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November 2023

能楽鑑賞へのいざない―国立能楽堂から世界へ―

  • 国立能楽堂の能舞台
    能舞台は、もともと屋外に造られていたが、舞台と観客席が大きな一つの建物の中に入った「能楽堂」という形になったのは近代(19世紀後半半ば)以降である。能舞台正面奥には常緑の松が描かれている。
    Photo: 国立能楽堂
  • 能面
    左は翁面(おきなめん)の白色尉(はくしきじょう)。中央は女面(おんなめん)の小面(こおもて)。右は怨霊面(おんりょうめん)の般若(はんにゃ)。
    Photo: 国立能楽堂
  • 紅白段花筏模様唐織(こうはくだんはないかだもようからおり)江戸中期・18世紀
    赤い色の入った装束は、若い女性を示すという。
  • 2024年1月19日の「ショーケース」公演で上演予定の能「巴(ともえ)」
    源平合戦の頃、木曽義仲(きそ よしなか)に従って戦った女武者巴を描いた能。奮戦するも、敗戦、義仲とともに死ぬことは許されなかった巴の悲哀が胸を打つ。写真では、節木増(ふしきぞう)という若い女の能面と、唐織(からおり)という最も豪華な衣装を上着として使用している。写真は、武器である長刀(なぎなた)****を携えた姿。
    Photo: 国立能楽堂
国立能楽堂の能舞台
能舞台は、もともと屋外に造られていたが、舞台と観客席が大きな一つの建物の中に入った「能楽堂」という形になったのは近代(19世紀後半半ば)以降である。能舞台正面奥には常緑の松が描かれている。
Photo: 国立能楽堂

「日本博2.0」は、2025年日本国際博覧会(大阪・関西万博)の機運醸成やインバウンド需要の回復、国内観光需要の一層の喚起を目指しつつ、「日本の美と心」を体現する我が国の文化芸術の振興及びその多様かつ普遍的な魅力を国内外に発信している。国内の文化施設、芸術団体などさまざまな主体が多種多様な事業を実施、参画している一大プロジェクトだ。多くの事業の中から、今月号は能楽鑑賞へのいざないとして、「日本博2.0」における国立能楽堂の取組を紹介する。

「能楽」は、600年以上にわたり演じられてきた日本の最も伝統のある芸能である。「能楽」は「能」と「狂言」を総称したもので、「能」は様式化された優美さ、「狂言」はおおらかな笑いという対照的な表現のもとで演じられてきた。2001年に、「能楽」はユネスコの無形文化遺産に登録されている。

「能」は、主役を演じる「シテ*」が掛ける能面に大きな特色がある。能面には、女性や武士、老人などのほか、この世のものでない神や霊、鬼などもある。「シテ」は、顔をわずかに上げたり俯(うつむ)いたりすることで、能面に当たる光や影の効果を際立(きわだ)たせて喜怒哀楽を表現する。また、役柄に合わせた華やかな「装束(しょうぞく)」も見ものだ。着物の中でも最も華麗で精緻を極めた織りの伝統技術の結晶だ。さらに、笛と小鼓(こつづみ)、大鼓(おおつづみ)、太鼓(たいこ)で構成される「囃子(はやし)」、物語の筋や背景などを唄う「地謡(じうたい)」などが混然一体となって、観客たちを幽玄**の世界へといざなう。

能面
左は翁面(おきなめん)の白色尉(はくしきじょう)。中央は女面(おんなめん)の小面(こおもて)。右は怨霊面(おんりょうめん)の般若(はんにゃ)。
Photo: 国立能楽堂

一方、「狂言」は、身近な出来事を題材とする台詞(せりふ)が中心の喜劇。現代の私たちにも通じる人間の愚かさや弱さを笑いに変えて演じられる。

このような「能楽」の持つ独特の芸術性は海外からも注目され、海外公演も盛んに行われるようになっている。しかし、「能楽」は日本の中世の事績を題材とする曲目が多いため、その時代背景や登場人物、当時の文化などを理解できないと鑑賞が難しい一面もある。

そこで、「能楽」の定期公演を行っている国立能楽堂(東京・千駄ヶ谷)では、英文のガイドブックを用意し、各座席には字幕表示装置を設置して、リアルタイムで台詞や地謡の内容や決まりごとなどの英語解説を行っている。さらに、気軽に能楽を楽しめる公演「ショーケース***」を定期的に開催している。国立能楽堂のWebページでも定期公演や「ショーケース」の案内だけでなく、ポータルサイト「文化遺産オンライン」に国立能楽堂が所蔵する能面や能装束などを公開しており(別表参照)、「能楽」への理解促進に努めてきた。

紅白段花筏模様唐織(こうはくだんはないかだもようからおり)江戸中期・18世紀
赤い色の入った装束は、若い女性を示すという。

「日本博2.0」においては、国立能楽堂のWebページに「ショーケース」のPR動画の配信を開始した(別表参照)。このPR動画では多彩なアングルやアップを多用して「能楽」の魅力を分かりやすく伝えている。加えて、国立能楽堂では、外国人のための能楽鑑賞教室やワークショップ、外国語が堪能な能楽師によるバックステージツアーなどを開催した。訪日外国人が多く利用する京王プラザホテル(東京・新宿)でも能楽入門のための展示や能楽師によるデモンストレーションを実施した。

2024年1月19日にも国立能楽堂で「ショーケース」が開催される。この機会に、日本が誇る「能楽」の魅力に触れてみてはどうだろうか。

2024年1月19日の「ショーケース」公演で上演予定の能「巴(ともえ)」
源平合戦の頃、木曽義仲(きそ よしなか)に従って戦った女武者巴を描いた能。奮戦するも、敗戦、義仲とともに死ぬことは許されなかった巴の悲哀が胸を打つ。写真では、節木増(ふしきぞう)という若い女の能面と、唐織(からおり)という最も豪華な衣装を上着として使用している。写真は、武器である長刀(なぎなた)****を携えた姿。
Photo: 国立能楽堂

参考URL

■日本博2.0関連
文化庁ホームページ https://japanculturalexpo.bunka.go.jp/ja/

「日本博 2.0」では、2025年日本国際博覧会の機運醸成やインバウンド需要の回復、国内観光需要の一層の喚起を目指しつつ、日本の美と心を体現する我が国の文化芸術の振興及びその多様かつ普遍的な魅力を発信している。

■国立能楽堂関連
国立能楽堂 https://www.ntj.jac.go.jp/nou.html
国立能楽堂ショーケース(1月19日) https://www.ntj.jac.go.jp/schedule/nou/2023/11020.html?lan=j

■文化遺産オンライン https://bunka.nii.ac.jp/
能面での検索結果 https://bunka.nii.ac.jp/heritages/search?page=1&title=%E8%83%BD%E9%9D%A2

* 「能」では主役を「シテ」、「シテ」の演技を引き出す役を「ワキ」という。「シテ」を演じる流派(シテ方)には、観世(かんぜ)、金春(こんぱる)、宝生(ほうしょう)、金剛(こんごう)、喜多(きた)の5流派がある。「狂言」も主役は「シテ」といい、狂言方には大蔵(おおくら)流と和泉(いずみ)流がある。
** 言葉に表れない、深くほのかな余情の美があるさま。和歌の鑑賞で使われてから中世以来、文芸、絵画、能楽、茶道、建築などの日本の芸術、芸能における美的理念のひとつとなった。
*** 低料金で楽しめるコンパクトな能楽の公演。能楽師によるプレトークがあるので能楽鑑賞の入口として人気となっている。
**** 木製の長柄の先に反りのある刀を取り付けた武器。