October 2023
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雪国の文化と現代アートに出会えるまち
新潟県十日町市(とおかまちし)は日本でも有数の豪雪地帯。雪の多さ、雪がもたらす恵み、雪を生かした暮らしの豊かさを十日町の「スノウリッチ」と称して、国内外に広く発信している。市の文化観光担当者にその取組について話を聞いた。
十日町市は新潟県の南部、山間にある十日町盆地に位置する。同市の最大の特徴は、12月から4月までの積雪期には市街地でも平均2mの積雪があり、雪のない5月から11月までの時期とでは、景色も、人々の暮らしも一変する点だ。十日町市役所で文化観光を推進している羽鳥大介(はとりだいすけ)さんはこう話す。「市内には縄文(じょうもん* )時代の遺跡があり、数多くの出土品が発掘されています。今から約8,000年前にこの地域に雪が降るようになってから現代に至るまで、この土地の人々は雪や自然とともに暮らし、知恵や文化を受け継いできました」。この地域の人たちは、雪がない季節は、稲作、畑仕事にいそしみ、冬に備えて山菜などで保存食を作る。雪が降ったら家でできる仕事として機(はた)織りが盛んとなり、後に日本有数の着物の産地となる礎(いしずえ)になった。江戸時代(17世紀初頭~19世紀後半)には、「越後縮(えちごちぢみ)」**と呼ばれる夏物の高級麻織物が盛んに生産され、その後、原料は麻から絹へ移行し、20世紀初めには夏の絹織物「明石(あかし)ちぢみ」が生産された。その後、秋冬物もつくられるようになり、通年の織物生産地として発展した。
「食材を長期間保存する知恵***は、雪を使って貯蔵庫を作って保存、川魚はいろり****の上で熱と煙でいぶす、山菜は干したり塩漬けにしたりすることで長持ちさせ、おいしく食べつなぐ調理法の工夫も重ねられました」と羽鳥さんは語る。
こうした雪国特有の文化を知ることができる"スノウリッチ*スポット"と呼ばれるお店や施設などが市内に100カ所程度ある。各施設では、そこのお店などで業務に従事する市民がガイドとなり、観光客に雪国の暮らしぶりや楽しみ方を伝えている。例えば、宿泊施設から、着物の工房、タクシー会社、クラフトビール会社、そば屋など観光で訪れる際に立ち寄るような場所にガイドがいるイメージだ。今後は各スポットが多言語に対応することが目標だ。
また、十日町市のもう一つの魅力は「大地の芸術祭」。2000年から始まり、20年以上続いている現代アートの祭典だ。1年を通して、約200点の恒久作品を楽しめるだけでなく、季節ごとのプログラムやツアーを開催している。3年に一度、「越後妻有(えちごつまり)アートトリエンナーレ」と称して世界中のアーティストの新作を多数公開する現代アート展が開催される。大地の芸術祭は、言わば里山全体が展示会場であり、広大なエリアに数多くのアートが公開される世界最大規模の現代アート展だ。「アートトリエンナーレの次回開催は2024年です。ただ、いつでも国内外のアーティストによる約200点の作品が里山や集落、それらを結ぶ道沿いに恒久的に展示され、まるで雪国文化と現代アートが融合した巨大ミュージアムのようになっています。現代アートを道しるべに里山の四季折々の風景とともに史跡や雪国文化を巡る旅を楽しんでください。」と羽鳥さんは語る。
雪国ならではの豊かな文化と、現代アート、この二つが十日町市の文化観光の大きな柱だ。雪がある季節も、そしてない季節も、それぞれの魅力が味わえる。ぜひ一度、訪れてみてはいかがだろうか。
* 日本の歴史上の時代区分の一つ。最近では、概ね約1万6500年前〜約3000年前とされる。
** 雪国の気候を生かした特産品麻織物。強い撚りをかけた糸を使用し、肌あたりが軽やかで夏用の着物として、人気となった。主生産地は十日町を含む、魚沼地方。
*** 食材の保存法は時期により異なり、春から夏にかけての冷蔵は「雪室(ゆきむろ)」というたくさんの雪を夏まで保管し、食べ物などを保存するための天然の冷蔵庫を使用。越冬のための保存は、山菜は干すか塩漬け、芋類は家の中の温かいところで保管、キャベツは雪の中に埋める、白菜、ネギは作業場など寒い屋内に吊るして表面を干し、青菜類は漬物にするなど、食材に合わせた保存法が確立。
**** 屋内の床を切って防寒用、煮炊き用に火をたく場所。
***** 山の斜面や傾斜地に階段状に作られた小区画の水田のこと。