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Highlighting JAPAN

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第14回文化庁メディア芸術祭(仮訳)

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東京・六本木にメディアアートが集結した---。2月2日から2月13日までの12日間にわたり、六本木の国立新美術館と東京ミッドタウンで「第14回文化庁メディア芸術祭 受賞作品展」が開催された。メディア芸術祭は、アート、エンターテインメント、アニメーション、マンガの各分野から幅広く作品を公募するメディア芸術の総合フェスティバルだ。優れたメデイア芸術作品を顕彰するとともに作品の発表・鑑賞の機会を提供すべく、文化庁、国立新美術館、CG-ARTS協会が毎年主催している。

14回目となる今年度は49の国と地域から2,645件という過去最大の応募があった。応募は誰でも可能で、前回の応募期間以降となる2009年9月26日から2010年9月24日までに完成作品として発表されたものが対象とされた。作品展では、各賞の受賞作を含む約170点を展示・上映。併せて、受賞者と審査員らによるシンポジウム等も開催された。

今回、アート部門の大賞を受賞した「cycloid-E」[Michel Décosterd/André Décosterd(スイス)]は、それぞれ1メートルを有する5本の金属製の筒が不規則に動き、それに合わせて筒の先端に付けられたスピーカーから四方に音響が発せられるというインスタレーションで、筒の稼動範囲が10メートルにもおよぶ巨大な作品だ。この作品に対し、審査員からは次のようなコメントが寄せられている。「この作品のユニークさは、webに象徴される不可視領域の拡大が世界的傾向として見られる中で、その逆襲として圧倒的な物質観を出現させたことだ。(中略)重要なのは、その装置が引き起こす空間、時間、そしてわれわれの意識や身体感の変容なのである」

エンターテインメント部門では、影絵、切り絵といった、どこか懐かしいアナログ感のあるモチーフを扱った作品が多く見られた。優秀賞の「無限回廊/光と影の箱」(鈴田健/藤木淳/鈴木達也は、光と影をテーマにつくられたアクションパズルゲームで、ユーザーが懐中電灯に見立てたコントローラで影の形を操りながらゴールを目指すというものだ。

アニメーション部門は、特に海外からの応募が目立った。425本の応募作品のうち169本が海外作品、中でもフランスからの応募は56本と、前年の21本から急増した。大賞は、人気アニメ『クレヨンしんちゃん』『ちびまる子ちゃん』も手掛けた湯浅政明氏の「四畳半神話体系」が受賞した。東京ミッドタウンの会場において全11話が上映され、話題を呼んだ。

マンガ部門では、ベテランから若手まで多彩な作家による作品が選出された。大賞を受賞した古代オリエントを舞台にした歴史マンガ「ヒストリエ」(岩明均)や学生運動に傾倒する若者の群像劇「レッド」(山本直樹)など、史実をもとにしながらも作家の持ち味で独自に再構築した作品が目立った。大賞を受賞した岩明均氏は贈呈式で「メディア芸術祭というととても先進的なイメージがありますが、マンガを描くこと自体はペンと紙を使った泥臭い作業です。これからも、その気持ちを忘れずに描き続けたいと思います」とコメントした。

功労賞を受賞した編集者・栗原良幸氏は、1970年代より少年漫画誌の編集に携わり、海外の作家を日本に紹介することで国際文化交流にも尽力したことなどが受賞理由となった。栗原氏は贈呈式で「戦後の高度成長期(1950年代後半〜1970年代)に日本のマンガは一気に花開き、今、本当の意味での成熟期を迎えていると思う。海外の作家ともよく話すが、日本のマンガはコマとコマのつながりに対する認識が独特だ。コマの魅力を発見したことで日本のマンガは進化を遂げた。これからも、その固有性を大切にすべき」と挨拶した。


受賞者インタビュー(仮訳)

文化庁メディア芸術祭はアート、エンターテインメント、アニメーション、マンガのそれぞれの部門で、高い芸術性と創造性をもった作品に、一つの大賞、四つの優秀賞、一つの奨励賞を授与する。さくらい伸が第14回文化庁メディア芸術祭の二人の受賞者にインタビューした。

