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Highlighting JAPAN

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明日をつくるベンチャー企業

「ロボットスーツHAL®」の誕生と未来

驚くべき装着型ロボット(仮訳)






「ロボットスーツHAL」が、世界初の医療・福祉用装着型ロボットとしていま世界中で注目を集めている。HALの開発者である筑波大学大学院教授でサイバニクスの創始者である山海嘉之氏は2004年、人支援機器とサービスの研究開発、製造、国内外への販売を行うためのベンチャー企業「CYBERDYNE株式会社」を立ち上げた。

サイバニクスとは、人・機械・情報系を融合複合した多分野にまたがる人支援技術のための新たな学術領域である。HALは、病気や事故、加齢などで歩行、立ち座り、階段昇降などが困難になった人の身体機能を改善・補助・拡張することができる装着型ロボットだ。HAL医療モデルは、世界初のロボット治療機器として欧州では医療機器認証を取得しており、さらにドイツでは、脊髄損傷患者を対象とした機能改善治療が公的労災保険で全額カバーされている。現在、国内外で約400体のHALが実際に運用されている。さらに、関節の動きや腰の負担をサポートするように設計されたプロトタイプモデルや、災害対策用プロトタイプモデルが開発中であり、上市されることが待ち望まれている。

ではHALとはどういう仕組みなのか。ロボットに備え付けられたセンサーによって、脳が発した微弱な生体電位信号が皮膚の表面に漏れ出すのを感知して瞬時に処理する「サイバニック随意制御システム」により、装着者の思い通りに身体を動かすことを可能にする。だが、生体電位信号が十分でない場合もある。その際には、HALは重心の移動などを感知して動作を先読みして再現する「サイバニック自律制御システム」も併せ持っている。この、ふたつのシステムが同時に働いて、動作意思を反映した人の自然な動きをサポートするHALの基本原理は国際特許となっており、WIPOからも注目すべき特許として取り上げられた。

しかし、そこまでの進化の道のりは平坦ではなかった。山海教授は会社を設立し、資金・人材を集め、技術的にも精神的にもタフで長い道のりを経て現在に辿りついた。HALの技術は、先行・競合するものがこれまで存在せず従来の産業用ロボットのための安全対策では対応できない新分野の技術であるため、新しいルールを作る必要があった。そのため、山海教授は国際標準化機構(ISO)のメディカルロボットのエキスパートメンバーとなり規格策定を主導した。「イノベーションとは」という問いに対する答えとして、「なければ作る」と山海教授は淡々と語った。「それが産業や社会の変革を起こす」と教授は信じている。革新技術というものにはそもそも、市場、ユーザー、産業、プロフェッショナルユーザー、ガイドラインが出来上がっていない。山海教授はこれらの“no”を”new”に変えていったのだ。

「新産業創出は日本でも可能だ」と語る山海教授は、HALがその事例となれば良いと願っている。新産業創出にもっとも必要なのは「理念」と「行動」であると言い、「テクノロジーは人や社会に役立ってこそ意味がある」と信条を述べる。山海教授率いるCYBERDYNE社は、確固とした理念のもとに、これからも革新を続けていく。



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