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September 2023

電気自動車(EV)の充電時間を半減する高電圧高出力インバータ

  • EV/PHV 用高電圧高出力インバータ(2品種)
  • 高電圧高出力インバータ開発成功のカギとなった、新しいパワーモジュール(直接水冷型両面冷却方式)
  • 開発を担当した中津さんによる性能検証の様子
  • EV/PHV 用高電圧高出力インバータの製造ライン
  • 従来のインバータ内のパワーモジュールの構造
  • 新たに開発したパワーモジュール(直接水冷型両面冷却方式)の構造
EV/PHV 用高電圧高出力インバータ(2品種)

走行中に二酸化炭素を排出しない電気自動車(EV)やプラグインハイブリッド車(PHV)の普及が地球温暖化防止の観点から急がれている。しかし、EVは充電に時間がかかるという克服すべき課題があった。その課題を「EV/PHV用高電圧高出力インバータ」は克服し、開発企業の担当者であった中津欣也さん等5名の技術者は、2021年度科学技術分野の文部科学大臣表彰 科学技術賞*を受賞した。

開発を担当した中津さんによる性能検証の様子

地球温暖化に歯止めをかけるために、モビリティ分野での技術開発は待ったなしの状況である。カーボンニュートラル**実現のカギを握るとまでされる電気自動車(EV)やプラグインハイブリッド車(PHV)の普及をめざすに当たり、現状では大きな障壁が存在している。それは充電時間だ。従来のEVでは、例えば400㎞を走行するために約40分の充電が必要であり、特に日常的に長距離を自動車で移動する必要がある国や地域では、充電切れの不安からEVへの乗り換えをためらう人も多かった。

この障壁を克服すべく、株式会社日立製作所と日立Astemo株式会社で開発したのが、高電圧高出力インバータだ。従来400VであったEVシステムの電圧を800Vに高めることで、同じ時間で2倍のエネルギーが充電でき、走行可能距離400㎞に対してこれまで約40分かかった充電時間を約20分と半減することに成功。1日100㎞の走行であれば、わずか5分程度で充電できるようになった。

EV/PHV 用高電圧高出力インバータの製造ライン

しかし、EVシステムの電圧を800Vに上げることは、技術的な課題が多く困難とされてきた。実際は単純に電圧を上げるだけでなく、それに伴って機器内の絶縁技術の見直しや、心臓ともいうべきインバータ機能の小型化、パワーモジュール(直流電力と交流電力の切り替えなど電力変換を担う部分)の冷却システムの高性能化など、多くの課題に直面することとなったのである。中でも最大の壁は、パワーモジュールの冷却システムの見直しであった。EVのモータ(電動機)を制御する際には、凡そ15~20平方メートル向けの標準的な家庭用エアコン1台が消費する電力と同じ程の変換損失***が生じるため、発生する熱を効率よく冷却しなければならない。株式会社日立製作所と日立Astemo株式会社はこの課題に対して、従来の片面のみの冷却であった構造を両面から冷却する新たなパワーモジュールの開発によって解決。その開発では、試行錯誤の末に、他に類を見ないパワー半導体を冷却水に浸漬して効率よく冷却する方法にたどり着いた(別掲の図を参照)。世界に先駆けて開発した、この新しいパワーモジュール(直接水冷型両面冷却方式)は、高電圧高出力インバータの開発成功の重要なカギとなった。

高電圧高出力インバータ開発成功のカギとなった、新しいパワーモジュール(直接水冷型両面冷却方式)

EV/PHV用高電圧高出力インバータのみならず、今後も同社は、裾野が広いモビリティ分野を開拓するべく、EV用インホイールモータの開発****やジェット旅客機を始めとする様々な航空機の電動化にかかわる研究を進めていくという。

カーボンニュートラルな社会の構築は、これから更に加速化していくべきだ。その実現に向けて、このような新たな技術開発が陸続と展開されていくことが切望される。

従来のインバータ内のパワーモジュールの構造
新たに開発したパワーモジュール(直接水冷型両面冷却方式)の構造

* 文部科学省が科学技術に関する研究開発、理解増進等において顕著な成果を収めた者に贈る賞。
** カーボンニュートラルは、温室効果ガスの排出量と吸収量を均衡させることを意味する。2020年10月、日本政府は2050年までに温室効果ガス排出を全体としてゼロにする、カーボンニュートラルを目指すことを宣言した。
*** 電力が有効に変換されず、廃熱などの形でエネルギーが放出されること。
**** 自動車のホイール(車輪)の中に装着できるモータ。自動車の小型軽量化やエネルギーロスの軽減、車内のスペースの拡大や乗り心地の向上など、様々なシーンで同乗者や周辺環境に対して良い効果を提供できる。現在も開発を継続しており、今後の社会実装については、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)のグリーンイノベーション基金事業が活用される