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February 2024

世界に広がる日本発の鉄器

  • お湯を沸かす鉄瓶。 Photo: 岩鋳
  • 茶道で使われる釜は据え置き型。柄杓で湯をすくう。
  • 鉄瓶で湯を沸かすと、鉄分を摂取できるという。 Photo: 岩鋳
  • (左)表面の細かい突起状の模様はあられ模様という Photo: 岩鋳
    (右)伝統工芸品でありながら、現代の暮らしになじむ高いデザインも魅力 Photo: 岩鋳
  • 粘土とまぜた泥状の鋳物砂を型取り、鋳型を作る。 Photo: 岩鋳
  • 電気炉で1,400°C~1,500°Cに溶かされた鉄を鋳型に流し込む。
    Photo: 岩鋳
お湯を沸かす鉄瓶。 Photo: 岩鋳

ヨーロッパを中心に世界で高い人気を誇る岩手県の南部鉄器(なんぶてっき)。職人によって一つ一つ丁寧につくられる日本の伝統工芸品には、さまざまな利点と魅力が秘められている。

南部鉄器は東北地方の岩手県を代表する伝統的工芸品で、鉄を原材料として作られる鍋や釜などの道具である。17世紀、盛岡市を本拠地にしていた南部藩(なんぶはん*)の藩主が山梨や京都から職人を呼び寄せ、鉄器製造が始まった。茶道に秀でた藩主が茶の湯釜を作らせ、茶道の進展ととともに「南部釜(なんぶがま)」として全国的に名声を得ていった。後に湯釜に取っ手と注ぎ口をつけて手軽に使える鉄瓶が考案され、より広まることとなった。この盛岡とともに、古くから日用品鋳物の生産が盛んだった奥州(おうしゅう)市の、二つの産地で作られる鉄器を「南部鉄器」と呼び、1975年、国による伝統的工芸品に指定されている。

茶道で使われる釜は据え置き型。柄杓で湯をすくう。

南部鉄器を生産・販売している岩鋳(いわちゅう)株式会社の高橋潔充(たかはしきよみつ)さんは鉄器の利点をこう話す。「鉄は蓄熱性が高い素材なので、お湯を沸かすといつまでも温かいままです。しかも鉄瓶で沸かしたお湯はまろやかになり、お茶やコーヒーがとてもおいしくなると言われています。さらに鉄分が溶け出すため、不足しがちな鉄分を普段の生活で少しずつ補給できるという利点もあります」。

鉄瓶で湯を沸かすと、鉄分を摂取できるという。 Photo: 岩鋳
(左)表面の細かい突起状の模様はあられ模様という Photo: 岩鋳
(右)伝統工芸品でありながら、現代の暮らしになじむ高いデザインも魅力 Photo: 岩鋳

南部鉄器は伝統工芸士**によって、100以上ある工程のほとんどを手作業で行い、使いやすく厚みを厳密に調整するなど、芸術品さながらに手間をかけて制作する。「南部鉄器は、長年使い込んでいくと、表面の風合いの変化を楽しむことができます」。

粘土とまぜた泥状の鋳物砂を型取り、鋳型を作る。 Photo: 岩鋳
電気炉で1,400°C~1,500°Cに溶かされた鉄を鋳型に流し込む。 Photo: 岩鋳

近年、南部鉄器は海外でも人気だ。「約30年前、ヨーロッパの展示会に南部鉄器を出品した際に、フランスの老舗紅茶メーカーからカラフルな急須(きゅうす***)を依頼されて製作に挑戦しました。新たな着色技法の開発には数年を要しましたが、これをきっかけに鉄器の急須はヨーロッパで人気を集めました。その後北米市場に波及し、日本国内での再評価にもつながったと思います」と高橋さんは語る。現在も伝統を守りながら、現代の暮らしになじむ製品づくりを心がけ、急須のほかにも、鍋やフライパンなどの調理道具や、香炉(こうろ****)などの小物まで、幅広い種類の南部鉄器を生み出している。丈夫で長持ち、使うたびに愛着が増していくという南部鉄器。お気に入りを探しに産地へ足を運ぶのも旅の醍醐味だろう。

カラフルな急須は海外でも人気の商品。店内にも数多く並べられている。 Photo: 岩鋳

* 岩手県盛岡市を本拠地とした盛岡藩の別称。藩主の南部氏の名から南部藩とも呼ばれる。
** 伝統的工芸品産業の需要拡大を狙って1974年に誕生した制度で、産地固有の伝統工芸の保存、技術・技法の研鑽に努力し、その技を後世の代に伝える国家資格。
*** 一般的に日本茶の茶葉を入れて茶を抽出する持ち手がついた小さい道具。ティーポット。
**** 固体状の香料を加熱し、香気成分を発散させる目的で用いる器具。