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August 2023

「道の駅」の海外での広がり-インドネシアの「道の駅パケワ」の紹介など-

  • インドネシア国内に2か所目のオープン。道の駅パケワ。
    Photo: Kato Fumio
  • タイ中部のスコータイ道の駅は、地元の郷土料理を提供するレストランや、村民が集えるようなスペースを作った。
    Photo: Kato Fumio
  • 道の駅パケワ「有機無農薬野菜の販売コーナー」。見やすく、手に取ってもらいやすく陳列。 Photo: Kato Fumio
  • 「道の駅パケワ」があるトモホン市は標高が高く、高原地域なので花の栽培も盛ん。エントランスホールは花で彩られている。 Photo: Kato Fumio
  • 加藤さんは現在相談役を務め、全国道の駅グランプリで1位になった「道の駅とみうら 枇杷倶楽部」 (千葉県南房総市)Photo: 道の駅とみうら 枇杷倶楽部
  • 出荷できないびわの使い道から考えられたびわソフト。今や枇杷倶楽部の代名詞的存在。 Photo: 道の駅とみうら 枇杷倶楽部
インドネシア国内に2か所目のオープン。道の駅パケワ。 Photo: Kato Fumio

「道の駅」は、1990年代から日本国内で設置が始まって以来、全国に拡大していき、今では約1200を数える。国外においても、特にアジア諸国で、日本の協力を得て、その設置が広がりを見せている。アジア諸国で、道の駅を設置する事業の中心的な役割を果たしてきた、観光庁が定める"観光カリスマ百選"にも選ばれた加藤文男(かとう ふみお)さんに話を聞いた。

発展途上国での国際協力を展開する国際協力機構(通称JICA)は、日本で「道の駅」が拡大していった1990年代から、アジアを中心とした「道の駅」の海外展開を支援している。その理由は、特に都市と地方の貧富の格差が大きいアジアの国々は、地方の雇用創出、地域振興、地域防災の拠点機能といった日本の道の駅にも期待されている役割や効果について、切実な必要性を有する状況にあったことだ。その必要性に呼応して、JICAのアジアへの道の駅の展開事業に尽力したのが、千葉県南房総市(みなみぼうそうし)にある「道の駅とみうら 枇杷(びわ)倶楽部」を立ち上げ、全国で最も人気の道の駅に育てあげた実績を持つ加藤さんだ。加藤さんは、言葉も文化も違う海外で、道の駅の設置と運営のノウハウを長年伝授している。

「実は、道の駅の海外展開事業の最大の目的は、現地の農業者などの所得向上なのです。栽培の技術を教えるだけではなく、農産物加工のスキルを持たせ、品質管理やブランド化なども指導する。"農業の6次産業化*"が必要です。そのために、まず最初に農家さんには"自分の野菜をいくらで消費者が買っているか"を意識して欲しいと言います。そして、直売所でないと、間に入る業者さんの取り分がありますから、その分、どれだけ値段が上がるのかを確認してもらいます。かたや、道の駅なら直売ですから、自分たちの利益分がほぼそのままに上がることを理解してもらうのが第一歩です」

道の駅パケワは、インドネシア北スラウェシ州トモホン市にある。スラウェシ島の北東部、首都ジャカルタから飛行機でも約4時間かかる位置にある。

タイ中部のスコータイ道の駅は、地元の郷土料理を提供するレストランや、村民が集えるようなスペースを作った。 Photo: Kato Fumio

「一番新しいところでは、2023年インドネシア・スラウェシ島北部トモホン市にできた"道の駅パケワ"。パケワとは、秋に日本の梅の実に似た実を付ける現地の固有種の果樹の名前なんだそうです。私が所属している日本の道の駅に視察に来ていましたし、特産の果物を冠した名前にしたのは、枇杷倶楽部にあやかってくれたからです。インドネシアでは二つ目の道の駅です。ここは市街地近くに活火山があって、緊急時の観光客と地域住民の避難場所としての機能も求められました。ハザードマップでリスクが特定されている場所の外に建設することにし、非常用水、非常用電源を設け、避難場所も併設しています。ただ、実際の建設の段階で最も困ったことは、新型コロナウィルスの感染拡大とウッドショックによって工事が進まなかったことです。渡航もなかなかできず心配していましたが、無事5月にはオープンして順調に運営しているようです。最近では、道の駅にあるレストランがデリバリーサービスを始めたという話を聞きました。地元の人たちの憩いの場になっているようです。基本的に完成したら、気にかけてはいますが、もう私たちは細かく口を出すことはありません。ただ、現地の方とはつながっているので、その後の状況などのお話は聞かせてもらって励ますようにはしています。この道の駅パケワで、一番嬉しかったのは、初めて、日本語で"Michinoeki "と名前をつけてくれたことです」

道の駅パケワ「有機無農薬野菜の販売コーナー」。見やすく、手に取ってもらいやすく陳列。 Photo: Kato Fumio
「道の駅パケワ」があるトモホン市は標高が高く、高原地域なので花の栽培も盛ん。エントランスホールは花で彩られている。 Photo: Kato Fumio

長年、アジア諸国での事業を手掛けてきて、現地の人との意思の疎通は"ハグハグ語"で乗り切ると豪快に語る加藤さん。

「外国語は話せないから現地の人とまずはがっちり"ハグ"をして"ハグハグ語"で挨拶する独自のコミュニケーションから交渉を始めます。あとはすべて日本語で話します。農家さんへは直接話をしてやるべきことへの理解をお互い積み上げていきたいから、態度でまずはこちらの気持ちを表したくて。もちろん、優秀な通訳さんがいることも必須条件ではあります」と笑う。

「アジアに行くと、日本に対する信用があることを実感します。日本人にも、日本製品に対してもです。それが私たちの話もよく聞いてくれる姿勢につながっている。道の駅の仕組みは、もともと日本の過疎の地域振興策として育まれてきたもので、開発途上国の振興にも有効かつ、相手の国からも関心が高いのです。道の駅は、ビジネスモデルとしても、地域に還元されるよう良心的に設計されていますし、日本がそれを生んだ国として、世界中に広げていく施策がもっとあれば、さらに世界に貢献できるのではないかと思っています」と加藤さんは熱く語った。

加藤さんは現在相談役を務め、全国道の駅グランプリで1位になった「道の駅とみうら 枇杷倶楽部」(千葉県南房総市) Photo: 道の駅とみうら 枇杷倶楽部
出荷できないびわの使い道から考えられたびわソフト。今や枇杷倶楽部の代名詞的存在。 Photo: 道の駅とみうら 枇杷倶楽部

* 農林漁業者が、農畜産物・水産物の生産だけでなく、食品加工(2次産業)、流通・販売(3次産業)にも取り組み、それによって農林水産業を活性化させ、農山漁村の経済を豊かにしていこうとするもの。2次産業(工業・製造業)・3次産業(販売業・サービス業)を取り込むことから、「1次産業の1」×「2次産業の2」×「3次産業の3」のかけ算の6を意味している。