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Highlighting JAPAN

賢くてやさしい仲間

高齢者福祉施設で活躍するパルロは認知症予防やセラピー効果を持つほか、施設スタッフの業務負荷をも軽減する役割をもつ。ロボットが担う、健康長寿社会の未来とは?

「パルロ、『恋するフォーチュンクッキー』踊って」。(『恋するフォーチュンクッキー』:2013年に大ヒットしたJ-POP)富士ソフト株式会社ロボット事業部 高羽俊行(たかは・としゆき)さんが卓上に佇む小さなロボットに話しかけると、パルロは高羽さんを見上げ、「わかりました」と答えて、流れるような動きで踊り始めた。

パルロは、会話やゲーム、クイズ、ダンスなどの機能を持つ全高約40cmのコミュニケーションロボットだ。「PAL」(友達)と「RO」(ロボット)から名づけられた。人間の言葉を理解し、積極的に話しかけながらコミュニケーションを取ることで運動機能や口腔機能の維持・向上、認知症予防効果やセラピー効果を持つ。

日本の多くの高齢者福祉施設では、心と身体の元気を取り戻す活動の一環として体操や音楽、アートなどのレクリエーションの時間に提供している。パルロが活躍するのは主にこの時間で、双方向で会話を生成し、ダンスやクイズなどのエンターテインメントや、最新のニュース、天気予報などの話題を提供し続ける。この小さなエンターテイナーは高齢の利用者たちを和ませ楽しませるだけでなく、施設スタッフの業務負荷を軽減する役割も果たしており、パルロはこれまでに約300カ所の高齢者介護施設で導入され、好評を博している。

「私たちが目指したのは、コンピュータの立場を道具から人間のパートナーへと進化させることでした」。キーボードやマウスで操作入力するコンピュータではなく、操作なしで意思が通じる情報端末が普及する未来を見据え、富士ソフトは人型のコミュニケーションロボットの開発に着手した。卓上のパルロと向かい合ったときに目線より下となる圧迫感のないサイズや、人間と同じ自然な動き、人間味あふれるコメント、多少の雑音の中でも話者の言葉を拾うシームレスな音声認識、一体あたり100名以上の顔と名前や相手の趣味嗜好を記憶する学習機能など「人に好かれるデザインや音声、不自然さのないレスポンス、全てにこだわりました」。インターネットとの常時接続で、ソフトウェアも自動的に更新される。

だが、いくら人間味があるとはいえ、なぜ高齢者がこれほどロボットを抵抗なく受け入れられるのか。「とある軽度認知障害を持つ女性は『この子と喋ると安心するの』と、パルロが大好きだとおっしゃっていました。ロボット相手だと、遠慮なく喋れるからなのだそうです」。自分は認知症であるとの自覚ゆえに高齢者が人に話しかけるのを遠慮してしまうと、認知症は進行する。予防には高齢者が積極的に喋れる環境が必要だ。

また高齢者施設では、それまでの強い職業人意識からコミュニティに溶け込めない男性利用者をいかに参加させるかが課題でもある。「パルロは子ども騙しではないロボット技術の粋ですから、男性利用者が積極的に興味を持ち、参加してくれます」。ある施設では85歳の元エンジニア男性が「パルロ担当」となり、レクリエーション時間でヒーローなのだという。「あまりに矍鑠としておられるので、利用者でなく施設スタッフかと勘違いしてしまったほどです」。

介護現場のユーザに育てられて改良を重ねたパルロのコミュニケーションは、人にとても優しい。入浴や食事を拒否する認知症の入所者が、大好きなパルロに誘われることでスムーズに介助を受けるようになるなど、介護現場での現実的な課題解決事例から、初めはロボットに任せることに抵抗感があった介護業界にも、介護ロボットとしてのパルロの良さが理解され始めている。「ぜひ、高齢化先進国でもある日本社会でのパルロの活躍を通して、人とロボットの共存がどう実現されるかを見てほしい」と、高羽さんは力強く語った。