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Highlighting JAPAN

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科学と技術

ちきゅうによる海底掘削

地震研究における最先端技術(仮訳)



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2011年3月11日に発生した大震災は、未曾有の被害をもたらした。僅か1分弱の間に、日本海溝の大陸側が約50m滑り、結果30mもの高さに及ぶ津波が本州北部を襲い1万5千人を越える人の命を奪った。

国際的な科学者コミュニティーにおいても、日本でこれほど例外的な大規模の天災が発生するとは想定していなかった。世界有数の地震多発国である日本では、地震から貴重な生命、財産を守ることが、重要な課題となっている。地震発生のメカニズムについて十分な知見を得ることができれば、地震による被害を軽減することが期待できる。そこで地震から13ヶ月後、JAMSTEC (独立行政法人海洋研究開発機構) による26ヶ国が参加する統合国際深海掘削計画によって、東北地方の震源域の水深7kmの海底下850mを掘削する大深度掘削とコア試料の採取が実施された。

掘削プロジェクトに携わるカリフォルニア大学サンタクルーズ校のエミリー・ブロドスキー教授は、「地震発生からこれだけ対応の速さで、水深7kmもの深度で断層を掘削し、地震のメカニズムの解明に繋がるコア試料を採取した例はこれまでにありません。」と述べる。

この研究の主力となった地球深部探査船の「ちきゅう」は、造船に6億ドルを費やして2005年に完成した。「ちきゅう」は世界最高の掘削能力(海底下7,000m)を持ち、これにより今まで人類が到達できなかったマントルや巨大地震発生帯への掘削が可能になった。「ちきゅう」は 巨大地震発生のしくみ、生命の起源、将来の地球規模の環境変動、新しい海底資源の解明など、人類の未来を開くさまざまな成果をあげることを目指している。JAMSTECは現在、「ちきゅう」による初の巨大地震発生帯 (プレート境界で巨大地震の発生原因となる帯域) での深海掘削に向けて準備中である。この掘削は、地震発生帯まで海面下約10kmと最も浅い南海トラフで実施する。紀伊半島沖に位置する南海トラフは、近い将来「巨大地震」の発生が予測されている帯域でもある。

JAMSTECの地球深部探査センターの 倉本氏は、「不安もありますが、非常に楽しみです。これだけの深度で調査すれば、(2つのプレートの) 接触強度が測定可能になります。ボアホール(コアを抽出するために地球に穴を突き開け、ガス、油、水等を放出すること)にセンサーを設置して、リアルタイムでプレートのひずみを監視しようと計画しています。リアルタイムのデータが測定できれば、この先起こりうる災害規模を出来る限り最小限に留めることができるようになります。」と述べる。

「ちきゅう」はJAMSTECがライザーパイプと呼ばれる産業開発を採用したことにより深海掘削を行うことが可能になった。直径50cmの鉄製パイプは遠隔作業ロボット(ROV)によってパイプが海底に到達するまでそれぞれが連結している。ドリルパイプがライザーパイプに入り、泥水はバランスを維持して海底の崩壊を防ぐため、2本のパイプ間の隙間を通って、船から海の底まで循環する。

地震発生地域における掘削が、「ちきゅう」の世界初リストに加わるだろう。2012年にはJOGMEC(独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構)が「ちきゅう」による海底地下の掘削で、氷が含まれる堆積層からメタンガスを取り出すことに世界で初めて成功した。

メタンガスは世界中どこにでも存在する化石燃料の1つだが、日本とインド近海に広範囲に分布するメタンハイドレード層が最近発見されたことで、安価なガスの時代がさらに延長されるとの見方が広がっている。

氷のクラスター中のメタン分子の形で海底地下から取り出されるため、「ちきゅう」が掘削に乗り出すまで、この燃料の分離は実現困難と考えられてきた。 今回大成功を収めたことにより、日本がインドと共同で、メタンの商業的開発を可能にする掘削・分離に向けて次のステップに進むことになった。

「科学者は地震を予測できると思う人が沢山いますが、それはまだ不可能に近いことです。まずは一つ一つの課題に取り組まなければなりません。地震発生帯での掘削で確かな測定が得られれば、そこからの可能性は無限です。」

日本はいま地震研究の最前線にいる。これまでは地震計を使った波の解析が主だったが、「ちきゅう」によって物質科学的に地震を解明するという新しい局面を開き、そこでも日本はトップを走ろうとしている。



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