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May 2023

貝殻を再利用した魚礁で豊かな海を創る

  • 海中に設置されたJFシェルナースの効果についての調査の様子
  • 貝殻魚礁に集まるメバルの群れ
  • 棚状の標準的なJFシェルナース(増殖礁タイプ(2.2型))
  • JFシェルナースの貝殻の入ったメッシュパイプ
  • 貝殻の棚の間に生息する大型の伊勢エビ
  • 海洋建設株式会社の代表取締役社長・片山真基氏
  • 小型のJFシェルナース(貝藻くん)
貝殻魚礁に集まるメバルの群れ

日本の企業が、廃棄物であったカキやホタテの貝殻を再利用して魚礁(ぎょしょう)を人工的につくり、豊かな漁場を生み出す技術を開発した。貝殻を使用することによって、魚の餌となる微生物や海藻が多く魚礁につき、魚を引き寄せる漁礁となっている。

魚が集まりやすい、海の中の岩の多い場所を「魚礁」と言う。魚礁は、魚を集めるために、人工的に設ける場合があり、従来は、石、ブロック、廃船などを海中に沈めていた。その人工的に造る魚礁を貝殻でつくるという発想について、海洋建設株式会社の代表取締役社長である片山真基(まさき)さんは、先代社長で真基さんの父である片山敬一さんによるものだと語る。敬一さんが海に潜っているときに、ふとカキの養殖いかだの下をのぞいたところ、多くの魚が集まっていた。敬一さんは、「貝殻が魚を呼ぶ」と気づき、貝殻の魚礁をつくることに思い至ったという。このひらめきを得たのは1970年代の話で、そこから開発の長い道のりが始まった。

海中に設置されたJFシェルナースの効果についての調査の様子

貝殻の魚礁の設計や機能検証の方法について大学の先生を訪ねるも最初は全く相手にもしてもらえず、また、自治体に計画を話しに行った際にも「他県のゴミを持ってくるつもりか」と反発された。こうした困難な時期も、関係者に丁寧に説得と説明を行って徐々に理解を得るようになり、少しずつ前進。ようやく最初の製品化がかなったのは1990年に入ってから、というから、まさに長い道程である。その製品が「JFシェルナース」だ。直径15センチメートル、長さ98センチメートルのメッシュ状のパイプの中に330枚余りのカキやホタテの貝殻を入れ、言わば貝殻入りケースをつくる。これを、魚礁タイプの標準型の製品(6.0型)の場合、鋼材によってできた幅7.7メートル四方、高さ6.9メートル*のちょうど住宅の骨組みのような棚状の枠に固定して魚礁とする。この大きさだと、合計約1,040キログラム、約8万6千枚もの貝殻が使われるという。一方、当然、製品化するとなれば、一定の耐久性は必要であり、海中で30年は耐えられるものにする必要があった。海水による腐食なども想定して、耐久性の検証には多くの分野の専門家の意見を取り入れる必要があった。そのため、設計開発に長い時間を要したのである。

棚状の標準的なJFシェルナース(増殖礁タイプ(2.2型))
JFシェルナースの貝殻の入ったメッシュパイプ

開発には長い時間を要したものの、実際、貝殻の魚礁には数々のメリットがある。一つは、膨大な量に上る貝殻を捨てずに再利用することで、廃棄物の削減に寄与すること。そして、もう一つは、高付加価値の魚を多く漁獲できることで漁業者の利益が増えることである。貝殻の魚礁の周りには、ブリ、マハタ、タイ、ヒラメ、カサゴなどの高級魚が多く集まり、市場価値の高い漁獲が実現できる。また、魚礁の貝殻に集まる魚の餌になる生物が従来のブロック等の人工魚礁の300倍も確認され、漁獲効率で言えば従来の人工魚礁に比べ150%程度の効率アップが実現したという結果もある。

海洋建設株式会社の代表取締役社長・片山真基氏

こうした効果、利点が次第に浸透し、JFシェルナースの設置は公共事業として根付いてきた。地方自治体が発注者となり、国が予算を補助する形で設置が進み、現在では日本全国の沿岸部で1万6千基の設置実績を誇る。また、貝殻の廃棄に頭を痛めていたメキシコでJFシェルナース事業を展開。初の海外進出も果たした。

貝殻の棚の間に生息する大型の伊勢エビ

同社の片山社長は今後、さらに海にやさしい魚礁の開発研究を推し進めたいと言う。また、日本では、人手が加わることにより生物生産性と生物多様性が高くなった沿岸海域を「里海」と呼ぶが、片山社長は、この貝殻の魚礁の普及によって里海を広げ、世界の海の沿岸部分を豊かにすることを推進するために事業展開していきたいとも言う。四方を海に囲まれた海洋国家である日本発の、この「里海」というコンセプトこそが、漁獲量の減少やごみの増加という問題に直面している世界の海にとって最適の解決策であるという確信をもって、貝殻の魚礁の更なる普及に努めていく考えだ。

小型のJFシェルナース(貝藻くん)

* 6.0型の標準型。6.0型には、ほかに幅広タイプ(10メートル四方、高さ6メートル)がある。