Home > Highlighting JAPAN > Highlighting JAPAN 2012年11月号 > 心を豊かにする日本のデザイン(仮訳)

Highlighting JAPAN

前へ次へ

特集心を豊かにする日本のデザイン

心を豊かにする日本のデザイン(仮訳)

English

第2次世界大戦後、日本製品は、その品質の高さが評価され世界に広がった。さらには、現在、そのデザインにも注目が集まっている。それは、ファッション、家具、建築、食、生活などあらゆる分野にわたる。日本の多様なデザインに対する高い評価は、目で見える美しさ、ユニークさだけではなく、心地よさ、使い勝手、使い手への配慮といったものも含まれる。今月号の特集記事は世界に広がる日本人が生み出してきたデザインの歴史、特徴、役割、そしてデザインに懸ける人々の思いを紹介する。

2008年から2011年にかけて国際交流基金が主催する「WA: 現代日本のデザインと調和の精神」展(以下、「WA」展)が、フランス、ハンガリー、ドイツ、ポーランド、韓国と巡回し、各国で大きな反響を呼んだ。この展覧会では、食器、家電、文具、ウェア、乗り物などのフィールドから4人のキュレーターが選んだ商品約160点が展示された。

「近年生み出される日本のデザインには『調和』の精神が根底にあります。都市と農村、伝統工芸とハイテク、日本的なものと西洋的なものなど、一見離れているような事物が融合して、一つのモノとして実現しています」と「WA」展のキュレーターの一人、柏木博武蔵野美術大学教授は言う。「例えば、都市に住むデザイナーが、地方の伝統産業に携わる人と一緒になって、商品を作るといったことが、全国各地で行われるようになっています」

日本の現代のデザインには、いくつかの特徴がある。「WA」展では、およそ160の作品を、12のカテゴリーと6つのキーワードで分けて展示している。そのキーワードの一つが「かわいい」だ。「WA」展では、車、文具などの『かわいい』製品が展示されている。

「『かわいい』は、cuteと翻訳されますが、『かわいい』と表現されるデザインの範囲が非常に広がっています」と柏木教授は言う。「女性的、弱い、柔らかいといったものも『かわいい』のです」

その他、「クラフト」(照明や茶碗など伝統的な工芸を新しい技術や材料で製作されていること)、「きめ」(金属表面のヘアライン仕上げなど、製品にきめの細かさのあること)、「手ざわり」(製品の手触りにこだわりがあること)、「ミニマル」(シンプルで装飾のないこと)、「心くばり」(使う人に対する心配りがされていること)が日本のデザインの特徴として挙げられている。

「パリ日本文化センターでの展覧会を訪れましたが、来場者が非常に熱心に見ていたことが印象的でした。会場で元ポンピドゥー・センター館長のジェルマン・ヴィアット氏と会いましたが、彼は『素晴らしい、美しい』と絶賛していました」と柏木教授は言う。「また、展示している製品はどこで買えるかという声をたくさん聞きました。今後、優れたデザインをもつ商品を置いたショップが海外で増えて欲しいです。例えば、日本の家具は世界的なレベルと言えますので、これからの可能性に期待したい」


日本のデザインの美

こうした日本のデザインの特徴は、どのような歴史的な背景から生まれているのだろうか。劇作家の山崎正和氏は、明治時代(1868-1912) 以前に形作られた日本の伝統的デザインの美の特色を三つ上げている。一つ目は、「小さなものへの愛着」だ。日本人は、手元にある、小さな物を大事にしてきた。根付け、盆栽、茶碗などがその例に挙げられる。二つ目は、「生活の中の美」だ。日本では、美を庶民の生活の中に取り入れていた。漆器などの器や浮世絵など、生活の中の美が日本にはあった。

三つ目は、「手で動かして鑑賞」出来ることである。西洋では芸術作品を離れて鑑賞するが、日本の伝統工芸品は、手で動かすことが出来る、あるいは、手にして楽しむことが可能だ。日本では純粋美術と応用美術に境目がないと山崎氏は指摘する。例えば、扇子は日本で発明され、その後中国や西洋に伝わった。手で持ち運べるサイズで、あおいで使う物だが、扇子の扇の面に装飾を施せば高級な美術品にもなる。日本の伝統美のデザインは、ヨーロッパのデザインにも影響を与えた。19世紀中頃から、ヨーロッパの芸術に、日本の浮世絵や工芸品に影響を受けた「ジャポニズム」が流行する。例えば、アールヌーヴォーに見られる曲線美、自然美もジャポニズムの影響である。

こうした日本のデザインの長い歴史が、現代の日本のデザインを支えていると言えるだろう。

前へ次へ