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高効率で安全な水素燃料電池(仮訳)

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今後、さらなる性能向上の期待される燃料電池は、次世代の電源として大きな注目を集めている。世界各国で開発競争が繰り広げられるなか、京都に本拠を置くローム株式会社らが開発した固体水素源を用いたスマートフォン用固体型水素燃料電池は、画期的なコンパクトさを実現した。佐々木節がリポートする。

「呼び名こそ同じ電池ですが、水素燃料電池は内部に電気を蓄えておく乾電池や蓄電池とは原理が根本的に異なります。むしろ、水素をエネルギー源とする小さな発電機と考えてもらった方が理解しやすいかもしれませんね」

こう語るのは京都の半導体メーカー、ローム株式会社の研究開発本部で副本部長をつとめる神澤公氏である。水を電気分解すると水素と酸素が発生する。ごく簡単に言うと、水素燃料電池はこれとは逆の化学反応の過程で、水素から電気を取り出すシステムなのだ。

2012年9月、ロームと京都大学、そして、同じく京都にある燃料電池のベンチャー企業、アクアフェアリー株式会社の共同開発で発表したのが今回の固体型の水素燃料電池である。USB接続でスマートフォンに充電するタイプのものは、縦86×横52×厚さ19㎜と、掌にすっぽりと収まるサイズ。内蔵する水素発生カートリッジまで含めた重量もわずか73gにすぎない。ポケットや鞄に入れて持ち歩いてもまったく気にならないコンパクトさなのだ。

これまで開発されてきた水素燃料電池のほとんどは、水素をボンベに蓄えているため、重量やサイズが大きくなり、取扱も難しいという欠点を抱えていた。そのような中、この固体型水素源を用いた水素燃料電池では、水素ボンベではなく独自の技術でシート状に固形化した水素化カルシウムを内蔵するカートリッジを使用している。スマートフォン用で比較すると、この画期的な小型燃料電池は、既存のモデルに比べ、サイズでも、重量でも3分の1程度の小型・軽量化を実現している。

神澤氏は次のように語る。 

「水素化カルシウムに水を混ぜると、水素と水酸化カルシウムができます。水酸化カルシウム、いわゆる消石灰は、酸性化した河川や土壌の中和剤や、食品の凝固剤にも使われる安全な物質です。ただし、水素化カルシウムの粉末と水は一気に反応し、爆発的に水素を発生するため、これまで燃料電池には使うことができませんでした。しかし、われわれは、この水素化カルシウムを特殊な樹脂でシート状に固めた固体水素源を開発し、反応速度を数千分の1程度に抑制し、安全かつ安定して水素を発生させることに成功したのです。このほか、水素から効率よく電気を取り出す小型ユニットの開発、安定した電力を供給する半導体技術など、製品化への鍵となったのは、いずれもここ京都で生まれた独自のテクノロジーなのですよ」

交換式の水素発生カートリッジに収められた固体水素源のサイズは、縦、横ともに38㎜で、厚さはわずか2㎜。これに数CCの水を添加することにより、約4.5リットルの水素が発生し、スマートフォンをフル充電するのに十分な5Whr(ワットアワー)の電力を生みだす。稼働時の発熱量はごくわずかで、水素と空気中の酸素が結合して発生する水蒸気の量も赤ん坊の呼気程度。水素というと危険なイメージもあるが、これなら誰もが安心して使うことができる。しかも、内部に電位差があるので性能が徐々に低下していく乾電池などと違い、アルミラミネートで包装された水素化カルシウムは20年にわたり初期のエネルギーを維持することが可能。価格も、量産化によりデジカメなどに採用されているリチウムイオンバッテリーと同程度に抑えられるという。

ロームとその共同開発グループでは、この水素発生カートリッジの容量や反応速度を変えることにより、スマートフォン用の超小型タイプ以外にも、アウトドアや災害時の電源として期待される定格出力200Wの大出力タイプ、地震計などに長期間にわたって電気を供給できる発電量400Whrの大容量タイプなど、さまざまな水素燃料電池を開発している。これら3タイプを含め、今春の事業化計画を進めるため、市場サーベイ中である。ちなみにスマートフォン用の燃料電池は1回ごとにカートリッジを交換する使い切りタイプだが、大出力タイプはガソリン発電機などと同様、オン/オフの切り替えも可能。そうした使い勝手の良さ、さらには騒音や有害物質を排出しないクリーンな電源として、メイド・イン・キョートの新たな水素燃料電池に世界中のさまざまな機関や企業から熱い視線が注がれている。

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