Home > Highlighting JAPAN > Highlighting Japan September 2016 > 日本の地球温暖化対策

Highlighting JAPAN

福島の海に浮かぶ世界最大の風力発電

浮体式風力発電の実証研究事業が福島県沖で行われている。

2011年3月に発生した東日本大震災で大きな被害を受けた福島県では、その復興を後押しする目的で、再生可能エネルギーのプロジェクトが進められている。その一つが、福島県沖約20キロで実施されている「福島・浮体式洋上ウィンドファーム実証研究事業」である。

このプロジェクトの最大の特徴は、風力発電が「浮体式」であることだ。洋上の風力発電はヨーロッパで普及しているが、その方式は風力発電の設備を海底に固定する「着床式」である。しかし、日本では海岸から離れると直ぐに水深が深くなるため、着床式の適地が少ない。そこで風車を海に浮かせる浮体式が検討されている。

日本における洋上風力発電の潜在的可能性は非常に高い。環境省の報告書によれば、洋上風力発電の賦存量(理論的に算出した利用可能なエネルギー量)は、太陽光発電の10倍の約16億kWにのぼる。これは日本の10の電力会社が現在所有する電力設備容量の約8倍だ。

特に、福島県沖は年間平均風速毎秒7メートルを超える風がコンスタントに吹いており、風力発電にとって絶好の立地条件である。一方、福島沖は二つの海流がぶつかり合って波は高く、潮流も速い。そうした厳しい自然環境で風車を浮かせることは世界でも例がない。

プロジェクトは経済産業省からの委託事業で、東京大学、丸紅、三菱重工、日立など11の企業・団体から構成されるコンソーシアムによって2012年3月からスタートした。わずか1年半後の2013年11月に、1基目の風力発電設備「ふくしま未来」(2MW)の稼働が始まった。

「国内外の多くの人から、信じられない程の短期間で風力発電の稼動が始まったと驚かれました」と、プロジェクトに携わる東京大学大学院工学系研究科の山口敦特任講師は言う。「洋上に浮かぶ風車を見て、夢がかなったと思いました」

その後、「ふくしま新風」(7MW)が2015年9月に、「ふくしま浜風」(5MW) が2016年7月に設置された。3基合計の発電能力は14MWとなり、世界最大の浮体式洋上ウィンドファームとなった。

3基は水深約120メートルの洋上に約1.5キロの間隔を置いて南北に並んでいる。3基の中で最も大きい「ふくしま新風」は、長さ約82メートルのブレードを3枚付けた風車が浮体式の土台に載っている。水面から風車最高点までは188.5メートルに達する。浮体式の土台は、強風や海流で流されないように、直径約13センチのチェーン8本によって、海底のアンカーにつながれている。

これらの風力発電設備から約2キロ離れた洋上に浮かぶのがサブステーション「ふくしま絆」だ。ふくしま絆は風力発電設備で作った電気を陸上に送る変電設備で、世界初の浮体式変電設備である。

また、ライザーケーブルと呼ばれる送電線が3基の風力発電設備とふくしま絆とをつなぎ、陸上へと電気を運んでいる。ライザーケーブル(66kV)は、海底にこすれて傷むのを防ぐために、水中で浮遊するだけではなく、浮体設備の動きや波、潮流にあわせて動くようになっている。こうした大容量のライザーケーブルが海に敷設されることも世界初だ。

現在、ふくしま未来のみが発電しているが、来年初めに3基が同時に稼動するようになると、約1万世帯の消費電力をカバーすることができる。東京大学は、200基の風力発電が洋上に並び、合計100万kWの発電容量を持つ大規模ウィンドファームを2025年以降に建設する構想を立てている。これが実現すれば、ウィンドファームの基地となる福島県には、工場や研究施設が集積し、施設の運用、メインテナンス、更新のための雇用も生まれ、復興に大きく貢献する。

「浮体式洋上風力発電は、世界的にもデータがほとんどないので、耐久性や安全性など、研究しなければならないことがたくさんあります」と東京大学大学院工学系研究科の滝滋研究員は言う。「試行錯誤を繰り返しながらノウハウを蓄積して、世界のモデルになるようなプロジェクトにしたいです」