Home > Highlighting JAPAN > Highlighting JAPAN 2013年8月号 > 暮らしやすいまちづくり

Highlighting JAPAN

前へ次へ

特集:暮らしやすいまちづくり

生まれ変わる地方都市 「スマートウェルネスシティ」というまちづくり



English



日本ではいくつかの自治体が「スマートウェルネスシティ」と呼ばれる新しい構想を推進している。この構想は、海外の成功事例および最近行なわれた研 究をもとに、住民がより健康かつ幸福に生活するための都市再活性化プロジェクトの枠組みを提供するものである。これらの構想では、手法は様々だが、「歩き やすい」都市環境とそれによる社会的交流の活性化および健康増進を主な目標に置いている。

研究結果によれば、住民が互いに社会的に結びつい ている強靭な社会的ネットワークや地域社会(ソーシャルキャピタルとも言う)では、住民の身体面および精神面での健康増進と長寿が実現される傾向があるこ とが示されている。この種の「ソーシャルキャピタル」は、健康増進のみならず、犯罪防止、民主主義を支える基盤の強化、そして経済成長にも結びつく。

筑 波大学体育系教授の久野譜也氏は、都市の歩きやすさと住民の健康との相互作用について研究を行ない、それに基づいて「スマートウェルネスシティプロジェク ト」と名付けた全国的プロジェクトの立ち上げを推進した。この構想は、高齢者の健康を維持し、ソーシャルキャピタルの育成を通した地域開発の再活性化を目 的としている。現在までに26を超える自治体が参加している。

スマートウェルネスシティ委員会は、新潟、静岡、福岡などからの自治体による 首長研究会を開催している。首長研究会は定期的に開催されており、政策面の考え方を共有するとともに、地域開発面の課題について議論される。首長の多くは 共通の課題に直面しており、相互交流によって高齢化・人口減少、低雇用率、若年層の都市部への流出、伝統的生活習慣の消滅などに関する解決策を出し合って いる。

社会的交流を活性化できるか否かには、その地域の構造的設計が大きく影響する場合がある。手法は様々だが、都市環境における「歩きや すさ」はソーシャルキャピタルの発展を促し、適切な施設があれば地域住民の健康を増進させる。遊歩道や自然歩道を建設ないし修復する設備の増強により、観 光客や住民がハイキングやウォーキングを通して市内にある自然景観や歴史的景観を見て回ることが容易になる。一方、公共交通機関の利用に対するインセン ティブを設けることで自動車交通量を削減することが可能であり、野外の地域フィットネスプログラムなどを開催して年齢によらず参加者の健康増進を促進する こともできる。

本州日本海側最大の都市である新潟市では、人々の生活基盤となる交通機関の確立と高齢者ケアの充実に取り組んでいる。既存の歩道や公園を統合して市内でのウォーキングを奨励することで、都市部と郊外との交流を強化しようとしている。

こ の方針に基づく最初の事業は、乗り換え拠点システムの構築だ。新潟市は、2005年に周辺市町村との広域合併が実施され、これにより市中央部と郊外部を結 ぶ公共交通ネットワークの整備が課題となった。住民に公共交通機関の利用をより強く促すために、利用率の低い郊外部のバスルートと利用率の高い市中心部の バスルートを結ぶ乗換え拠点を市周辺部に建設してバス利用時の時間短縮と料金節約を実現する新たな開発計画が進行中だ。これは同時により多くの人々に対し て市中心部で自動車ではなく歩いて来ることを推奨し、これにより交通渋滞と駐車場不足の問題を緩和することも狙いとしている。

スマートウェ ルネスシティプロジェクトは、法制面の支援もある程度は必要だ。多くの場合プロジェクトの管轄範囲は、健康、交通、高齢者層、公園など様々であり、従って 新しいプロジェクトを検討する場合、一般的には市役所の多くの部署が関わることになる。即ち、新しいプロジェクトに対して管轄部署を明確に指定する法整備 があれば、革新的なアイデアを検討することが格段に簡単になり、様々な利害関係との衝突を起こすこともなくなる。新潟市は、多くの場合そうであるようにそ れが検討の初期段階であったとしても、重複する管轄部署を統合することが計画策定を支援するものであると理解している。

新潟市は、さらに増 加する高齢者層の生活をより健康で楽しいものにすることも目標としている。これは部分的には、高齢者によるウォーキンググループを作り、ウォーキングス ポットや寺院を巡るキャンペーンのような市の事業として組織化することを推奨することによって実現される。また高齢者は公共交通機関を利用することが多 く、市の史跡に対して個人的愛着心を持つ傾向がある。高齢者と新潟市の生活と健康事業との関わりを維持することによって、地域社会の保全に貢献し続けるこ とができるのだ。

