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February 2024

三陸国際芸術祭―大震災を乗り越えて郷土芸能を世界へ発信するプロジェクト―

  • 「三陸芸能大発見サミット」の公演風景
    Photo: 三陸国際芸術祭
  • インドネシアの芸能団体との交流風景
    Photo: 三陸国際芸術祭
  • 仰山流笹崎鹿踊(ぎょうざんりゅうささざきししおどり)
    Photo: 三陸国際芸術祭
  • 「三陸のだむら未来芸術祭」のポスター。岩手県野田村で毎年1月15日に開催される「なもみ」の衣装をつけた保存会のメンバー。「なもみ」は子供の成長と健康を願って各家を訪問する、鬼の面を被った来訪神である。
    Photo: 三陸国際芸術祭
  • 三陸沿岸地域を南北に結ぶ三陸鉄道の車内でも公演が行われた。
    Photo: 三陸国際芸術祭
「三陸芸能大発見サミット」の公演風景 Photo: 三陸国際芸術祭
インドネシアの芸能団体との交流風景 Photo: 三陸国際芸術祭

「日本博2.0」は、2025年日本国際博覧会(大阪・関西万博)の機運醸成やインバウンド需要の回復、国内観光需要の一層の喚起を目指しつつ、「日本の美と心」を体現する我が国の文化芸術の振興及びその多様かつ普遍的な魅力を国内外に発信している。国内の文化施設、芸術団体などさまざまな主体が多種多様な事業を実施、参画している一大プロジェクトだ。多くの事業の中から、今月号は、東北地方の三陸沿岸地域*を舞台とする「三陸国際芸術祭」を紹介する。

三陸の豊かな文化を復興・継承するために

2011年3月に起きた東日本大震災**は、巨大津波によって美しいリアス式海岸が続く三陸沿岸地域に壊滅的な被害をもたらした。震災後、生活や社会・産業基盤の復興とともに、人々の心の拠り所となる文化面の復興に向けたプロジェクトが進められてきた。その一つが、2014年に始まった「三陸国際芸術祭」である。

「三陸国際芸術祭」開催のきっかけは、被災地を訪れた現代舞踊家が、三陸沿岸地域に伝承されてきた神楽(かぐら)、鹿踊り(ししおどり)、剣舞(けんばい)***などの郷土芸能に注目したことだった。震災により、郷土芸能の担い手が失われ、存続が懸念される芸能団体も少なくなかった。こうした貴重な郷土芸能を復興・継承していくためにスタートしたのが「三陸国際芸術祭」である。そのプログラムには、国内のアーティストによる芸能披露のみならず、独立行政法人国際交流基金アジアセンターを事業パートナーとしてアジア各国の芸能団体も参加し、相互交流も進められ、各地の劇場や文化施設、鉄道の車内などを舞台にさまざまな公演が行われた。

仰山流笹崎鹿踊(ぎょうざんりゅうささざきししおどり) Photo: 三陸国際芸術祭

2018年には三陸沿岸地域の岩手県及び三陸沿岸市町村(現在15市町村)に三陸鉄道や民間団体が参画する「三陸国際芸術推進委員会」が発足し、インドネシアやカンボジアの芸能団体との共同作品を制作(2021年)してYouTubeにて配信するほか、郷土芸能団体の合同による「三陸篝火(かがりび)芸能彩」(2022年)などを実施してきた。

次の世代を育て、郷土芸能を世界に発信

そうした実績のもと、2023年度には「日本博2.0」の取組として「三陸国際芸術祭2023 移(うつ)ル」を開催している。

9月には、岩手県野田村にて震災を耐え抜いた築160年の南部曲がり家「庵日形井(いおりひかたい)」****を会場に、次の時代を担う芸能者を育成する目的で、中学生、高校生なども交えた「三陸のだむら未来芸能祭・のだむら祭生(さいせい)ミーティング」を実施した。10月には、岩手県大船渡市(おおふなとし)にて三陸沿岸各地の芸能団体とインドネシアの芸能団体とのコラボレーションによる「三陸芸能大発見サミット」を開催した。

「三陸のだむら未来芸術祭」のポスター。岩手県野田村で毎年1月15日に開催される「なもみ」の衣装をつけた保存会のメンバー。「なもみ」は子供の成長と健康を願って各家を訪問する、鬼の面を被った来訪神である。 Photo: 三陸国際芸術祭

特筆すべきは、主なる芸能の概要と開催時期、三陸の自然や食文化、宿泊施設などをまとめたパンフレットや情報紙を日英併記で作成し、観光ツアーのモデルコースを紹介するなど情報発信に力を入れていることだ。これらの情報は「三陸国際芸術祭」のWebページからアクセスできる。

東日本大震災から13年、復興を遂げつつある三陸沿岸地域を訪ね、日本の原風景ともいえる美しい自然、豊かな食文化、伝統ある郷土芸能を巡る旅も楽しいだろう。

三陸沿岸地域を南北に結ぶ三陸鉄道の車内でも公演が行われた。 Photo: 三陸国際芸術祭

» 「三陸国際芸術祭」のWebページ

* 三陸海岸は、青森県八戸市の鮫角(さめかど)から岩手県の陸中海岸を経て、宮城県の牡鹿(おしか)半島に至る南北約600kmの海岸。旧国名の陸奥(むつ)、陸中(りくちゅう)、陸前(りくぜん)に当たることが名称の由来とされる。
** 2011年3月11日に発生したマグニチュード9.0の東北地方太平洋沖地震により、揺れと津波、火災などで死者・行方不明者が2万人を超える大被害となった。
*** 神楽は、神社で奉納される舞。鹿踊りは鹿の扮装で、剣舞は剣を使って悪霊退散や死者の鎮魂などを願って舞われる。三陸沿岸地域では地域ごとにさまざまな形で演じられている。
**** 住居と馬屋がL字型に一体となった伝統的な農家建築。岩手県、青森県などに保存され、国の重要文化財に指定されている建物もある。