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スーパーコンピュータ「京」(仮訳)

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2011年6月、ドイツのハンブルグで開催されていた「第26回スーパーコンピューティング会議」で、理化学研究所と富士通が共同開発しているスーパーコンピュータ「京」が計算速度の世界1位を獲得した。「京」の性能、期待される成果についてジャパンジャーナルの澤地治が報告する。

兵庫県神戸市の人工島「神戸ポートアイランド」に、理化学研究所計算科学研究機構(AICS)がある。このAICSに、世界一の計算速度をもつスーパーコンピュータとして2011年6月に認定された「京」が設置されている。

建物の3階の、縦横約50メートル四方の広さの部屋に、1体の高さ約2m奥行き約1m、横幅80cmの「京」の計算筐体が、864筐体ずらりと並んでいる。高性能のCPU(中央演算処理装置)が組み込まれた、この計算筐体一つ一つがすべてネットワークで結ばれているので、膨大な計算を瞬時に行うことが可能なのだ。6月の時点での「京」の計算速度は8.162ペタプロップス(コンピューターの計算速度を表す単位。1ペタプロップスは、1秒間で1000兆回の計算ができること)であったが、これはその時点で揃っていた672筐体の計算筐体によって達成された。10月には864筐体全てによって10ペタプロップスを達成した。10ペタプロップスの計算速度とは、1京(10の16乗)回の計算をわずか1秒間で行うという速さである。「京」という名前は、10の16乗を表す漢字の単位「京」に由来する。

現在、AICSは来年11月の供用開始に向けて、ソフトフェア開発を進めている。「スーパーコンピュータは現在、科学や製造業などあらゆる分野の研究開発に不可欠なものとなっています」と「京」の開発を進めてきた次世代スーパーコンピュータ開発実施本部の渡辺貞プロジェクトリーダーは言う。「スーパーコンピュータは国のインフラとして非常に重要です。そのため、日本だけではなく、アメリカ、中国、フランス、ロシアなどの国々が開発にしのぎを削っています」

渡辺氏は、2002年から2004年まで、当時世界一の計算速度を持っていた神奈川県横浜市に設置されているスーパーコンピュータ「地球シミュレータ」の開発を担った後、「京」の開発に参加した。

「地球シミュレータ」は数々のシミュレーションで世界的な成果を上げてきた。特に地球規模での気候変動のシミュレーションの結果は、2007年にIPCC(気候変動に関する政府間パネル)が発表した第4次評価報告書作成に活用され、同年のIPCCのノーベル平和賞受賞に大きく貢献した。

「気候変動の予測は、メッシュを細かくすればするほど正確になりますが、メッシュが細かくするのに対応して、それに対応できるスーパーコンピュータの計算処理能力も必要になります」と渡辺氏は言う。「『京』によって、より正確な気候変動のシミュレーションが可能になります」

「地球シミュレータ」の場合、気候変動の計算は、約10km四方のメッシュで計算をしたが、「京」では、より細かい1km四方以内のメッシュでの計算ができる。それにより、地球規模の気候変動の予測だけではなく、日本の都市部で近年頻発する集中豪雨の予報にも役立つと考えられている。

医療や製造業への貢献

現在、ライフサイエンスとナノテクノロジーに関する研究分野で、「京」の利用が始まっている。また、来年以降は、政府が決定した次世代スーパーコンピュータ戦略分野、「生命科学・医療」、「新物質・エネルギーの創成」、「地球変動の予測」、「次世代ものづくり」、「物質と宇宙の起源と構造」で重点的に利用が進められる予定だ。

例えば、医療分野ではガンや心臓病などの病気の治療薬の研究に利用される。人間の人体は膨大かつ多様なタンパク質で構成されている。病気は、こうしたタンパク質の働きが異常になることが原因と考えられている。そうした異常になったタンパク質に結合し、薬効を発揮する化学物質が治療薬となる。これまでは、動物実験や臨床実験に、長い年月と膨大な費用を使い、薬効や副作用を調べていた。しかし、「京」を使うことによって、結合の可能性を持つ化学物質の設計を計算し、その効果をシミュレーションすることが可能になる。それにより、治療薬の開発期間の短縮や開発コストの削減にもつながるのだ。

その他、飛行機などの輸送機器の低騒音化、太陽電池の高性能化、津波予測の高精度化、ブラックホール誕生課程の解明などの研究が「京」を利用して行われる。

「スーパーコンピュータは人々の生活をより良くするために必要な道具なのです」と渡辺氏は言う。「今後、『京』の100倍の能力を持つスーパーコンピュータの実現も目指していきたいと思っています」

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