日本料理を理解できるというのは大きな間違いです。日本料理に必要な技術、知識、衛生管理をしっかりと学んだ外国人料理人を増やすことはとても重要です。

辻調グループはそのために、タイや韓国の学校と教育連携を行い、日本料理を技術と文化の両面から習得できる独自のカリキュラムを提供しています。さらに、今年9月からアメリカの「The Culinary Institute of America」(CIA)に開設された日本料理専門講座にも、日本から教員を派遣しています。

また、寿司、天ぷら、ラーメン以外の日本料理も海外で楽しめるようにする必要があります。その挑戦の一つとして、辻グループは2011年にアメリカ人料理人と共同で、ニューヨークにレストラン「ブラッシュストローク」を開店しました。ブラッシュストロークでは、日本料理の伝統的な技術に忠実でありながらも、現地の人々に喜んでいただける懐石料理を提供しています。

日本料理は非常に多様です。また、伝統的でありながら、革新的でもあります。

そうした日本料理の魅力を世界に広げるために、日本料理のオーセンティシティを追求しながら、日本料理の味やサービスを現地の人々に受け入れられるものに変換できる能力を持った料理人を育てていきたいです。