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連載|科学・技術

藻から作る航空バイオ燃料(仮訳)

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世界でバイオ燃料の開発が進む中、藻を使い、世界でも最高水準の低コスト・高効率で生産された航空機向けのバイオ燃料が、今年、実用化する。佐々木節が報告する。

航空機は、自動車、鉄道、船といった輸送機関に比べると、二酸化炭素(CO2)の排出削減対策で大きな遅れをとっている。航空機は機体の総重量の制限から、動力源として、電気を充電したバッテリーを積み込むことが極めて難しく、燃料として、石油を由来とするジェット燃料を使わざるを得ないからだ。そうしたことから、航空機からのCO2排出を抑える現実的な手段として、既存のジェット燃料に替わる、バイオ航空燃料の研究開発が世界で行われている。

そのようなバイオ航空燃料の開発において、大きな成果を上げているのが茨城県の筑波バイオテック研究所である。バイオ燃料の原料にはトウモロコシやサトウキビ、大豆やパーム油、廃材や家畜の糞尿など様々あるが、ここで研究しているのは微細藻類、すなわち水中で成長する藻の一種だ。

「われわれが発見し、New Strain X(以下、NSX)と名付けた微細藻類は、淡水に生息し、増殖速度が大きく、含油率が70〜80%と非常に高いことが大きな特徴です。油成分の抽出は穀物などに比べると容易です。しかも、その組成が航空燃料に非常に適しているのです。」と筑波バイオテック研究所の社長であり、筑波大学名誉教授の前川孝昭氏が語る。また、前川氏は、「藻類を利用したバイオ燃料の開発は世界各国で進められていますが、そのほとんどは広大なスペースで藻を育てることによりコスト低減をめざしています。一方、われわれは他の雑菌などが混入しにくいビニールハウス内の培養施設において、日中は太陽光、夜間は藻類の成長に適した新開発のLEDを使って育てます。手間やコストはかかりますが、そのぶん時間あたり、面積あたりの収穫量は飛躍的に大きくなりますので、十分コストに見合ったバイオ燃料を生産することができるのです」と説明する。

筑波バイオテック研究所が手がける藻類バイオ燃料は、前川氏が筑波大学退職後、企業側のプロジェクトリーダーとして、2009年に4つの大学と産学連携共同研究をスタートした。現在では航空燃料を扱う商社や農業生産法人などもプロジェクト共同体に加わり、今年6月からはバイオ燃料製造の試験操業を茨城県のプラントで始めることになっている。このプラントでの年間生産量は当面3000キロリットル、最終的には9万キロリットル以上をめざし、来年1月からは羽田空港と成田空港に供給され、既存の航空燃料に混合されて実際に使われる予定にもなっている。

前川氏の構想では、100ヘクタールの培養施設(農地)と燃料製造工場一つをセットで、国内各地に点在する主要空港の近くに作り上げ、航空機の運航に必要な燃料を生産していく。

NSXの培養施設の場所は農家の高齢化や東日本大震災で発生した耕作放棄地を活用することも考えられている。穀物から作り出されるバイオ燃料と違い、食糧危機や森林破壊につながる可能性はまったくない。また、NSXから抽出される藻油は航空燃料ばかりでなく、ディーゼルエンジンや火力発電所の燃料にも応用することができる。もし、日本の耕作放棄地全体の4分の1、10万ヘクタールをNSXの培養施設に転用できれば、1年間に生産できるバイオ燃料は5760万キロリットル、培養施設や燃料製造工場などで生みだされる新たな雇用は42万人にのぼるという試算もある。地球温暖化の防止やエネルギー資源の確保だけでなく、新たな雇用創出や産業の活性化という面からも、前川氏らのプロジェクトは大きな注目を集めている。

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