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February 2024

サムライゆかりのシルク製品を生み出す地域

  • 色鮮やかにプリントされたシルクスカーフ
    Photo:三浦雅浩デザイン室
  • 生皮苧。不規則な太さで通常の製糸工程、生糸にするには向かない。 Photo: 三浦雅浩デザイン室
  • 生皮苧を使って作られたストール。ふっくらとした質感
    Photo: 三浦雅浩デザイン室
  • 侍絹(サムライシルク)と名付けられた製品ラインがある。和をイメージさせるプリントで、稲穂を表したデザイン。
    Photo: 三浦雅浩デザイン室
  • 松ヶ岡開墾場の現シルクミライ館 Photo: 三浦雅浩デザイン室
  • シルク製品の工程が分かる展示 Photo: 三浦雅浩デザイン室
色鮮やかにプリントされたシルクスカーフ Photo:三浦雅浩デザイン室

日本で唯一、養蚕から縫製まで一貫工程で絹製品をつくる地域が山形県鶴岡市(つるおかし)にある。日本近代化の一翼を担ったシルク産業の伝統を引き継ぎながらも、現代社会にもマッチする製品を生み出している鶴岡のシルクについて話を聴いた。

山形県鶴岡市にある松ケ岡(まつがおか)は、1871年に旧庄内藩士(しょうないはんし*)約3,000人によって開墾された地だ。元々は原生林だった場所を切り開き、1873年には蚕(かいこ)のエサ用の桑畑、311haの畑が完成。その後、製糸工場と絹織物工場が創設された。現在でも、養蚕、製糸、精錬、染色、縫製まで、絹製品作りの流れが一貫して行われているのは、国内では鶴岡市だけだ。鶴岡市のシルク産業を牽引する、鶴岡シルク株式会社大和匡輔(やまと きょうすけ)さんに話を聞いた。「ここで作られる鶴岡シルクは、正真正銘のメイドインジャパンだと言えるのが、最大の強みです。今や、合成繊維の登場により、日本では衰退してしまったシルク産業ですが、その活気を取り戻すために、2012年から鶴岡シルクタウンプロジェクトが始まりました」。

日本のシルク産業の継承を目的として始まったプロジェクトは、経済産業省の支援を受け、新たな特産品の商品開発を積極的に行い、市場の開拓を図っている。「蚕が繭(まゆ)を作る際に、最初に吐き出す糸、生皮苧(きびそ**)を使った商品を開発しました。この部分は、製糸工程から産出される副産物で、硬くて不規則な太さのため、そのままでは生糸(きいと)とするには向きません。ところが、この生皮苧こそ、実に、水溶性のタンパク質を豊富に含み、高い保湿力、紫外線吸収力、抗酸化作用があり、化粧品のスキンケアの成分として利用できるほどの付加価値を有するものです。そこで、生皮苧を有効活用した糸を開発し、その糸を使った製品を"kibiso"ブランドとして新たにラインナップし、ファッションに敏感な層を対象として市場開拓を図りました」。

生皮苧。不規則な太さで通常の製糸工程、生糸にするには向かない。 Photo: 三浦雅浩デザイン室

また、生皮苧だけでは機械織には向かないため、オーガニックコットンやウールなどのほかの繊維と合わせて新たな糸を開発し、ストールやバッグなどの服飾小物にも仕上げた。また、タオルの産地と協力して生皮苧入りのタオルも開発した。シルクのもつしっとりした肌触りが好評となり、市内の高級ホテルのアメニティにも採用されているという。

生皮苧を使って作られたストール。ふっくらとした質感 Photo: 三浦雅浩デザイン室

「2017年には絹織物製造に係る一貫工程が揃う日本唯一の地として、蚕を育て製糸まで担っていた松ヶ岡開墾場(まつがおかかいこんじょう)が日本遺産に認定されました。かつて十棟あった蚕室のうち五棟が現存しています。元侍たちがもたらした絹、『サムライゆかりのシルクのまち』ということで、商品ブランド名にするなどして、認知度を高めていきました」。

侍絹(サムライシルク)と名付けられた製品ラインがある。和をイメージさせるプリントで、稲穂を表したデザイン。 Photo: 三浦雅浩デザイン室
松ヶ岡開墾場の現シルクミライ館 Photo: 三浦雅浩デザイン室

日本遺産の認定を受け、2022年には、松ヶ岡開墾場の四番蚕室をシルクミライ館としてオープンした。ここではシルク産業の歴史や生産工程を学べたり、蚕の飼育の様子が見学できたり、シルク織物の体験もできる施設だ。ショップでは様々な鶴岡シルクの製品を購入できる。また、隣のエリアには自然派ワインをつくるワイナリーもある。ワインとともに地元食材を使ったイタリアンフレンチの料理を楽しめるワイナリー併設のレストランもおすすめだ。サムライが開墾した松ヶ岡地域は、今や新たな観光スポットとして注目のエリアとなっている。

シルク製品の工程が分かる展示 Photo: 三浦雅浩デザイン室
シルクミライ館の天井から吊り下げられたシルクの布。国際的なテキスタイルデザイナーが手がけた、この土地の農産物や風土などを表す意匠だという。
Photo: 三浦雅浩デザイン室

* 江戸時代(17世紀初頭~19世紀後半半ば)に現在の山形県鶴岡市を本拠地とした藩の名称。酒井氏が統治した。初代の忠次は、徳川幕府の初代将軍・徳川家康の義理の叔父。1871年に藩制度は廃止された。
** 蚕が繭(まゆ)を作る際に、最初に吐き出す繭の外側部分。硬く、不規則な太さで生糸にするには不向きだが、風合いが出ることから、手織りの素材として使われることも多い。