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Highlighting JAPAN

地熱発電を世界へ

メキシコ出身の地熱発電コンサルタントのエンリケ・リマ氏は、地熱発電所の世界への普及に取り組んでいる。

地熱発電は、地下水がマグマの熱で熱せられてできた蒸気をとり出し、タービンを回して発電する。地球温暖化に影響する二酸化炭素の排出が極めて少ない発電方式だ。

列島全体が環太平洋火山帯に位置する日本は、発電に利用できる地熱の資源量がアメリカ、インドネシアに次いで世界第3位といわれる。現在日本の地熱発電をリードするのは、九州地方に5か所の地熱発電所をもつ九州電力である。

九州電力の子会社である西日本技術開発で地熱業務本部の副本部長を務めるのがエンリケ・リマ氏だ。リマ氏は日本と同じ環太平洋火山帯に属するメキシコの出身である。リマ氏と日本の出会いは1971年にさかのぼる。メキシコ国立大学で発電工学を学んでいたリマ氏は、当時のメキシコ大統領の強い希望で実現した日本との交換留学プログラムの第一期生として来日した。

「留学プログラムで、メキシコの地熱発電で使われるタービンを作っている東芝の工場を見学しました」とリマ氏は振り返る。「1年の留学を終えて帰国すると、まさにそのタービンでメキシコの地熱発電が始まっており、以来私は地熱発電に夢中になりました」とのこと。

リマ氏は九州大学で本格的に地熱を学び、そして1984年に西日本技術開発に入社した。

現在のリマ氏の仕事は、世界各地での地熱発電のコンサルティングだ。環太平洋火山帯にのる東南アジアからオセアニアの島々、アメリカ大陸、そしてアフリカ大地溝帯にある東アフリカは、地熱発電には好条件を備えている。しかし、蒸気が効率良く取り出せる場所を特定し、長期的に安定した発電ができる発電所を建設するためには、調査と開発に膨大な時間と費用が必要だ。このため、政府や銀行など資金の提供元に地熱発電の理解を広げるのもリマ氏の大切な仕事だ。日本でまだ地熱発電の認知度が低かった1980年代、開発途上国で地熱発電を普及させるために、リマ氏は海外援助をしてくれる日本の機関や、アメリカに拠点を置く国際的な金融機関を訪ね、地熱発電の仕組みと有用性を熱心に説いた。その努力が実り、世界中でいくつものプロジェクトを進めることとなった。東南アジア、中東、北米、中米、南米、そして東アフリカでの地熱発電開発調査といったプロジェクトがリマ氏の専門性を生かし、西日本技術開発により進められた。これらのプロジェクトのいくつかは地熱発電所として既に発電を開始しているもの、また建設中のものもあるが、至近ではケニアやインドネシアのものがある。国際協力機構(JICA)はプロジェクトの資金援助に加え、地熱発電の専門家や関係者を西日本技術開発本社に招いての研修を行っており、リマ氏も積極的に指導に当たっている。

地熱発電は、発電に利用した水蒸気を再利用できる利点もある。リマ氏はプロジェクトを実施するために訪れたケニアで、地元の人々が地表に自噴する水蒸気にバナナの葉を被せ、集めた水滴を飲用水にしているのを目にした。

「これは素晴らしいアイデアだと思いました。それを見て私は、地熱発電所から出る熱湯を再利用する方法を思いついたのです」とリマ氏は言う。

タービンを回す役目を終えた水蒸気は、冷却器で水に戻されるが、この水はまだ充分に熱くて多目的に使用することが出来る。リマ氏はあるアイデアをケニアのカウンターパートに提案したところ、今では、オルカリア発電所の近くにその熱を利用した植物用の温室が出来て、ケニアの主力輸出品であるバラが育っている。しかし、飲料水として使用するアイデアはまだ実現されてはいないようである。もし多目的利用が実現するなら、乾燥したケニア、メキシコ、アメリカ、そして南米のアンデス地方で電気と水の2つが同時に確保されることになるだろう。

「メキシコには出力が世界3位の大きな地熱発電所がありますが、まだ発電以外の利用はできていません」とリマ氏は言う。「樹を植え、地熱発電所から出る水で樹を育て、メキシコを緑の大地にしたい。それが私の夢です」