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Highlighting JAPAN

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連載|日本の伝統を受け継ぐ外国人

手漉き和紙の伝統美に魅せられて(仮訳)

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高知県梼原町の山間部に、オランダ人、ロギール・アウテンボーガルト氏が民宿を兼ねた和紙工房を構えている。山田真記が工房を訪ねた。

アウテンボーガルト氏が和紙に出会ったのは、今から30年以上も前のことだ。当時、アウテンボーガルト氏は、オランダの製本会社で働きながら、夜は、モダンアートを学ぶため、美術大学に通うという日々を送っていた。そんなある日、たまたま職場にサンプルとして置かれていた和紙を目にして、瞬間的にその魅力の虜になったという。

「一目見て、言葉には出来ない和紙の美しさに心を奪われました。こんな紙を自分の手で作ってみたいと思ったのです」とアウテンボーガルト氏は振り返る。「それまで日本の文化や伝統にはほとんど関心がなかったのですが、すぐに日本に行こうと、その場で決意しました」

和紙と出会って1年も経たないうちに単身で来日した。そして、アウテンボーガルト氏は、日本各地の和紙の産地を訪ね歩いた。10カ所以上の産地を見て回り、和紙職人の仕事ぶりも学んだ。和紙は地域により製法や材料も異なり、肌触りや色も様々だ。産地巡りの途上では、現在の奥さんの千賀子さんとも出会う。こうした中で、彼は和紙の魅力の奥深さに、さらに引きつけられていく。

「1,500年もの歴史を有する和紙には、産地の文化や歴史を感じさせる要素が深く刻み込まれています。日本の伝統的なもの作りの中でも、手漉き和紙作りのプロセスは、山や川など、自然との関わりが非常に深い」とアウテンボーガルト氏は言う。「和紙を見ていると、そんな自然の風景さえ見えてくるように感じるのです。和紙は、その土地の自然や暮らしの中から必然的に生まれた貴重な文化と言っていいでしょう」

アウテンボーガルト氏が高知県梼原町で工房を構えたのは1992年のことだ。高知県は1000年以上の歴史を持つ土佐和紙が作られており、かつて梼原町はその原料となるコウゾ、ミツマタの産地であった。工房のある梼原町の太田戸地区は、戸数わずか25戸、人口は50人ほどだ。しかも住民のほとんどは65歳以上の高齢者となっている。

「この地域には、棚田など、かつては日本各地で見ることが出来た、日本の原風景が今も残っています。まずこの点に私は惹かれました」とアウテンボーガルト氏は言う。「さらに、四万十川の源流に位置するこの町には、和紙作りに欠かせない水や和紙の原料となるコウゾ、ミツマタが豊富にある。ここは工房を構えるのに最適な土地なのです」

虫食いや湿気から守れば千年以上持つと言われる和紙は、掛け軸や書画といった日本の古美術のほか、現在はランプの傘やペーパーアートの素材などにも使われている。しかし一方で、他の多くの伝統工芸と同様、和紙作りも、後継者の減少により年々衰退しつつあるのが現状だ。そこでアウテンボーガルト氏は、民宿の宿泊者を対象とした和紙作り体験プログラムや、地元の小学校の授業の一環として和紙作り教室を行う事で、和紙の魅力を積極的に発信している。さらには、東京に出向き、ビルの屋上で和紙の原料を栽培しながら和紙作りのワークショップを開催することもある。こうした努力の甲斐もあって、昨年には日本人女性の見習いを得ることが出来た。また、インターネットの情報を頼りに工房を訪れる外国人観光客もいる。

「オランダのほか、アメリカや中国、オーストラリアといった国々からの観光客が和紙作り体験を目的に私の工房を訪ねてきます。東京や京都にプラスして、もう一つの日本の姿を見たいという人が多いようですね」とアウテンボーガルト氏は言う。「和紙作り体験では、原始的とも言える作業が面白いようで、日本人と同じくらいに和紙作りを楽しんでいます」

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