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Highlighting JAPAN

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科学と技術

自然に優しい素材

世界最高耐熱のバイオプラスチック

(仮訳)




文房具、食器などの生活用品から、パソコンやタブレットなどの電子機器、自動車の内装パネルまで、人の生活はプラスチック製品で溢れている。しかし、これらに使われているプラスチックは原料に石油を使用しており、焼却処分の際に二酸化炭素やダイオキシンなどの有毒ガスを発生させるなど、自然環境への負担が大きい。

こうした問題をクリアできるとして注目されているのが、植物や微生物などの有機性資源(バイオマス)を原材料とする「バイオプラスチック」。石油などの化石資源を使わず、二酸化炭素排出を抑えることができる。ただし、現在実用化されているバイオプラスチックは、強度・耐熱性ともに低いうえに製造コストが高く、使い捨て用途で使われていることが主流となっている。

「工業用途にも使えるバイオプラスチックを作りたかった」という北陸先端科学技術大学院大学の金子達雄准教授は、遺伝子組み換え微生物を使い、微生物由来のバイオプラスチックを作成。これまでのバイオプラスチックの弱点を克服し、丈夫で耐熱性の高いポリイミドのバイオプラスチックを作ることに成功した。

金子准教授は、バイオプラスチックの材料として、堅い構造を持つ天然素材の中から香辛料の成分でもあるシナモン系分子(桂皮酸)に着目。遺伝子組み換えを行った大腸菌から、天然にはほとんど存在しないアミノ桂皮酸を産生した。さらに、UV照射による光反応で高分子化することができた。

こうしてできあがった世界初のバイオ・ポリイミドは、史上最高耐熱温度390℃を記録。ポリカーボネートの5倍の強度、メガネのレンズと同等の屈折率、ガラス並みの低膨張率なども実現した。しかも、ポリイミドには火がつくと自然に消える特性があり、難燃性も高い。製造法次第で、透明なプラスチックを作れることもわかった。それでいて、重量はガラスの半分ほどと軽い。深紫外線により分解し、リサイクルすることも可能だ。

実用化の方向性として「軽くて、丈夫で、透明なバイオ・ポリイミドを、自動車のフロントガラスの代替にしたい」と話す金子准教授。試算によると、ハイブリッド車や電気自動車のフロントガラスをバイオ・ポリイミドにすると約15kg軽量化でき、燃費は10%向上する。これによりガソリン消費が減るので、世界中の車のフロントガラスがバイオ・ポリイミドになれば、年間13メガトン以上の二酸化炭素を削減できる計算だ。難燃性を活かして自動車のエンジン周辺の部材に使用すれば、さらに軽量化できる。

今回開発されたバイオ・ポリイミドの原料となったアミノ桂皮酸を石油原料から化学的に作るとかなり高額になってしまうが、バイオならば食品添加物並みの低い価格で作れる。低い価格であることも「世界中の石油由来プラスチックをバイオプラスチックにしたい」という夢を持つ金子准教授がこだわったことだ。「違う微生物を使えば新しい機能を発見できる可能性があり、微生物にインスパイアされてアイデアを思いつくことも多い。バイオプラスチックの可能性はまだまだ未知数です」

安価で大量生産ができるようになれば、石油由来のプラスチックに限らず金属代替材料としても活用されるようになるだろう。そうなれば、二酸化炭素排出や産業廃棄物の削減など、環境負荷の低減に大きく貢献できる。世界を変える可能性を持つ材料だけに、早期の実用化を期待している。



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