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Highlighting JAPAN

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科学と技術

宇宙空間とつながる

宇宙エレベーター建設という夢(仮訳)



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宇宙エレベーターとは、文字通り、宇宙と地上を繋いだケーブルで上下する乗り物だ。たとえばアーサー・C・クラークの小説『楽園の泉』に登場するなど、宇宙エレベーターはSFの世界ではよく知られている。宇宙エレベーターの建設は理論的には可能だとしても、到底実現はできないと永らく考えられてきた。

ところが、1991年にNECの飯島澄男博士がカーボンナノチューブ(CNT)を発見したことをきっかけに、今や技術面でも実現可能ではないかと言われ始めている。宇宙エレベーター実現の最大のネックとされてきた宇宙と地球を結ぶケーブルを、十分な強度と軽さのあるCNTならば造ることができるからだ。以来、実現に向けた動きが加速し、日本でも2007年に宇宙エレベーター実現のための技術推進や社会への普及・教育活動などを行う宇宙エレベーター協会(JSEA)が発足した。

「日本で生まれたCNTをはじめ、エレベーターの制御技術や新幹線などで培われた安全技術など、宇宙エレベーターで重要な要素技術は日本が得意とする分野が多い」とJSEA会長の大野修一氏は言う。「ぜひとも日本が中心となって進めていきたい。」

宇宙エレベーターの仕組み自体はシンプルで、宇宙ステーションと地球とをケーブルと平衡錘で繋ぐだけ。ポイントは、地球側に引っ張る重力と遠ざけようとする遠心力のバランス調整だ。地球に近づくほど重力が強くなり、離れるほど遠心力が強くなる。そのバランスが釣り合うのが高度約3万6000kmの「静止軌道」。この軌道では地球と同じ24時間で地球の周りを1周することになる。静止軌道上に設置したステーションは地球と一緒に回り続けるので、地球から見て静止した状態を維持でき、ケーブルをピンと張った状態を保てるのだ。

建設時は、静止軌道上の衛星からケーブルを地球に向けて垂らしていくのだが、そのままではケーブルそのものの重量により重心が地球に近づき、地球に引っ張られてしまう。そこで、地球とは逆方向にもケーブルを伸ばして平衡錘でバランスをとる。そうやって少しずつバランスをとりながらケーブルを伸ばしていき、やがて静止した地上の発着所や海上の稼動発着所などの地球側ステーションへと辿り着くという方法が考えられている。

こうして造られた宇宙エレベーターは、ロケットに比べてかなり少ないエネルギーで、大量の資材や人を輸送することが可能だ。また、特殊な訓練をしなければ宇宙飛行士にはなれないが、宇宙エレベーターではそれよりはるかに緩いトレーニング条件で良いため、普通の人でも宇宙に行きやすくなる。大量のモノや人を少ないコストで送れるので、宇宙空間で太陽光を効率よく回収してエネルギーとして活用する宇宙太陽光発電構想や無重力工場など、宇宙開発そのもののハードルを下げることにも役立つ。宇宙進出発展のきっかけになるとして期待する声もある。

太陽からの電磁波や放射線、隕石やスペースデブリ(宇宙チリ)からどうやって宇宙エレベーターを守るのかなど、挙げればキリがないほど課題もある。しかし、実現すれば宇宙開発と宇宙探索を一変させる可能性を持つだけに、その魅力にとりつかれた研究者や技術者も多い。日本国内及び海外でさまざまなコンテストが行われ、上る高さやよいケーブルの建設技術が競われ、大いに関心を集めた。

宇宙を舞台にし、海外でも人気のある日本のロボットアニメシリーズの新作で、この秋公開予定の『機動戦士ガンダム Gのレコンギスタ』では、宇宙エレベーターを運営する組織を中心にストーリーが展開するという。誰もが気軽に宇宙へ行ける世界へ、そのロマンを夢見る人たちが原動力となって、いつの日か宇宙エレベーターは建設されるだろう。その探求を日本が先導していきたい。



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