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未来へ進む「究極のエコカー」燃料電池車

世界で最も早く燃料電池車が市場投入された日本では、その普及に向けた動きが進んでいる。

2014年12月にトヨタ自動車がFCVの「MIRAI」を世界で初めて発売したのに続いて、2016年3月にはホンダが「CLARITY FUEL CELL」を発売した。さらに日産もダイムラーと燃料電池の共同開発を進めるなど、FCVの一般販売を目指した開発を進めている。

FCVには、燃料電池(FC)スタック、高圧水素タンク、駆動用モーターが搭載されている。空気中から取り込む酸素と、水素タンク内の水素をFCスタックに送り込むと化学反応が起きて電気が発生する。その電気でモーターを動かし、車を走らせる仕組みだ。通常のガソリン車とは異なり、走行中に二酸化炭素、窒素酸化物、粒子状物質など、環境に影響を与えるものは一切排出されない。FCVが「究極のエコカー」と呼ばれるゆえんである。

FCVは電気でモーターを動かして走るという点ではEVと同じであるが、EVは車内の蓄電池に外部から充電するのに対し、車内の燃料電池で電気を作り出すという点が異なる。EVは各家庭で充電する場合、充電時間が約8時間(ただし、急速充電では約30分)必要なのに対し、FCVは水素ステーションで燃料となる水素を約3分で充填できる。EVの航続距離は車種によって大きく異なるが、世界で最も多く販売されているEVの日産「リーフ」では約230km。一方、FCVの航続距離は、「MIRAI」が約650km、「CLARITY FUEL CELL」が750kmである。

「将来は、都市部の短距離移動ならEV、長距離を走るならFCVと、用途に応じてユーザーが使い分けをする時代になるでしょう」と燃料電池実用化の研究開発と普及推進の活動を行う燃料電池実用化推進協議会(FCCJ)の里見知英事務局長は言う。

経済産業省は、水素社会の実現に向けて産学官の取り組みを進めるため、2014年6月に「水素・燃料電池戦略ロードマップ」を策定、2016年3月には「改訂版ロードマップ」を発表した。新たなロードマップでは、燃料電池自動車の普及目標を累計で2020年までに4万台、2025年までに20万台、2030年までに80万台としている。

今後、FCV普及に向けて必要なのは低価格化である。MIRAIとCLARITY FUEL CELLはいずれも車両価格は700万円台と高く、国や自治体の補助金を利用しても400万円以上になる。新ロードマップでは、現在の第1世代に次いで2020年頃に第2世代が登場する、さらに2025年までに普及タイプの第3世代の市場投入を想定している。2025年にはFCVに搭載する燃料電池のコストが現状の4分の1程度まで下がり、車両価格がハイブリッド車と同等になることを目標としている。なお、現在、ハイブリッド車の代表格であるトヨタの「プリウス」が300万円台だ。

また、普及を進めるためには水素ステーションを整備する必要もある。現在、政府は建設のために必要なさまざまな規制の緩和を進めるとともに、1カ所あたり4〜5億円かかる水素ステーション建設費用の半分を補助している。2016年9月現在、日本国内の水素ステーションは約80か所、今年度中には100か所まで整備される見込みだ。新ロードマップでは、2020年度までに160か所、2025年度までに320か所を整備すると明記している。さらに2020年代後半までには水素ステーション事業の補助金なしでの自立化を、2040年頃には各地のFCVユーザーが水素ステーションを安心して利用できる状況を創出するとしている。

「新ロードマップで具体的な数値目標が示されたことによって、今後FCVの普及に向けた動きが加速することは間違いありません」と里見氏は言う。「日本が世界に先がけて低炭素社会を構築し、環境技術で国際的な貢献をする役割を担っていくでしょう」