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連載|科学・技術

宇宙の「しずく」(仮訳)

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水の惑星といわれる地球に生きるあらゆる生物は、海洋・陸地・大気を循環する水の動きによって生命を支えられている。こうした地球規模での水の循環を観測するため、今年5月に打ち上げられたのが人工衛星「しずく」である。佐々木節が報告する。

「大雨と干ばつが異なった地域で同時に起こったり、猛烈な熱波や竜巻が発生したり、地球環境が昔とは明らかに変わってしまったと感じている人も多いのではないでしょうか。そうした変化を地球規模の広い範囲で、長期間・継続的に観測していこうというのが『しずく』の目的です」

こう語るのは宇宙航空研究開発機構(JAXA)で「しずく」のプロジェクトマネージャを務める中川敬三氏である。(「しずく」とは日本語で、したたり落ちる液体の粒を意味する。)

今年5月、種子島宇宙センターから打ち上げられた「しずく」は、地球環境変動観測ミッション(GCOM)を行う人工衛星のひとつで、マイクロ波で観測を行うGCOM-Wシリーズの1号機である。いちばんの特徴は直径2mもある高性能なマイクロ波放射計のアンテナを搭載していること。このセンサーは地球表面の水分子が放射する微かなマイクロ波を上空約700kmの宇宙空間でキャッチし、海面水温を誤差0.5℃の精度で測定できるほか、大気中の水蒸気量、降水量、積雪量、海の氷の分布、土壌に含まれる水分なども観測できるようになっている。

アンテナも含めて約200kgの重量をもつ「しずく」のマイクロ波のセンサーユニットは、1.5秒で1回転し、1回転につき約1450kmという幅で地球の表面を走査する。そして、地球を約100分で一周する「しずく」は、ほぼ2日で地球全表面のほとんどすべてを観測することができる。

「もちろん地上にも無数の気象観測点はありますが、それらはあくまで点にしかすぎません。とくに海上は観測施設が少ないので、そこを面として途切れなく観測し続けられるのが『しずく』の最大の強みと言えるでしょう。しかも、気候が変わると水循環は敏感に反応するので、観測データを使うことにより、将来の気候変動もより正確にシミュレーションできるようになります」と中川氏は言う。

打ち上げ後、順調に地球を周回し、観測システムのテストを行った「しずく」は、その後、約1か月半かけて軌道を修正し、NASAが主導するA-Trainという地球観測衛星隊列に加わった。これはわずか数分間隔でほとんど同じ周回軌道を飛ぶ人工衛星の集団で、常に13時30分前後に赤道上空を通過することからA-Train(AはAfternoonに由来)の愛称で呼ばれている。現在、A-Trainを構成するのは「しずく」も含めて5基の人工衛星。多くのセンサーを搭載するには相当大きな人工衛星を打ち上げなければならなかったが、その役割を複数の観測衛星で分担しようという国際的プロジェクトである。

「A-Trainの意義は、ほぼ同じ時刻に同じエリアを、まったく種類の違うセンサーを使って観測できる点にあります。こうした集められたデータを共有することにより、たとえて言うなら、1枚の平面写真のようにしか見えなかった地表の様子が、まるで立体的な映像のように詳しく見えてくるのです」と中川氏は言う。

「しずく」はこれから5年間にわたり運用が続けられ、そのあとは2号機、3号機へと役割を引き継いでいく予定になっている。こうして十数年にわたり絶え間なく集められる観測データは、地上からでは気付かない気候変動の兆候もしっかりとらえてくれるはずだ。また、「しずく」の処理データは、研究機関や運用機関だけでなく、ウエブサイトなどを通じて、観測後すぐに、一般にも公開されていく。こうしたデータを活用すれば、世界各地の天気予報の精度を大幅に向上できるほか、農業や漁業、運輸業や観光業など、人の生活と密接に結びついた産業分野でも大いに役立つことが期待されている。

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