Home > Highlighting JAPAN > Highlighting JAPAN 2012年2月号 > どこでも宅配便(仮訳)

Highlighting JAPAN

前へ次へ

特集世界に広がる日本のサービス

どこでも宅配便(仮訳)

English

ヤマト運輸が一般消費者向けの宅配便事業を他社に先駆けてスタートさせたのは1976年のことだ。その利便性と迅速性が大いに受け、宅配便は1980年代から日本全国に急速に広がった。宅配便の日本最大手であるヤマト運輸は2010年から海外進出を開始し、目下シンガポール、上海、香港、マレーシアで事業を展開している。日本で36年間にわたって培ってきた宅配便サービスを海外でどのように活かしているかを、松原敏雄がレポートする。

日本ではかつて、個人が荷物を送るためには、郵便局まで出向かなければならなかった。しかし、1976年、民間企業として初めて、ヤマト運輸が個人でも簡単に荷物を送ることが出来るサービス「宅急便」を関東地方でスタートさせた。

これは、荷主の家やオフィスまで集荷に出向き、 届け先に直接、荷物を手渡すというものだ。その後、大手の運送会社も宅配便事業に続々と参入、宅配便のサービスは全国へと広がった。その中で、発送窓口が酒屋やコンビニエンスストアなどの商店にも拡大して集荷の間口がさらに広がるとともに、生鮮食品や冷凍食品を送ったり、スキー場やゴルフ場にあらかじめ用具を送っておき現地で受け取るなど、様々なサービスが生まれている。

多くの企業が国内で宅配事業を行う中、ヤマト運輸は一般消費者向けの宅配便のサービスを海外でもスタートさせた。2010年1月にシンガポールと上海で、翌2011年2月にはホンコン、そして9月にはマレーシアでの宅急便事業をスタートさせた。進出先を決定する際の決め手は経済発展が著しい国であること、そして人口が多いことの2点である。そうした状況下では、必然的に物流の動きが活発になるからだ。

もっとも、ヤマト運輸が日本で宅配便をスタートさせた当時とは違って、今ではどの国にもすでに宅配サービスは存在している。「私たちは後発企業です。そんな状況下で私たちが強くアピールしたのは、ただ物を配達するだけにとどまらない、日本流のサービスの質の高さです」と同社グローバル営業部の熱海圭一郎氏は語る。

営業は年中無休で、お届けの希望日と時間帯を細かく指定できる「時間帯お届けサービス」、冷蔵・冷凍品にも対応する「Cool TA-Q-BIN」、不在票による無料の再配達サービス、お届けと同時に代金を回収する「TA-Q-BIN Collect」など、日本と同じ細かい宅配サービス が現地にもそのまま導入された。

ハンドルを握るセールスドライバー(SD)の教育にあたっては、日本から選りすぐりのトレーナーを送り込み、丁寧な接客態度がいかに重要であるかを、ほぼマンツーマンで教え込んだ。例えば、荷物の配送先に「ありがとうございました」と声がけするのも、当初はなぜお礼をいうのか理解されなかったという。大事なのはお客様に喜んでいただくサービスを提供すること、そのために声がけは欠かせないことを例として挙げながら、日本流のサービスというものを身に付けていってもらったという。

初期の認知度アップに効果を発揮した一例として、シンガポールで実施したアイスクリームのプレゼントキャンペーンがある。一般消費者を対象に冷凍食品を送るというサービスがシンガポールには存在せず、冷たいアイスクリームが自宅に配送されることが大きな話題を呼んだ。

他にも、指定時間通りに荷物が届く正確さや現地の宅配業にはない接客態度の良さなどが評判となり、荷物の取り扱い量は前年比10倍以上と、短期間で大幅に伸びた。

これらの国々では、日本にはないサービスもある。例えば、SDは届けた荷物がその場で開けて確認されるまで必ず待機する。荷主によっては、受領書を届けるよう要求することも多いという。「裏を返せば、物流のシステムに対する消費者の信頼が、一般的にまだ十分に浸透していないのです。ヤマト運輸ではそういうトラブルは起きないということをお客様に信頼して頂く必要があります。そのために、配送の流れを荷主のコンピュータ上でも確認できるシステムも導入し始めています」

熱海氏はこうも語る。

「日本流のおもてなし、ホスピタリティの高さというものを、とても重要視しています。そうした独自のサービスを通して、私たちの宅急便はただ荷物を届けるだけではない、ということを感じていただきたいのです」

前へ次へ