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Highlighting JAPAN

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特集:暮らしやすいまちづくり

カーシェアリングがもたらす住みよい社会



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環境にやさしいというだけでなく、経済的でもある新しい現象が、現在日本で定着しつつある。それがカーシェアリングだ。もちろん自動車への乗車を他の人と共有することは、西洋諸国では、特に市街地のビジネスマンの間ですでによく行われている。車通勤は、東京、大阪の都心部では比較的少ないが、カーシェアリングは日本のその他の地域で都市間や地方で利用する人々の間でも人気が出てきている。これには環境及び経済の両面でプラスの影響が出てきている。

では、カーシェアリングとレンタカーや車の購入とではどのような違いがあるのだろうか?カーシェアリングでは、運転や乗車をしようとする人は、一日のある特定の時間で車を予約したり、グループで同じ目的地を共有したりする。日程計画ができるソフトと相互運用性のある安全システムによって、1台の車を20~30人が共同で使用するのが一般的だ。車使用の共有は、各利用者の総経費を下げ、車所有に代わる低コストの方法を提示しているのだ。これはまた、レンタカー料金と比べ、各車の「休止時間」が少ないことや、月契約で支払えることも意味している。また、カーシェアリングが選択肢として人気があるのは、C02排出量や交通渋滞、経済的負担を減らさなければならないという緊急性によるものでもある。

東日本大震災の時、津波で6万台の自動車が流された宮城県石巻市では、カーシェアリングを通じて、一定の地域再活性化が進んでいる。この記事では、日本におけるカーシェアリングの現状を掘り下げて観察し、日本社会へのプラス面でのドミノ効果を検証する。

被災地カーシェアリング

2011年3月11日に発生した東日本大震災。海沿いに位置する宮城県石巻市では約6万台もの車が津波に流され、多くの人々が移動の手段を失った。この石巻市で「被災地カーシェアリング」と呼ばれる被災者支援を行っているのが、阪神淡路大震災のあった兵庫県出身の吉澤武彦さんだ。

このプロジェクトは日本全国の企業や個人に中古車などの車の提供を呼びかけ、提供された車を被災者の人々に届けてカーシェアリングという形で使ってもらうというもの。維持経費で利用者に負担をかけないために、提供してもらう車には「1年以上車検が残っている」という条件も設けている。また、車1台に対して保険料や登録費用など年間約15万円の諸経費が掛かるが、これらの費用は日本全国の人々から募った「くるま募金」で賄っている。

震災の1週間後から被災地に入ってボランティア活動を続けていたという吉澤さん。阪神淡路大震災の被災地で7年半にわたってボランティア活動を行ってきたという知人からカーシェアリングプロジェクトの話を受け、「仮設住宅や被災地域の町内に共同利用できる車があれば、被災者の人々の暮らしはきっと楽になるに違いない」という思いで同年7月に被災地カーシェアリング協会を立ち上げた。現在までに提供された車両台数は72台、約50カ所の仮設住宅において約230名の利用者が会員登録をするまでに拡大している。

「移動の手段として便利になったことはもちろん、行きたいところに行けるようになったり、会いたい人に会えるようになったりしたことで気持ちが前向きになりました」と利用者は笑顔で話す。被災地カーシェアリングを利用して、一人暮らしのお年寄りを病院まで送迎するといった「個人ボランティア送迎サービス」を始める人も出ており、「人助けの機会を与えてもらえて嬉しい」といった声が挙がっているという。さらに、この送迎サービスを利用しているお年寄りの中には車の維持費を寄付している人もいるのだそうだ。まさにカーシェアリングを通じた“思いやりの連鎖”が生まれている。

被災地カーシェアリング協会では提供する車を提供者自身が運び入れることを勧めている。「実際に仮設住宅を訪れ、利用者と触れ合うことで交流の機会を持ってほしい」という願いからだ。その結果、車の提供者と利用者が文通を続けていたり、利用者が提供者に石巻の特産物を送ったりという繋がりが続いているという。提供者からは「妻とドライブをしたり、家族でキャンプに行ったりとたくさんの思い出の詰まった自分の車が、こうしてまた誰かの役に立ちながら活躍してくれていることが嬉しい」という感想も寄せられている。

