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Highlighting JAPAN

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特集伝統と最新技術で守る建築

耐震建築を世界へ(仮訳)

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地震の多い日本では、建造物の安全性を高めるための技術が発達してきた。さらに、その技術を数多くの海外の国々に提供している。ジャパンジャーナルの澤地治が、そうした事例の中から、国際協力機構(JICA)が中国で行っている耐震建築プロジェクトを報告する。

2008年5月、中国四川省で発生したマグニチュード7.9の四川大地震は、死者・行方不明者約8万7千人という深刻な被害を引き起こした。

日本政府は四川大地震の後、復興支援に関して中国政府と協議を行い、被災者の心のケアや災害医療システム構築支援などの「健康・福祉」、学校・病院の復旧や防災教育支援などの「社会・文化」、被災産業への復興支援などの「産業・雇用」、地震防災研究協力やダム・堤防の復旧支援などの「防災」、ライフラインの復旧支援や新たな都市建設支援などの「まちづくり」という5つの柱を中心に、具体的な協力を推進する方針を決めた。

政府開発援助(ODA)の実施組織である国際協力機構(JICA)は、この5つの柱に基づき、四川大地震で崩壊した森林の復旧、地震後の救急援助技術の向上、被災者の心のケアを行う人材の育成など様々な支援を行っている。

2009年からスタートした「耐震建築人材育成プロジェクト」も、その一つだ。「このプロジェクトでは、建築構造技術者や建築を担当する行政官など建造物の耐震性の強化に資する人材の育成を目的にしています」とプロジェクトリーダーの浅見真二氏は言う。

プロジェクトでは、中国から研修員を招き、茨城県つくば市の建築研究所で鉄筋コンクリート造りの建物の耐震診断や補強方法を指導したりなどの研修を実施している。同時に、現地中国に耐震設計、防災計画などの専門家を派遣し、直接指導を行っている。

建物の安全性を高める日本の技術の中でも、特に中国側が高い関心を寄せているのが、地面と建物の間に積層ゴムなどの装置を設置して、地震の揺れを伝わりにくくする「免震」、建物内部に揺れを吸収するダンパーなどの装置を設置し、揺れを吸収する「制震」、また、既存の建物のフレームの内側(柱と柱の間など)や外側(壁面)に取り付ける鉄骨ブレース(筋違い)を使った「耐震補強」などだ。

プロジェクトでは、日本で研修を受けた中国人を、中国で行われる研修の講師として積極的に活用している。例えば日本では、地震の被害を受けた建築物に対して、被害の程度により、専門家が「要注意」、「危険」といったステッカーを貼り付ける「応急危険度判定」という制度が整っている。四川大地震の後、余震による建物崩壊で死傷者が発生したことの教訓から、プロジェクトでも応急危険度判定の研修が実施されたが、中国で行われた研修の講師は、日本での研修に参加した中国人であった。

3月11日に発生した東日本大震災の経験も、プロジェクトに反映されている。震災後、今年11月までに日本で行われた3つの研修プログラムには、東北の被災地視察が組み込まれた。58名の中国人研修員は津波の被害を受けた岩手県陸前高田市、釜石市、宮古市などの被災地を訪れている。

「研修員は、津波による被害の大きさに大きな衝撃を受けていましたが、揺れによる建物被害がそれほど深刻ではなかったことに、感銘を受けていました」と浅見氏は言う。「水道や道路といったライフラインの復旧も早いという感想も述べていました」

これまでに、日本での研修に約230名、中国国内の研修に約6500名が参加している。プロジェクトは2013年までの予定だが、今後、中国人自らが耐震技術を普及できるように、講師の育成、教材の作成、耐震に関わる基準の改定といった支援にも力を入れる予定だ。

「幅広い分野で継続的に人材育成が出来るシステムを作りたいです」と耐震建築の専門家としてプロジェクトに参加している関松太郎氏は言う。「これから中国を背負っていく次世代の技術者に私の知識が伝わり、中国の地震被害の軽減につながれば、これほど嬉しいことはありません」

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