アート部門 優秀賞「10番目の感傷(点・面・線)」
クワクボリョウタ


暗室のような空間の中、先頭に電球を付けた鉄道模型が、洗濯ばさみやカゴなどの日用品の間をゆっくりと進む。壁や床、天井に映し出されるシルエットが、さながら車窓からの景色のように移り変わる。これまでエレクトロニクスを使ったメディアアートを国内外で発表してきたクワクボリョウタ氏は、観る者すべてに「個人的な体験」をもたらす魅惑的な作品を生み出すことに成功した。

──過去を旅するようなノスタルジー、あるいは未来的なイメージを喚起する作品にも思えますが、発想はどこから?

クワクボリョウタ氏:子どもの頃、影絵遊びをした人は多いと思いますが、自分の手を離れて客観的に影絵を見たらどうなるだろうという素朴な思いが発端でした。鉄道模型のレールに対して、どこに何を置けば狙い通りの影ができるのかをシミュレーションするのが難しく、現場で実際にものを置きながらつくり上げていきました。

──いわゆるインタラクティブアートとも異なりますね。

観る人は何か動作をするわけではなく、ただ眺めているだけですからね。ただし、眺めているうちに観る人の内部で何がしかのインタラクションが起こるということだと思います。

──デジタル技術の進化によってインラクティブが当たり前になったからこそ、こうしたアナログなテイストを用いたのでしょうか。

技術的には30年以上前にもつくることは可能だったと思いますが、これを30年前につくろうと思った人はいなのではないでしょうか。メディアが進化したことによって人々の感覚が更新され、影絵という古典的な手法がまた新たなものとして映るのかもしれません。展示する空間は、人の顔が見えなくなるほど暗く設定してあるので、観る人は完全に個としての体験をします。観る人が何を想起するのかは、作者にも分からない。かつて旅先で見た風景の話を僕にしてくる人もいて、それはとてもうれしいですね。今年、海外で3ケ所ほど展示が決まっています。ひょっとすると、「見立て」や「借景」といった日本文化と照らし合わせて観る人もいるかもしれません。反応が楽しみです。

エンターテインメント部門大賞 「IS Parade」
林智彦/千房けん輔/小山智彦


TwitterのユーザーがIDを登録すると、自分のフォロワーのアイコンに手足が付いてキャラクター化し、自分を中心にパレードを繰り広げる。スマートフォンのプロモーションのために制作され、2010年4月30日から11月15日までのおよそ半年の間に1350万回ものパレードが行なわれた。Twitter共同創業者ビズ・ストーンなど、国内外の著名人にもツイートされ、パレードはまだまだ続きそうだ。制作の中心となったwebプランナーの林智彦は、「ネットワーク上の新しいコミュニケーションをデザインしたい」と語る。

──普段は広告代理店に勤務されているそうですが、この作品も、クライアントから発注された広告の一環という認識で良いのでしょうか。

林智彦氏:仕事の成り立ちとしては広告物なので、「作品」という認識でつくっていたわけではありません。文化庁メディア芸術祭で大賞をいただけるとはまるで考えていませんでした。この賞はもともとアニメやマンガ部門の受賞作品をチェックしていたぐらい信頼をしていたので、それをいただけたのはとてもうれしいですね。

──Twitter上のフォロワーがキャラクター化してパレードをするというアイデアはすんなり決ったのでしょうか。

比較的早い段階で決まりました。スマートフォンやTwitterの浸透で、人と人との関係性やコミュニケーションの手法が変わってきているのはまぎれもない事実です。その中で、使っている人がどうしたらうれしいか、どうしたら楽しいかを考えました。Twitterを使っている人は分かると思いますが、自分のフォロワーが増えるのは単純にうれしい。それを眼に見える形で表現したらとこうなったということです。自分の分身であるアイコンを中心に、フォロワーのアイコンが自分を神輿でかついでくれたり、周りで楽器を演奏しながらパレードしてくれる。ネット上のつながりが立体的にビジュアライズされることによって、他者とつながることの楽しさやうれしさが表現できるのではと考えました。こうしたコミュニケーションのためのデザインがアートとして評価されるのも、今という時代を象徴しているのかもしれません。

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