当初は日本全国からの支援によって支えられていたこのプロジェクトだが、最近では地域内での支え合いに変わってきているという。「2012年秋には仙台赤門自動車整備大学校の学生たち、今年の春には石巻市内の18の整備工場がボランティアで車の整備を行ってくれ、秋には石巻専修大学の学生たちが協力してくれる予定です。遠方の人々からの支援はとても心強く、有難いもの。しかし持続可能な支え合いを実現するためには、地域の人々同士が助け合える環境にシフトしていくことが大事だと思っています」(吉澤さん)

この夏からは、三菱自動車からの無償貸与を受け、EV 6台の利用が始まった。環境にやさしいEVを被災地カーシェアリングに取り入れたいという提案は、仮設住宅の利用者から出てきたものだったのだそうだ。

「利用者の方々がこの取り組みを通して未来を見つめ、夢を描いてくれていることが嬉しかった。EVは環境にやさしいだけでなく、非常用の電源にもなります。9月の防災月間では、これらのEVを活用して非常時の電源利用をスムーズに行うためのシミュレーションが行われる予定です。また、EVが快適に活用されるための最大の課題として充電設備の普及が挙げられますが、EVを活用する利用者の方々と共に石巻市内の各方面に具体的な要請をし、インフラ整備にも繋げたいと考えています。さらに、私たちは自然エネルギーでEVを充電できる仮設住宅をまずは1箇所作るという新たな目標を掲げました。カーシェアリングを通じて、“防災”“インフラ整備”“環境づくり”といった新しいまちづくりにも貢献していけたらいいですね」と吉澤さんは将来の目標をこう語る。

被災地カーシェアリングプロジェクトは単なる移動手段の提供という枠を越え、人々に夢と元気を与えるだけでなく、石巻の街を活性化させていく大きなパワーが秘められている。

日本におけるカーシェアリングの現状

カーシェアリングの仕組みは、電気自動車(EV)普及に的を絞った技術開発実験として、1998年に日本に導入された。ガソリン車を使った日本での最初の試みは2001年だったが、事業性の目処が立たず世論も肯定的ではなかったので、すぐに行き詰った。この進取的精神も自動車市場に大きな影響を与えることなく終わった。

2002年になると、最初の制度が横浜で導入され、それを引き継ぐ形で他地域でも誕生した。交通エコロジー・モビリティー財団の市丸新平氏は「石油価格の上昇や2008年のリーマンショックが、カーシェアリング計画を提案する企業の数が増加したことに繋がった」と述べている。さらに「コストを抑えようとする傾向が強くなったことや環境問題への関心が高まりつつあることが、その制度に参加する会員数の急速な増加を促した」とも語った。

同財団の最近の調査によると、現在カーシェアリングに契約している会員数は、289,497名(2010年比18倍)に増加し、登録台数も8,831台(2010年比7倍)に上った。一国のカーシェアリング普及率は、全人口に対する登録会員数で算出され、スイスが1.3%でトップだ。日本での普及率はここ2~3年改善して現在では0.23%とカナダ、ドイツ、アメリカに並ぶ水準に達している。さらに、新興都市やEV受け入れに熱心なスマートシティの開発、高級車が利用できる制度などサービスの多様化に伴い、一層の増加が期待できる。

カーシェアリングが環境への負荷を低減しているという証拠がある。2012年の調査によると、一家庭あたり1年間に移動する距離は4048 kmだったが、カーシェアリング制度に加入した後は、2563 kmに減った。37%の減少である。さらに、小型車志向とその結果としての1kmあたりの燃料消費減により、一家庭あたりの年間C02排出量は45%、平均0.34tも減少した。

居住地別では東京で年間C02総排出量が53%にまで減少し、最大の効果が見られた。都市部では国内最大の減少である。自動車保有台数の減少の結果、駐車スペース需要の減少も見られ、緑地帯の保存や再生が可能となった。カーシェアリングでEVの使用が増えると、環境への貢献もさらに増すであろう。

EVは従来の自動車に比べ高価なので、個人客にとってはコスト面で重い負担となっている。この意味において、カーシェアリングのおかげでEV共同所有が多くの人にとって実現可能な目標となったことは、大きな貢献と言える。実用中のEVの数が増加することで、社会が全体としてC02排出量を大幅に削減すること、その結果ガソリン車による環境への負荷を減らすことが可能になる。価格のほかに、EVがさらに広く採用されるためには、都市部から離れた場所も含め充電施設の増設が重要である。



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