Home > Highlighting JAPAN >Highlighting Japan December 2015>健康長寿社会

Highlighting JAPAN

現役パイロット

93歳という高齢でありながら現役パイロットとして活躍する高橋淳氏。世界最高齢の現役パイロットとして2014年にギネス認定された。パイロット歴は70年。「精神的にも体力的にも常に余力を持って過ごすこと」をモットーに、マイペースで日々いきいきと過ごしている。

93歳の高橋淳氏は、現在までの飛行時間は2万5千時間を超え、どんな飛行機も乗りこなす類まれなる飛行技術で「飛行機の神様」として知られている。一般社団法人日本飛行連盟理事・赤十字飛行隊長であり、名誉会長をつとめる高橋氏に、いつまでも若々しく現役でいられる秘訣をうかがった。

現在は週に1~2度のペースで飛行している高橋氏。静岡県富士川の滑空場でグライダーをけん引する飛行機の操縦や、セスナ・グライダーの教官もしている。また自衛隊での若手パイロットの育成指導や全国各地での講演活動など、日々「飛行」にかかわる仕事を現役で続けている。

「小さいころから鳥のように大空を自由に飛びたいと夢見ていた自分にとって、パイロットは憧れの職業でした。そこで、若い頃に飛行技術を身につけるために海軍飛行予科練習生になりました。その後は小型機の教官などの仕事をし、49歳の時に独立してフリーのパイロットになりました。とにかく飛ぶことが好きで、好きなことを仕事にしている人生を送ってきたので、自分には定年とか引退という感覚がありません」と高橋氏は話す。

飛行機の技能証明書自体は一度取得すると一生使うことができるが、身体検査は毎年あり、国土交通省指定の医療機関で認定を受けないとパイロットのライセンスを更新することができない。高橋氏は更新できる限り飛行を続け、できることならば100歳を過ぎても現役でいたいと言う。

「長く現役でいられる秘訣をよく尋ねられますが、おそらく常に余裕をもって80%の力で物事に取り組んでいるからだと思います。人間はずっと100%の力を出し続けていたら息切れしてしまいます。いざという時だけ100%、いや必要であればそれ以上の力が出せるよう、普段は20%の余力を残しておく。そうすると、突発的なトラブルが生じてもパニックにならないですむのです」。

高橋氏の人生を楽しみ、活力のある日々を過ごす姿勢はプライベートにも反映されている。この日の取材には長身に映える真紅のスタジアムジャンパーとジーンズで現れ、「日本の年寄りは地味すぎる。年を取ったら若い時より派手にしないと沈んでしまう」と笑う。きれいな白髪は月一度美容院でパーマをかけて整えられ、スキンケアは手までぬかりなく、爪も自分でブラシをかけて磨いているという洒落男ぶりである。

「気持ちを若く保つことも大切なので、たまに女性とご飯を食べに行くこともありますよ。それから自分なりのリズムと規律を守っています。私はメモ帳を使わず全て頭の中に記憶することと、時間に遅れないことを自分に課しています。食事は好きなものを食べますが、腹八分目が長年の習慣になっていますね。構えすぎず、精神的にも肉体的にも20%の余裕をもって楽しく過ごす、これが一番ではないでしょうか」。

「時間は後戻りしません。嫌なことは忘れ、楽しい未来を考える。失敗はいつまでも悩まず、言い訳は決してせず、教訓にして自分の糧にする。そういう気持ちでいたら、人生は楽しく面白いものだと思えるし、家族や周りの人々への感謝の気持ちも生まれてきますよ」。

自由で柔軟、しかし同時に自分にも周囲にも誠実であることを決して忘れない姿勢こそが、高橋氏の若々しさの一番の源であるに違いない。