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防災

進化する緊急地震速報

東日本大震災を契機に精度向上(仮訳)

「緊急地震速報です。強い揺れに警戒してください――」

テレビやラジオの視聴中、あるいは携帯、スマートフォン、防災無線などから突然発せられるこの警報は、一般向けに運用が開始された2007年10月から、昨年2014年末までに計145回(※1)発表されている。ある意味、日本で最も印象の強いアナウンスだろう。

地震が発生すると、まず初期微動(P波)と呼ばれる揺れがやってきて、次にS波と呼ばれる強い揺れが来る。緊急地震速報は震源に近い観測点でP波をとらえ、地震の規模や震源を即座に予測し、S波が来る前に情報を発表して揺れへの警戒を呼びかけようというものだ。地震の最大震度が5弱以上と予測される場合に、震度4以上の揺れが予測される地域に対して発表される。

気象庁地震火山部管理課の大河原斉揚氏に詳細を聞いた。「全国を対象とした緊急地震速報のシステムは、全国約1000カ所の地震観測点と、瞬時に大量のデータをやり取りできる通信インフラが整備されている我が国だからこそ構築できたものです。緊急地震速報の実用化にあたっては、精度の高い計算方法の開発や高速のデータ転送など技術面もさることながら、緊急地震速報そのものをいかに広報、啓蒙するかも大きなポイントでした。これまでも地震発生後の震度はニュース速報などで報じられていて、揺れを感じると人々はテレビやラジオで情報を得るという習慣がありましたが、『揺れる前の予報』は多くの人が未体験だったからです。そこで政府広報、パンフレット、テレビ、ラジオCM、イベントや標語コンクールなど多様なメディアや場所を使い、運用開始前の約1年をかけて政府全体で普及に取り組みました」。

以降、緊急地震速報はさまざまなシーンで地震災害の防止、減災に役立ってきた。2011年3月11日に発生した東日本大震災では、緊急地震速報を聞いて身の安全を確保したという報告があちこちで聞かれる。

しかし、同時にこの震災で新たな課題が生じた。「東北地方にはS波到達前に緊急地震速報を発表できました。しかし、あれほどの広範囲にわたって強く揺れると、わずかな時間では予測できず、関東地方へは緊急地震速報を発表できなかったのです。また東日本大震災以降、広域で地震活動が活発になったため、地震の規模や震源を精度よく推定することができず、過大な震度を予想する事例が多発しました。これらを改善するため、同時に複数の地震が起きた際にも震源を精度よく推定する『IPF法』(※2)、予想対象点の周辺で強い揺れを観測したという情報も活用して震度を予測する『PLUM(プラム)法』(※3)を準備中です。それぞれの方法をシミュレーションした結果、先のトラブルはいずれも改善できることが確認されました」と大河原氏はいう。

早ければ、IPF法は2015年秋に、PLUM法は2016年度にそれぞれ導入が予定されている。従来の速報システムにこの2つの技術が順次加わることで、緊急地震速報の精度向上に期待ができるというわけだ。日本では今後30年以内に60~70%の確率で発生するといわれる東南海・南海地震をはじめとして、いくつもの大規模地震発生が懸念されているだけに、非常に心強いニュースである。

「とはいえまだ技術的限界があるのも事実で、適切でない速報が発表される可能性もあります。また、自分のいる場所の近くが震源だったら、緊急地震速報は強い揺れに間に合わないでしょう。緊急地震速報を聞いたり、地震の揺れを感じたりしたら、まずは慌てず身の安全を確保してください。そして何よりも、家具転倒防止、非常用持ち出し袋の準備など、地震に対して普段から基本的な備えを怠らないことが重要です」と大河原氏は締めくくった。

(※1)最大震度3以上又はマグニチュード3.5以上等と予想された際の発表は「予報」に分類され、通常の緊急地震速報として発表されないため、この回数には含んでいない
(※2)Integrated Particle Filter法。京都大学防災研究所と気象庁の共同開発による手法
(※3)Propagation of Local Undamped Motion 法。気象研究所の開発による手法




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