人が働く理由はいくつもあります。「収入のため」「自己実現のため」、そして「社会に役立つため」。それは、障害のある人もない人も変わりません。障害者の就労は、近年急速に増えています。誰もが職業を通じ、誇りを持って自立した生活を送ることができるよう、政府は様々な障害者雇用対策を進めています。
1就労を希望する障害者への支援
就労を希望する障害者のために、次のような支援の仕組みが設けられています。
(1)ハローワークが中心となり福祉施設、専門機関などと連携し、就労から職場定着までを支援(チーム支援)
障害者が自分の能力や適性に合った就労ができるようにするため、ハローワークが中心となり福祉施設、支援団体などと連携・協力し、「障害者就労支援チーム」による、就職の準備段階から職場定着までの一貫した支援を実施しています。
就職の準備段階から職場定着までの一貫した支援
(2)ジョブコーチ(職場適応援助者)による支援事業
障害者が円滑に職場に適応できるようにするには、上司や同僚など職場の理解や協力も重要です。そのために、独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構が各都道府県に設置・運営している地域障害者職業センターなどでは、障害者が働く職場に「ジョブコーチ(職場適応援助者)」が訪問し、障害者と企業との双方に対しきめ細かな人的支援を行っています。 ジョブコーチ支援事業では、支援を必要とする障害者や事業主との相談を通して職場の状況などを充分把握したうえで支援計画を策定し、それに基づいて支援を実施します。障害者に対しては、「職務の遂行に関する支援」や、「職場内のコミュニケーションに関する支援」など、それぞれの課題に応じた支援を行います。
また、職場の上司や同僚による支援(ナチュラルサポート)にスムーズに移行できるよう、障害者だけではなく、職場の上司や同僚に対しても「障害を理解して適切な配慮をするための助言」や「指導方法に対する助言」といった支援を行います。
支援期間や頻度は課題に応じて設定しますが、標準的な期間は3か月間程度です。
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(3)トライアル雇用
障害者の方の中には、仕事の経験が乏しく、「どのような職種が向いているかが分からない」「仕事に耐えられるだろうか」といった不安を持っている方も少なくありません。一方、障害者雇用の取組が遅れている企業などでは、障害者雇用の知識・経験がないために、雇い入れることに躊躇する面もあります。
トライアル雇用では、まず短期の試行雇用(トライアル雇用・短時間トライアル雇用)で仕事や職場を経験した後、一般雇用への移行を促進します。
(4)障害者就業・生活支援センターによる地域における就労支援
障害者の職業生活における自立を図るため、障害者就業・生活支援センターにおいて雇用、保健、福祉、教育など地域の関係機関のネットワークを形成し、就業面と生活面における一体的な支援を行います。
(5)職業訓練
一般の職業能力開発施設での職業訓練を受講することが困難な障害者の方に職業訓練を実施している障害者職業能力開発校のほか、企業、社会福祉法人、NPO法人、民間教育訓練機関など、地域の多様な委託訓練先を開拓し、様々な障害の態様に応じた公共職業訓練を実施します。身体障害、知的障害、精神障害など、それぞれの方の障害の状態にあわせて、柔軟な職業訓練カリキュラムで受講できるほか、企業が求める技能を身につけることができます。
(6)障害者福祉施策における就労支援
「障害者総合支援法」による福祉サービスとして、一般就労を希望する障害者を対象とする「就労移行支援」と、一般就労が困難な障害者を対象とする「就労継続支援」を実施し、就労や生産活動の機会の提供、就労に必要な知識及び能力向上のために必要な訓練を行うなどの支援を行っています。
ほかにも、相談・支援機関の紹介など、様々な施策が進められています
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2障害者雇用に取り組む事業者への支援
企業などで障害者を雇用する際には、障害者が働きやすい環境を整備するため、作業施設や作業設備の改善、職場環境の整備の費用など、経済的負担も伴います。そこで、厚生労働省では、障害者の雇用に取り組む事業主に対して、次のような支援を行っています。
(1)障害者雇用率制度
従業員が一定数以上の規模の事業主には、雇用する労働者全体の数に「障害者雇用率」というものをかけた数以上の身体障害者・知的障害者を雇用する義務があります(障害者雇用促進法43条第1項)。
令和3年3月1日から、一般の民間企業の障害者雇用率は2.3%となっており、「従業員規模43.5人以上」の企業では1人以上の障害者を雇用することが義務づけられています。
事業主区分 | 法定雇用率 |
---|---|
民間企業 | 2.3% |
国、地方公共団体 | 2.6% |
都道府県等の教育委員会 | 2.5% |
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なお、雇用義務を履行しない事業主は、ハローワークが行政指導を行うとともに、次項に説明する障害者雇用納付金を納付する必要があります。
(2)障害者雇用納付金制度
障害者を雇用するには、作業施設や作業設備の改善、職場環境の整備、特別の雇用管理等が必要とされることが多く、一定の経済的負担を伴うこととなります。そこで、社会連帯理念のもと、事業主間の障害者雇用に伴う経済的負担の調整を図るとともに、障害者を雇用する事業主に助成・援助を行うことで、全体としての障害者雇用の水準を引き上げることを目的に「障害者雇用納付金制度」が設けられています。
障害者雇用納付金制度の主な内容
障害者雇用率(2.3%)を達成していない企業(常用労働者数100人超)は、不足する障害者数に応じて1人につき月額5万円の障害者雇用納付金を納付します。
この納付金を財源として、障害者雇用率(2.3%)を達成している企業などに対して、障害者雇用調整金や報奨金を支給するとともに、各種助成金などを支給します。
※概要は、次項の(3)障害者雇用に関する助成金を参照。
納付金の徴収や調整金・報奨金・助成金等の支給は、独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構が行います。
常時雇用する労働者数に応じた障害者雇用納付金の減額特例や、短時間労働者にかかわる計算方法など、障害者雇用納付金制度の詳細については、下記をご覧ください。
