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Highlighting JAPAN

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防災

復興のパートナー

タイ洪水における日本の貢献(仮訳)


2011年10月に発生したタイ・チャオプラヤ川の大洪水は、首都バンコクからタイ北部にかけての約20,000k㎡に浸水被害をもたらした。なかでも深刻だったのが、この地域の7カ所の工業団地に展開していた世界各国の企業に対する打撃だ。全808社が浸水し、そのうち日系企業は469社。世界全体のサプライチェーンが寸断され、総損失額は約400億ドルに及んだ。

チャオプラヤ川の流域面積は約163,000k㎡、日本の利根川(流域面積が日本で最も大きな川)の10倍に相当する大河だ。ただし、河口から上流のアユタヤまでの直線距離約75kmの高低差はわずか2mで極めて平坦なため、流下能力(どのくらいの洪水を安全に流せるのかを流量であらわしたもの)は、利根川の6分の1と極めて低い。そのため、元来氾濫しやすい川であり、太古から中流部の洪水を灌漑水として農業に利用してきたという歴史もある。しかし、そんな氾濫被害のリスクがある地域が、近年の経済発展に伴い工業団地や住宅地に姿を変えた。そして2011年6~9月に平年比1.3~1.4倍の降雨に見舞われたことが、同年秋の大洪水をもたらしたのである。

この大災害への支援において日本は大きな存在感を発揮した。日本緊急援助隊が中心となって2011年10月~12月に緊急援助を実施し、テント、浄水器、仮設トイレ、救命胴衣、土嚢25万袋、殺虫剤などの物資を供与したほか、上水道、地下鉄、空港の洪水対策専門家チームや、感染症など健康被害を防ぐ保健分野調査団などを派遣した。

注目されたのが、初の海外派遣となった国土交通省所有の排水ポンプ10台の活動だ。日本の官民51人が約2ヵ月間、24時間体制で作業に従事。現地スタッフを含めて1日のべ880人が携わり、最初の32日間で約810万m3の排水に成功した。12月からは、航空レーザー測量による高精度の地形図を作成し、重要となる下流地域を守るため、上流と中流の氾濫を制御するなどの将来的な洪水対策支援に移行した。さらに世界初となる1週間先までの洪水氾濫を予測できる洪水氾濫予測システム開発や、100億円超の無償資金協力を通じて重要な幹線道路の嵩上げや水門の設計などを行った。

こうした支援は、日本国内で発生した数多の災害を経て培った知見や世界トップクラスの技術力、経済力を活用したものだ。それに加えて今回特筆されたのは、タイの首相と副首相が議長を務める水資源管理戦略委員会の一員となり、政府の国家的方針や復興のロードマップづくりに携わった実績である。タイ首相から直接要請され、唯一の外国人顧問としてその重要な責務を担ったJICA客員専門員の竹谷公男氏は言う。

「実はJICAは1999年にチャオプラヤ川の開発調査を行い、治水計画のマスタープランを提案していました。しかし、当時タイ政府では、洪水対策より道路や鉄道、空港などの経済インフラ投資が優先されました。そこで11月、近年の川の流域の変化に適応するため、1999年のマスタープラン見直しを決め、私が水資源戦略委員会に招聘されました。国王の勅令で約3,500億バーツの予算を獲得したこと、治水対策の大枠決定に直接関与できたことは非常に大きな成果だったと思います」。

タイ洪水を教訓として、防災は世界経済の発展を担保する最重要インフラのひとつと認識された。ポスト2015開発アジェンダにおいて防災の明確な位置付けが実現すれば、防災対応において世界にプレゼンスを示す日本の役割は今後さらに大きくなりそうだ。



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