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Highlighting JAPAN

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特集次世代エネルギーへの挑戦

震災後の日本のエネルギー(仮訳)

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日本はこれまで、科学・技術の発達を通して、エネルギー源の開発、エネルギー効率の向上を達成してきた。東日本大震災以降に課題となっているエネルギー問題に対応するために、どのように科学・技術を発展させるべきかを、新日本製鐵の元副社長を務め、長年にわたって鉄鋼に関する研究開発に携わってきた奥村直樹総合科学技術会議議員にジャパンジャーナルの澤地治が話を聞いた。

──東日本大震災により、日本のエネルギー供給はどのように変わるでしょうか。

奥村直樹:大きな流れとしては、太陽光や風力など、発電時にCO2を排出しない再生可能エネルギーの割合が増えていくことになるでしょう。しかし、再生可能エネルギーには発電量が天候に左右されるという欠点があります。現在の技術では、日本の電力全てを再生可能エネルギーで賄うことはできません。日本は島国で、ヨーロッパの国のように、送電線を使って他国から不足分の電力を輸入することもできないので、当面の間は、石油や石炭の火力発電や原子力発電も利用し続けることになります。

電力問題を考える時に重要なのは、Energy security(エネルギー安全保障)、Environmental protection(環境保護)、Economic sustainability(経済的持続性)の3Eです。これらを考慮に入れ、国全体で必要な電力量を、一年を通して安定的に確保することが、日本の経済にとって極めて重要なのです。

──原子力発電については、奥村様はどのようなお考えでしょうか。

発電時にCO2を排出せず、安定的に一定量の電力を供給できるのは、現状では、原子力発電、地熱発電など限られた発電方法しかありません。東京電力福島第一原子力発電所の事故は、津波によって原子炉の冷却機能が働かなくなったことが原因である可能性が高いです。もちろん、原子力発電の安全性を科学的に検証することは当然ですが、東京電力福島第一原子力発電所の事故と、原子力発電全体の安全性とは、それぞれ別に考える必要があります。

東京電力福島第一原子力発電所の事故に関して、政府は情報公開、原因究明を進めていますが、これは極めて正しいことだと思います。原子力発電は多くの国で行われているので、私たちはその教訓を世界と共有する義務があります。

──日本はこれまで、様々な省エネルギー技術を開発してきました。奥村様は鉄鋼の分野の研究開発に長年関われてきましたが、その分野で日本が大きく貢献した省エネルギー技術は何でしょうか。

私が入社した1970年代には石油ショックが起こったため、日々、いかに少ないエネルギーで鉄を作るかという省エネ技術を考えなくてはなりませんでした。しかも、同時に高品質化と生産性の向上も達成しなくてはなりません。石油ショック以降は、鉄鋼業界のどの日本企業もそのような「トリレンマ」状態でした。このような状況の中で日本の企業は、例えば、軽量化と強度の向上を達成した「高強度鋼材」を開発しています。これは、自動車の軽量化による燃費向上に大きく貢献しました。また、電気自動車やハイブリッド車のモーターに使われる鉄心の素材である電磁鋼板も日本の企業が開発しています。これにより、モーターの高出力が可能になりました。

省エネルギー技術では、このような素材の開発など、あまり目立たない「水面下」の分野においても、日本は高い競争力を持っていると思います。

──震災を受けて、現在、策定作業が進んでいる第4次科学技術基本計画は、どのようなものになるでしょうか。

当初、第4次科学技術基本計画は3月に閣議決定される予定でしたが、震災の影響で、現在、計画の見直しが行われており、8月に閣議決定されることになると思います。まだ、検討中ですが、基本計画の理念の一つは「震災からの復興・再生を遂げ、将来にわたる持続的な成長と社会の発展を実現する国」を掲げています。

エネルギー分野では、エネルギーの安定供給のための科学・技術の研究開発に重点を置いています。具体的には、再生可能エネルギーだけではなく、高効率火力発電や蓄電池などが挙げられています。また、原子力発電の安全性向上を進めるということも含まれています。

震災は非常に悲劇的な出来事ですが、それにより、日本の課題がクリアになったとも言えます。何が課題であるかという認識を共有して、その解決に向けて取り組めば、日本人はイノベーションを起こすことが出来るでしょう。イノベーションは小さな変化の積み重ねによっても起こるので、時間はかかります。ただ、民間企業で働いていた私の経験から、コスト、品質など、多くの制約がある中で、チームの力で、そうした課題を解決する力が、日本人にはあると確信しています。

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