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Highlighting JAPAN

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連載|日本の博物館・美術館

根津美術館/原美術館(仮訳)

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東京は、数多くの美術館を含めて、文字通り何百もの博物館がひしめく宝庫となっている。ジュリアン・ライオールが、そうした東京の美術館の中でも二つの対照的な珠玉の存在である根津美術館と原美術館を訪ねた。両美術館ともに、東京都心で、落ち着いた周辺環境の中にある。

根津美術館

日本やアジア全般の古代から前近代の美術作品をこよなく愛でる者は、根津家に感謝しなければならない十分な道理がある。

実業家の根津嘉一郎は、20世紀初等の時期に自費を投じて日本美術の名作を購入した。その当時、日本美術はこの国ではほとんど関心が払われず、海外の収集家が先を争って買っていたのである。1940年に彼が他界すると、その後嘉一郎という同じ名前の息子が、池や茶室が散在する庭に囲まれた、青山にある一家の広大な住居の敷地に根津美術館を開館した。同家三代目の根津公一が先代たちの仕事を引き継ぎ、収蔵品は7,400点にまで拡大した。その内容は、書蹟から絵画、彫刻、陶器、漆器、金属細工、竹細工、織物に至るまで多岐に及んでいる。

「収蔵品の中から最高傑作を一つ選ぶのは難しいことですが、最も有名な作品の一つは燕子花が描かれた屏風です」。こう語るのは、同美術館の学芸課長を務める白原由起子氏である。この六曲一双屏風は、1705年頃に尾形光琳によって描かれたもので、まさに目を見張る素晴らしさだ。もう一つの特筆すべき作品は、鎌倉時代(1185年−1333年)後半に描かれた「那智瀧図」という神道絵画である。

根津美術館では、一度に200から300の作品を展示することが可能で、毎年七回も展示内容を変更している。もっとも、展示室4に飾られている見事に保存された古代中国の青銅器といった一部の作品は、常時展示品となっている。展示品の中には、紀元前13世紀まで遡るものも存在する。展示室6では、茶道で使われる品々がまとめて展示されている。それらの展示品は季節に合うよう選ばれたもので、絵画や陶器、漆器なども含まれている。全体の収蔵品は、隈研吾が設計した魅力的な建物の中に展示されている。

2万平方メートル以上の広さがある庭園には、別の美術作品コレクションが存在している。四棟もの茶室が、主要棟の下方にある池の土手に沿って佇んでいる。入念に手入れが施された庭園を通る道には、ところどころに仏像や見事な作りの彫刻が点在し、目の当たりにするたび驚かされる。

この美術館の全てが、かつての根津家住居の周辺に成長してきた、おしゃれでにぎやかな青山地区とは別世界に見える。


原美術館

1979年に最初に開館した当時、原美術館は日本の現代美術に焦点をあてた最初の美術館の一つだった。それから30年以上を経た今、この美術館は今でも新たな境地を拓いている。

「30年前の現代美術とは基本的に戦後の西洋美術に影響されたものだとみなされていました」と同美術館の学芸統括である安田篤生氏は話す。「しかし、それ以降世界は著しく変わっています。日本の社会と文化は、現代美術に関して他のアジア諸国にますます注目しているのです。現代美術シーンは、今は東西や南北が混ざり合った本当の意味でかなりグローバルなものになっています。ここでの展示も、そうした状況を示すことができればと願っています」

展示室や庭園を観てまわると、この美術館の哲学が如実に示されていることが分かる。

アフガニスタン人アーティストのカディム・アリの作品は繊細かつ精緻なもので、紙の上にあしらった金箔を使い四つの作品を通して一つの物語を語っている。これらの展示品は、11月18日まで開催されている「ホームアゲイン−Japanを体験した10人のアーティスト」展の一部となっている。この展覧会の別の作品は、インドネシアを拠点とするデュート・ハルドーノによるインスタレーションである。「人気者の批評家(Popular Critics)」というタイトルのこの作品には、古めかしいリール式テープレコーダーが使われており、テープが金色の猫像にぐるぐる巻きとなり、群衆が拍手する音が再生されている。

彫刻庭園は東京の中心にある明るい緑のスペースで、常時展示品が展示されている。「不完全な立方体」は、ソル・ルウィットが1971年に制作した白いペイントのアルミニウム製フレームである。三島喜美代のNewspaper-84-Eは、『ニューヨークタイムズ』紙1984年8月31日版の第一面を拡大して見せる大判セラミック・シルクスクリーン作品である。

庭園は、美術館建物の角に寄り添うように広がっている。建物の中には、この敷地に立っていた1938年建造の当初の住居もある。東京国立博物館の設計で有名な渡辺仁の現存する数少ない作品の一つであるこの建物は、ヨーロッパ様式を取り入れた昭和(1926年−1989年)初期の建築をよく捉えたものとなっている。

「建物のデザインはユニークで、美術作品を鑑賞する素晴らしい雰囲気を醸し出しています」と、安田氏は語る。「1970年代以降、芸術家は自分たちの作品を展示するスペースへの意識がかなり先鋭になっていますが、それがアーティストとしての表現の一部になっているのです」

原美術館には、前途有望なアーティストのものを含む現代美術の最前線を代表する1,000以上の作品が収蔵されており、年に4~6回ほど展示内容を変えている。

ここは、何度でも来たくなる美術館だ。

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