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Highlighting JAPAN

過去と未来の融合

伝統的日本画の手法を用いながら、侍と現代人が行き交い、超高層ビルと江戸建築が混在する。独特な画風が世界からも注目を集める山口晃氏に、サブカルチャーの精神を聞いた。

日本のアート界を代表する画家、山口晃氏。見る者に衝撃を与えた2000年代の代表作『何かを作ル圖』や『成田国際空港 南ウィング盛況の圖』のように、大和絵や浮世絵のようなタッチの中に過去、現在、未来と空想、諧謔と皮肉がちりばめられた独特の画風は、現代芸術の先端を切り拓く。バイク馬やサイボーグ侍のまぎれる合戦図や官能的な仏画にもファンは歓喜する。

一方で、彼の経歴や受賞歴に目を向ければ、日本人アーティストとして堂々の正統派だ。日本の芸術分野の最高学府たる国立東京藝術大学大学院油画修士課程修了、第4回岡本太郎記念現代芸術大賞優秀賞、エッセイ『ヘンな日本美術史』(祥伝社、2012年)にて第12回小林秀雄賞受賞、さらにFIFAワールドカップ南アフリカ大会のオフィシャルアートポスターを手がける17名のうちの一人に選ばれ、今年は日本最古の温泉といわれる道後温泉を舞台に開催されるアートフェスティバル「道後アート2016」メインアーティストに任命され、秋には個展も予定し、国内外のファンが彼の新作を待ち構える。いまや押すに押されぬ人気作家、その彼をサブカルに区分していいのだろうか。

そう問うと、山口氏は一貫して飄々と穏やかな口調でこう答えた。「私は、自分がどうカテゴライズされるかにはそれほど関心がないのです。サブカルチャーかメインカルチャーか、それは囲いの外か内かという領域だけの問題ではないでしょうか」。

美術論者としても評価の高い山口氏は、国内外の美術史を紐解き、「明治以降の日本の美術史は他国の様式から様式へと連続性なく移動するものであるのに対し、西洋は既存の様式の否定と更新を層状に重ねるものでした」と説く。

その日欧の構造的差異こそが、学生時代の彼に創作の転換を迫ったものの正体だった。日本画のような表現を特徴とする山口氏だが、専攻は日本画ではなく油画である。「私が大学で画学生として学んだ油絵は、日本が明治時代に西洋から輸入した様式です。西洋的な手法とは西洋の精神をもって成立し得るのであり、それを日本人が描くときに、例えば琳派的な、顕著に日本精神的なものが現れると正しくないと見なされ、矯正される。それは結局模倣でしかなく、一生自分たちの表現を手に入れることができないぞと危機感を感じたのです」。

「領域の外から輸入したものを自分たちの精神で『誤読』してゆくことが、その文化における洗練になる」。その「誤読力」を身につけるべく過去の様式を遡り、徹底的にその手法を身体に叩き込み、描き続けた。当時の作業を山口氏は「型稽古」と呼ぶ。「あえて表層的な模倣をして自分の『手』が悟るようにしたかったのです」。

「私としては過去の手法を現代の精神で表したもので、近世人が油絵をこなしているような、ギリギリのもの。とても耽溺などできない。美の完全性を求めて、そこへ辿り着きたくてやっている」と芸術家としての胸の内を吐露する山口氏は、安易な過去のサンプリングや単純な新旧の縫合を戒め、美を探る手を休めることはない。 

「行く先しか見ていない」。過去のジャンルとして捕らわれ枯れ果てぬよう、うごめき拡大する領域の囲いから逃げる。サブカルとは、そんな放埓な心のありようを示すのだろうか。ならばその意味で、常に既存の様式に安住も妥協もしない山口氏は、サブカルチャーたることの精神を体現する存在であるのかもしれない。

1: 何かを造ル圖
2001
カンヴァスに油彩
112x372cm
撮影:木奥恵三
所蔵:高橋コレクション
©YAMAGUCHI Akira, Courtesy Mizuma Art Gallery

2: 成田国際空港 南ウィング盛況の圖
2005
紙にペン、水彩
96.5x76cm
©YAMAGUCHI Akira, Courtesy Mizuma Art Gallery