また、事業者には、障害者が、それぞれの職場で実情に応じて、能力や適性が発揮でき生きがいを持って働けるような職場作りが望まれています。そのための取組を実施するに当たっては、次のような支援策があります。
(3)障害者に対する差別の禁止・合理的配慮の提供義務
平成18年12月に採択された障害者の権利に関する条約について、日本は平成19年9月に署名しており、(1)あらゆる形態の雇用に係るすべての事項に関する差別の禁止、(2)職場において合理的配慮が提供されることの確保等のために適当な措置をとるべきこと等を規定する同条約に対応するため、国内法制の整備を進める必要がありました。
そのため、平成25年6月に障害者雇用促進法の一部改正により、雇用の分野における障害者に対する差別の禁止及び合理的配慮の提供義務等が規定され、平成28年4月から施行されました。
障害者差別禁止の基本的な考え方
全ての事業主は労働者の募集及び採用について、障害者に対して、障害者でない者と均等な機会を与えなければなりません。また、賃金の決定、教育訓練の実施、福利厚生施設の利用その他の待遇について、労働者が障害者であることを理由として、障害者でない者と不当な差別取扱いをしてはならないとされています。
平成27年3月に策定された、「障害者差別禁止指針」では、障害者に対する差別の禁止に関し、具体的な事例などを挙げています。
合理的配慮の提供義務の基本的な考え方
合理的配慮とは、募集及び採用時においては、障害者と障害者でない者との均等な機会の確保の支障となっている事情を改善するための措置のことをいいます。採用後においては、障害者と障害者でない労働者との均等な待遇の確保または障害者である労働者の有する能力の有効な発揮の支障となっている事情を改善するための措置のことをいいます。
平成27年3月に策定された「合理的配慮指針」では、障害者に対する配慮に関し、事業主が講ずべき措置として、実施に当たっての必要な事項や具体的な事例などを挙げています。
【募集・採用時】
視覚障害がある方に対し、点字や音声などで採用試験を行うこと
聴覚・言語障害がある方に対し、筆談などで面接を行うこと
【採用後】
肢体不自由がある方に対し、机の高さを調整することなど作業を可能にする工夫を行うこと
知的障害がある方に対し、図などを活用した業務マニュアルを作成したり、業務指示は内容を明確にしてひとつずつ行なったりするなど作業手順を分かりやすく示すこと
精神障害がある方などに対し、出退勤時刻・休暇・休憩に関し、通院・体調に配慮すること など
事業主には、こちらの措置を、過重な負担にならない範囲で提供していただきます。
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(4)障害者雇用に関する助成金
障害者の雇い入れなどを支援する助成金
ハローワークなどの紹介により障害者を雇用した事業主に助成する「特定求職者雇用開発助成金」や、障害者トライアル雇用で障害者を試行的に雇い入れた事業主に助成する「障害者トライアル雇用助成金」をはじめ、様々な助成金が用意されています。
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問い合わせ先
障害者が働き続けることができるよう支援する助成金(障害者雇用納付金制度に基づく助成金)
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(5)障害者雇用に係る税制の優遇措置
障害者を雇用する事業主に対しては、税制上の優遇措置が適用されます。
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(6)障害者雇用に関する相談・支援
ハローワーク
ハローワークでは、障害者を対象とした求人の申し込みを受け付けています。専門の職員・相談員が就職を希望する障害者にきめ細かな職業相談を行い、就職した後は業務に適応できるよう職場定着指導も行っています。
そのほか、障害者を雇用する事業主や雇用しようとしている事業主に、雇用管理上の配慮などについての助言や、広く一般労働者を対象とした、精神・発達障害の特性を正しく理解して職場で温かく見守る応援者となる「精神・発達障害者しごとサポーター」を養成するための講座の開催、必要に応じて地域障害者職業センターなどの専門機関の紹介、各種助成金の案内を行っています。また、求人者・求職者が一堂に会する就職面接会も開催しています。
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独立行政法人 高齢・障害・求職者雇用支援機構
職業リハビリテーション専門機関の立場から雇用管理に関する助言その他の支援を行っています。
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3障害者雇用の取組例
障害者を雇用するために、職場ではどのような準備や取組をしていけばよいのでしょうか。職場での取組を考える際の参考になるのが、独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構が作成している「職場改善好事例集」「視覚障害者の雇用事例集」、「精神障害者雇用管理ガイドブック」です。
これは、障害者の雇用管理や雇用形態、職場環境、職域開発などについて事業所が創意工夫して実践している取組を、テーマ別にとりまとめて紹介した事例集です。肢体不自由者、知的障害者、精神障害者、発達障害者、聴覚障害者、内部障害者などの障害別の職場改善事例や、障害者の職域拡大やキャリアアップのための改善事例など、様々なケースが紹介されています。
皆さんの職場でも参考にしてみてはいかがですか。
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9月は「障害者雇用支援月間」です
事業主のみならず、広く国民の皆様に対して障害者雇用の機運を醸成するとともに、障害者の職業的自立を支援するため、厚生労働省や独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構をはじめとする関係機関が協力して、様々な啓発活動を行っています。
(取材協力 厚生労働省 文責 政府広報オンライン)
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