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Highlighting JAPAN

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特集国際社会における日本のグローバル人材育成

カブリ数物連携宇宙研究機構(仮訳)

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東京都心から電車で30分程の郊外にある東京大学柏キャンパスに、カブリ数物連携宇宙研究機構(カブリIPMU)がある。そのカブリIPMUの建物の中心に位置するのが、広々とした交流スペース「ピアッツァ・フジワラ」だ。午後3時のチャイムが鳴ると、ここに研究員が集まってくる。「ティータイム」の時間だ。研究員は、飲み物やお菓子を楽しみながら、自由に会話をする。

「研究をしていると、どうしても煮詰まる時があります。そうした時に、他の人と話す、あるいは、意見をもらうといったことで、自分の研究が次のステップへと進むきっかけになることが、しばしばあるのです」とカブリIPMUの機構長の村山斉氏は言う。「この『ティータイム』を、そうしたブレークスルーが起こる場にしたいのです」

カブリIPMUは、文部科学省の事業である「世界トップレベル研究拠点プログラム」の研究拠点の一つとして、2007年に設立された研究所で、数学、物理学、天文学などの専門家が集まり、宇宙の起源や未来、宇宙を構成する物質といった謎を解明することを目的にしている。数学、物理学、天文学など異分野の専門家が、宇宙に関する共同研究を行うことは世界的にも数多く行われているが、そうした研究者が一カ所の研究所に集まって研究を行っている例は、世界的にも希だ。

カブリIPMUの重要な研究テーマの一つが、「暗黒物質」だ。例えば、暗黒物質は、宇宙のどこに、どれくらい広がっているのか謎であったが、今年2月、暗黒物質が宇宙全体に広がっていることをカブリIPMUの研究者が参加する研究チームが世界で初めて明らかにするなどの成果があがっている。

カブリIPMUは、「暗黒物質」に関しては、ハワイ島の「すばる望遠鏡」や、岐阜県の「XMASS実験施設」などの施設も活用した研究にも取り組んでいる。

カブリIPMUには世界を代表する研究者が国内外から集まっており、現在69名の専任研究員のうち、38名が外国人だ。機構長の村山氏も、1993年以降、アメリカで素粒子理論の研究を行ってきた。現在もカリフォルニア大学バークレー校物理学科教授を兼任しており、日米を頻繁に往復する生活を送っている。

機構長としての重要な役割の一つは、優秀な研究者を集めることだ。そのために、村山氏は、自らが直接、あるいは知人の紹介を通して、これまで世界中の数多くの研究者にコンタクトをとり、カブリIPMUでの研究を誘ってきた。また、国内外のマスメディアや学会でもカブリIPMUを積極的にPRしている。

カブリIPMUでは、外国人が日本で生活することのバックアップにも力を入れている。例えば、カブリIPMUのウェブサイトには、子どもの教育や医療に関する情報を英語で詳細に説明されている。また、銀行口座を開く、携帯電話を持つ、住む家を探すといった日本で生活を始めるに必要な準備をサポートするスタッフも配置した。

「これまでは、多くの外国人研究者が、文化や言葉が異なる日本で生活することへの不安、日本で研究することで成果を得られるかという不安を持っています。そうした不安を払拭し、研究者の信頼を得ることに力を注ぎました」と村山氏は言う。「創設から約5年が立ちますが、幸い、研究成果も数多く生まれ、海外の研究者から、カブリIPMUでの研究が、キャリアアップにつながるという評価を受けるようになってきました」

日本に住む、カブリIPMUに属していない日本人研究者にとっても、カブリIPMUが、海外から研究者と交流するための「窓口」になっている。さらに、カブリIPMUの大学院生は、日常的に外国人研究者と接することで、英語能力のアップや海外とのネットワークを広げることにつなげている。実際、カブリIPMUの博士課程に在籍した日本人学生が、カブリIPMUでの人脈を活かし、ポスドクとして、海外のトップレベルの大学で研究を続けるという例も生まれている。村山氏は、このように日本人の若者が様々な国の人々と交流することで、これまで以上に世界の学問の発展に大きく貢献できると考えている。

「日本人のみで生活をしていると、自己充足してしまうために、他人にアピールする力が養われないということがあります。例えば、外国人に普段から接する環境を作ることで、そうした能力を自然と身につけることは重要でしょう」と村山氏は言う。「日本は今後、少子化がさらに進みます。経済の活力を維持するためにも、日本人や日本社会がグローバル化する必要があると私は思います」

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