久野教授のプロジェクトは、参加者、特に高齢者に対して、できるだけ多く歩くこと、そして歩数計によりその成績を追跡して それを「健幸マイレージ」という名称のポイント、即ち健康と幸福のマイレージポイントとして登録することを推奨している。試行中のいくつかの市では、店で の買い物時の割引にこのポイントを利用できるようになっており、例えば10kmのウォーキングの後で、飲む水を買ったりランチを食べたりするときにお金を 節約できます。参加者は、自分自身の健康状態をよりよく管理することもできる。

スマートウェルネスシティの考え方には、これ以外にも利点が ある。それは、新潟県三条市の市長の「数年前の市の中心を通る自動車用の広い道路計画の推進によって、狭い道や路地が失われてしまいました。しかし、多く の場合このような小さな路地こそがこの市特有の史跡への道になっているのです」という言葉によく表されている。このように、三条市における歩きやすさの改 善は、同時に史跡の保護と改良、市の特色の保全を意味している。

このほか三島市ではスマートウェルネスシティ計画の一環として、歩道ルート の拡大とそれに付随する小川の清掃を検討した。史跡ウォーキングルートは、日本でも有名な神社の一つである三島大社と、市の東部にあり最近再開発された泉 町を通り、道沿いに小川と草深い公園が併設されている遊歩道とを結んでいる。観光客は、様々な歴史地区に敬意を持って訪れ、商店街を探し、市の北側に向か い富士山の絶景を見ることができる遊歩道をハイキングながら一日に20kmも歩くこともある。これらのウォーキングルートは高齢者の利用が期待されている だけではなく、各地の観光ポイントは若い観光客を惹きつける魅力も持っている。

日本の小都市でよく見られる歩行者優先の歩車共存の街並み は、米国や他の国における郊外地域の街並みとは大きく異なる。このような街並みには住宅以外の施設もあり、食料品店や川沿いの公園での出会いなどによる住 民の交流もしやすくなっている。スマートウェルネスシティは、個人及び地域にとって大切な財産である住民の相互の敬愛と信頼育成を目標としているのだ。

省エネルギー建築 藤沢サスティナブル・スマートタウン・プロジェクト

全く異なるかたちの都市計画が神奈川県藤沢市で進められている。かつての工場用地で省エネで環境配慮型のまちをつくろうと、大阪に本社をもつパナソニックが計画しているスマートタウン・プロジェクトは、持続可能な建築、太陽光発電、電力配線、建築材料などの最新環境対策技術を用い、オフィス、商業地、病院などと繋がった住宅コミュニティを創造する。2018年までにプロジェクトを完成させ、将来的には他の造成プロジェクトのモデルタウンとしての役割を果たしていく。

異なる業界の9社のパートナー企業は、金融からプランニング、先端材料から省エネ技術に至るまで、それぞれ独自の専門的な開発ノウハウでこのプロジェクトに協力する。

およそ1000の住宅がセントラル・タウン・スクエアを中心にした都市計画に沿って広がり、ビジネスや商業用の建物は福祉施設やコミュニティ施設とともにその周縁に築かれる。

このプロジェクトのもっとも革新的な特徴は、各住宅に太陽光発電とエネルギー消費を抑える省エネ家電製品を備えることで、これにより、各家庭で必要量を上回り余剰となったエネルギーを生み出すことができる。各住宅には、すぐに使わない電力を貯めておける高容量の蓄電池が備えられ、これが住民に長期的には大きな節約を提供する。

コミュニティのインフラ設備には、エネルギーと情報ネットワークが一体化されたかたちで採用される。さらに各住宅それぞれには、スマートエナジーゲートウェイと呼ばれるコンピューターシステムに制御された冷暖房と省エネ家電製品が設備され、無駄を抑え最適化された状態を保つ。 これにより、各家庭は光熱費を抑えることができ、また、街全体では、二酸化炭素の放出を70%することが可能となる。

このスマートタウンにおける統合システムのもう一つの特徴は、ヘルスケアのモニタリングというサービスだ。各家庭ではメンバーそれぞれにその健康データがモニターされ、それぞれが必要に応じて適切なアドバイスを受けることができる。

また、各家庭の配電盤は、二酸化炭素の放出を抑えるための電気自動車の充電を可能とする設備も備える。 太陽光システムでの自家発電によって充電できるということは、電気自動車を所有するという選択肢をより気軽なものにする。

このプロジェクトが完成すれば、この街はエネルギーを自給自足できる手頃な値段の住宅の街となるだけではなく、世界で最も大きな個別配分型の発電システムとなる。

Fujisawaサスティナブル•スマートタウンは、単なるフィージビリティスタディというだけではなく、フルスケールの商業化プロジェクトである。工事が完了しても住民とともに成長し続けなければならない。このような理由から、藤沢SSTマネジメント会社を2013年3月7日に立ち上げ“持続可能なスマートな街づくり”において継続的なサービスを提供し続けていく。パナソニックは現在Fujiwasaサスティナブル・スマートタウンのコンセプトと手法を日本ひいては世界中の様々なプロジェクトのために積極的に展開している。



前へ次へ