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Highlighting JAPAN

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地方の魅力発信

歴史がつなぐ人の輪(仮訳)

金沢の象徴ともいえる歴史的建築物である町家を通じ、世代や地域を越えてつながっていく「おくりいえプロジェクト」。現代人の手によって姿を変えた町家が新しい金沢の街並みを彩っている。

日本海に面した古都、金沢。16世紀半ばから19世紀後半にわたり城下町として発展し、江戸時代には江戸(現在の東京)、大阪、京都に次ぐ規模の大都市であったといわれ、今でもその面影を色濃く残している。その象徴ともいえるのが、商いの場を兼ねた町人の住宅である町家だ。住まいと生業が共存する場として、人々の暮らしを支えながら継承され、戦災を逃れた金沢の文化的景観を形成する重要な要素となっている。しかし一方で、高齢者の単身居住も多く、転居や所有者の死去を理由に取り壊されることが多くなり、その数は年間200棟にも及ぶといわれる。

金沢の建築デザイナー、やまだのりこ氏は、この町家の最期を彩り、見送りたいという思いから、2009年に「おくりいえ」プロジェクトを立ち上げた。何年も掃除されていなかった町家を、1日がかりで雑巾がけをしてキレイに磨き上げる。ゴミの山の中から発見される古めかしい小物や古本などを持ち帰ってもよい。シンプルで無理のない、老若男女誰もが参加できるこのプロジェクトは、土日を中心に行われ、東京や名古屋などの都市部からも人々が集まり、多いときには200名以上が集まることもあるという。これまでに30回開催され、のべ5000名以上が参加した。

「町家の生活を味わってみたい」、「同じ思いを持つ人たちと出会いたい」など参加者たちの目的は様々だ。少子高齢化が進む日本では、どの地方でも空き家の増加という課題を抱えているため、同じような活動が自分たちの場所でもできないかとヒントを探しに来ている人もいる。3世代で参加したという家族は、「掃除機での掃除しか知らない子どもに、昔ながらの雑巾がけを学ばせる良い機会になりました」と話す。

やまだ氏は「雑巾でひとつひとつ拭くことで、人の温かさが家にも伝わる。そうすると、止まっていた空気が流れていき、家が喜んでいるのがわかるんです。知らない人同士でも一緒に町家を掃除し始めるとすぐに仲良くなれます。そこで見つかった古い物を媒介にして、年配の方と若い人との交流が生まれます。町家を通じて、世代や地域を越えてつながっていくんです」と話す。百年近い歴史を刻んできた町家で行うこの活動では、不思議な出来事も多いという。「30年ぶりに親戚同士が再会したり、実は昔の同級生の家だったり、奇跡的な出来事がしょっちゅう起こるんです。見えない力が、引き寄せるんでしょうね。人と人、人とものがつながっていくことが楽しいです。心を込めて『おくりいえ』をするという習慣が日本各地で根付けば嬉しいですね」。

地道な活動の甲斐があってか、近年は町家の価値が改めて見直されるようになり、取り壊されずに引き継がれることが多くなっているという。「おくりいえ」の「送る」が「贈る」に変わりつつあるのだ。金沢を象徴する町家の魅力を、地域や世代を越えて伝えていく「おくりいえ」プロジェクト。現代の人々の手により、新たな歴史を刻んでいく町家は、これからも金沢の街並みを鮮やかに彩っていくだろう。



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