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Highlighting JAPAN

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なぜここに外国人

農家の料理人(仮訳)

カリフォルニア生まれのナンシー・シングルトン・八須は日本の田舎風の生活と料理を心から受け入れ、発見したものを今、世界の国々に紹介している。

豆腐はさいの目に、春タマネギは小さな角切りにし、鰹節は削って煮立てる。新鮮な地元産のサニーレタスを軽くたたいて乾かし、慎重に裂いていく。隣の部屋では子供たちが歌っている。歌が終わると子供たちはダイニングに流れ込み、木のテーブルの周りに押し寄せ、椅子を引いて座り、自分の席の前にある鮮やかな色の布ナプキンを広げる。今日の昼食のメニューはシンプルだが、小さな木の校舎を囲む田畑で採れた素材を使った極めて健康的な郷土料理である。1歳から5歳までの子供たちが、豚のしょうが焼きのサンドイッチと細切りにした薄揚げの入った味噌汁にかぶりつく。

ナンシー・シングルトン・八須氏には全員のお皿に料理を盛ることも含めて、することがたくさんある。彼女の最初の本『Japanese Farm Food』には、農家である彼女の家族、それを取り巻くコミュニティ、そして彼らの生活の中心である料理の話が書かれている。2012年に出版されたこの本は、各方面から幅広い称賛を得、3万部以上を売り上げ、カリフォルニアの有名なシェ・パニース・カフェのオープン記念パーティで取り上げられた。それが更なる出版契約、国際的契約や、全国区のバラエティ番組へのレギュラー出演などのテレビ出演のきっかけとなった。

八須氏は1988年に初めてカリフォルニアから日本に来て、すぐに背が高くしなやかでカウボーイのような風貌を持つ「ロドリーゴ」という愛称の男性、彼女の夫となる農業家の八須理明氏と出会った。2人は一緒に、実家の土地の一角に、そびえるような天井と垂木の下にロフトのある、杉の骨組みの最初の家を建てた。八須氏は子育てを始め、農家の仕事を手伝いながら、間もなく屋外で英会話のレッスンを始めた。以前から料理への情熱を持っていた八須氏にとって、その背景に料理の本を書くというアイデアが常にあった。「私は子供の頃から、人生の全てを料理に費やしてきました」と彼女は言う。

彼女の3人の子供たちと共に、彼女の学校と料理の本を書きたいという願いも成長して行った。数年後、英会話のレッスンは、毎日の昼食として家庭料理が付いた、本格的な料理にフォーカスした英語の集中レッスンを行う幼稚園となった。「学校は常に私にとって重要な指標でしたが、料理は常に私の駆動力でした。ですから、ずっと料理の本を書きたいと思っていたんです」と彼女は述べる。八須家は杉の家を学校にし、先祖代々の邸宅を三世代が住めるように改築した。八須氏は地元の女性たちを対象に料理教室も始め、古い農家のキッチンを快適で彼女の情熱に合うように改装した。

八須氏は最初、グラタンやシチュー、リゾットなどのレシピを載せた料理の本にしたいと考えていた。しかし、周辺の農家のコミュニティとその食の伝統からますます影響を受けるにつれ、それとは異なる本、つまり、食物を育て、教え、周囲の農業仲間、特に有機生産者との関係を築く、彼女の農家の日常生活を包括する本を書くことが運命であることが明確になっていった。

「有機とは単に畑に農薬を撒かないことを意味するのではありません」と八須は言う。「有機は畑に自らの手を入れなければならないということです。私にとってそれが違いです。より多くのものに触れるほど、より多くの人間的要素があるということです」。八須氏が使う味噌や醤油は、近隣から得た有機大豆や有機小麦を使用し、コミュニティのみんなで一から作っている。

人々、コミュニティ、そして食べ物の間につながりを作ることは重要であり、八須氏は大量生産されるインスタント食品に依存し過ぎることを懸念する。「私の活動の全ての目的は、料理について語ることです」と八須氏は述べる。「私は人々がもっと料理をするようになることを願っています。それから子供たちのことと、私が育った頃ほど空気がきれいではないということが心配です。水も昔ほどきれいではありません。それについては何もできませんが、それなら子供たちの体にきれいなものを入れてあげるために何ができるでしょうか? そうです、食べ物はあなたが完全に管理できるものです」。彼女は良質な農家の料理の実現を目指すこれらのコミュニティの価値を、生徒たちにも浸透させようとしている。また実際、彼女の学校はその料理とコミュニティにフォーカスしていることで知られている。

『Japanese Farm Food』は英語とフランス語で出版された。今年の年末にはオランダ語の翻訳版と簡略化された日本語版が発売される予定である。彼女の2冊目の本、『Preserving the Japanese Way』というタイトルの漬物の本が2015年8月に発売される予定であり、3冊目となる日本全国の料理の本は現在執筆中である。



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