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Highlighting JAPAN

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科学と技術

確かなセキュリティ

コピーできない人工DNAインキ

(仮訳)




高性能なカラーコピー機やスキャナーの普及にともない、金券やチケットなど高付加価値な印刷物の偽造が増えている。その対策として、印刷物に特殊な印を付け、その印のあるものだけを本物と認めるセキュリティ技術が発展してきた。

日本の印刷業界最大手である大日本印刷(DNP)では、ホログラム印刷、光の加減で色や像が変わる印刷、コピーでは再現できないほどの微細文字印刷、蛍光発光印刷など、特殊な印刷技術を応用した数々のセキュリティ技術を開発し、印刷物の偽造防止に貢献している。そのような実績を持つDNPが、世界最高レベルのセキュリティ効果を目指して開発したのが「人工DNAインキ」。このインキを使って印刷したものを第三者が偽造することはほぼ不可能だ。本物と偽物を判定するときには、生体のDNA鑑定を行うのと同じように、解析装置を使って人工DNAを解析すればいい。

全ての生物の「生命の設計図」と呼ばれるDNA(デオキシリボ核酸)は、A(アデニン)、G(グアニン)、C(シトシン)、T(チミン)という4種の塩基が二重らせん状に配列された鎖状の高分子で、塩基配列には個体特有の情報が書き込まれている。人工DNAも天然のDNAと同じAGCTの塩基配列を持ち、「本物の証」となる複雑な情報を書き込むことができる。

ただし、天然のDNAは、塩基配列を増幅させるPCR(ポリメラーゼ連鎖反応)法で大量に複製できてしまうのが最大の弱点。開発を担当した大日本印刷情報ソリューション事業部の前川博一さんは「これまでにもDNAを使った偽造防止印刷の技術は実用化されていますが、機器さえあれば模造・複製することが可能で、セキュリティレベルは決して高くなかった」と、開発当時を振り返る。また、光や高温多湿に弱く、環境によって保存性が下がってしまうという問題もあった。

今回開発された人工DNAインキに使われている人工DNAは、理化学研究所発のベンチャー企業であるタグシクス・バイオが開発したもので、AGTCという4つの塩基に独自開発の人工塩基対が加えられている。カギとなる人工塩基対は特殊なノウハウがなければ解析できないため、模造・複製ができないのだ。人工DNAに鍵をかけるような役割を果たす。

もうひとつの課題である環境耐久性についても、人工DNAの塩基配列を工夫することで光にも耐えられるようにした。さらに、DNPが得意とする印刷技術を使って印刷物の表面を保護インキでコーティングし、人工DNAが環境の影響を受けにくいよう保護した。

人工DNAインキを使って印刷された印刷物は、分析装置でDNA解析を行い、半日程度で真贋判定ができる。現状では専門機関に印刷物を送ってDNA解析をする必要があるが、「この技術を広げるには、簡単に真贋判定できるシステムづくりが課題」だと前川さんは話す。その課題解決に向け、どこでも簡易的に真贋判定ができる解析キットの開発を構想しているところだ。

人工DNAインキを使えば、パスポートや有価証券など、高付加価値印刷物のセキュリティ性は大いに向上し、犯罪抑止にも繋がる。紙幣の偽造防止技術として関心を抱いている国もあるなど、次世代の印刷セキュリティ技術として世界からも注目されている。



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