令和4年(2022年)6月29日
水の事故、山の事故を防いで
海、川、山を安全に楽しむために

夏は海や川、山など、アウトドアでのレジャーを楽しむ機会が増える季節です。自然に触れるレジャーは、楽しみがある半面、自然ならではの危険もあります。アウトドアでの事故を防ぐためには、自然を甘く見ず、危険をきちんと認識し、計画を立てて行動することが大事です。ここでは、海水浴や川遊び、山登りやハイキングなどでの注意点を紹介します。
1.水難の約半数は死亡事故に!
水辺のトラブルは重大事故になりやすい。子供の事故は「河川」で多発
「水の事故」と一言でいっても、実際にどれほどの件数が起き、何人の方が亡くなり、どのような場所で起きているのでしょうか。
令和3年(2021年)に全国で発生した水難は1,395件、水難に遭った人の数は1,625人に上っています。そのうち744人が亡くなったり行方不明となったりしています。いったん事故が起きると、命にかかわる重大事故になる可能性が非常に高いのが、水難の特徴だといえます。
水難の死亡・行方不明はどのような場所で発生しているのか、死者・行方不明者の割合を場所別にみると、1位が「海」で全体の49.2%、2位が「河川」(34.0%)、3位が「用水路」(9.0%)、4位が「湖沼池」(7.1%)となっています(グラフ1)。
グラフ1:令和3年 水難の場所別 死者・行方不明者の割合(n=744人)
資料提供:警察庁「令和3年における水難の概況」
また、水難の死亡・行方不明が、どのような場合に起きているかをみると、28.8%が「魚とり・釣り中」、6.2%が「通行中」、5.5%が「水遊び中」、そして5.0%が「作業中」となっています(グラフ2)。
グラフ2:令和3年 水難の行為別 死者・行方不明者の割合(n=744人)
資料提供:警察庁「令和3年における水難の概況」
子供(中学生以下)の死者・行方不明者の割合を場所別にみると、1位が「河川」で全体の58.1%、次いで「湖沼池」(19.4%)、「海」(16.1%)、「用水路」(6.5%)となっています(グラフ3)。子供の場合は、河川での水遊びによる事故が多く発生しています。
グラフ3:令和3年 水難の場所別 死者・行方不明者の割合~子供の場合(n=31人)
資料提供:警察庁「令和3年における水難の概況」
こうした水の事故を防ぐためには、海や川などそれぞれの自然環境の特徴を理解し、水難につながりやすい危険な場所、危険な行為などを知っておくことが重要です。次に、海と河川などの場所別に、水難予防のポイントを説明します。
2.こうして防ごう! 海の事故
不注意や無謀な行動が水難の原因に。「離岸流」や「急な深み」にも注意
水の事故を防ぐためには、自然環境の特徴を理解し、水難につながりやすい危険な場所などを事前に知っておくことが重要です。また、自身の不注意や無謀な行動、危険な悪ふざけが水難事故につながることが多くあります。
ここでは、遊泳を中心に、海で事故に遭わないための注意点を紹介します。
海での水難を防ぐための注意点
(1)遊泳をするときは、管理された海水浴場を利用する
海水浴場以外の海岸は、急に水深が深くなっている場所や岸から沖への海水の流れ(離岸流)などが発生する場所があり、危険です。また、ライフセーバーや監視員等が不在なため、万が一事故が発生しても、救助までに時間が掛かる可能性があります。海で泳ぐ場合は、ライフセーバーや監視員等が常にいる管理された海水浴場を利用しましょう。
(2)健康状態が優れないときやお酒を飲んだときは泳がない
体調が優れないときや睡眠不足等で疲れているときは、遊泳や釣りなどは控えましょう。特に、飲酒後は判断力、集中力や運動能力が低下し、大変危険ですので、絶対にやめましょう。
(3)事前に天気予報を確認する
事前に天気予報を確認し、海が荒れているとき、荒れることが予想されるときは、遊泳などを中止しましょう。

(4)子供から目を離さない
子供は危険が近づいていても察知することができないので、小さな波でも思いがけず足をすくわれ、溺れることがあります。また、子供が波打ち際で遊んでいても、波にさらわれ沖に流されることがあるので、海に入っていなくても油断は禁物です。
保護者の方は、子供にライフジャケットを着用させ、常に目を離さないようにしましょう。
(5)自己救命策の確保の推進~事故から命を守るために~
- ライフジャケットの常時着用
海で活動する際にライフジャケットを着用しているかが生死を分ける要素になります。海に落ちた際にライフジャケットが脱げてしまう、膨張式のライフジャケットが膨らまないといったことがないように、保守・点検のうえ、正しく着用することが大切です。 - 防水パック入り携帯電話等の連絡手段の確保
海の事故に遭遇した際は、救助機関に早期に通報し救助を求める必要がありますが、携帯電話を海没させ通報できないことがあるため、ストラップ付防水パックを利用して、携帯電話等を携行することが重要です。 - 118番・NET118の活用
海上における事件・事故の緊急通報用電話番号「118番」を海上保安庁では運用しています。海の事故で救助を求める際は、携帯電話のGPS機能を「ON」にしたうえで遭難者自身が118番に直接通報することにより、海上保安庁が正確な位置を受信することができるので、迅速な救助につながります。また、聴覚や発話に障がいをもつ方を対象に、スマートフォンなどを使用した入力操作により通報が可能となる「NET118」というサービスも運用しています。 - 家族や友人・関係者への目的地等の連絡
海に行く際には、家族や友人・関係者に自身の目的地や帰宅時間を伝えておくほか、現在位置等を定期的に連絡するなども有効な自己救命策のひとつです。これらの連絡は、万が一事故が起こってしまった場合に周囲の人々が事故に早く気づくきっかけとなり、速やかな救助要請、ひいては迅速な救助につながります。
海の事故防止については、下記も参考にしてください。
海上保安庁「ウォーターセーフティガイド」
3.こうして防ごう! 川の事故
川の地形・天気の急変や急激な増水に注意
川などでのレジャーでは、魚とりや釣り、水遊びやボート遊びなどのほかに、河原でのバーベキューなど、必ずしも水に入ることを目的としない楽しみ方もあります。そのような川などのレジャーでも、毎年のように水難が発生しています。特に子供は河川での事故が多いため、絶対に一人では遊ばせないようにしましょう。
川の状態は、曲がり方、傾斜、川幅、岩の突出などの地形によって、右岸、左岸でも川の流れが違っていたり、川底に深みがあったりするため急に流されたり、深みにはまったりする危険があります。また、上流の天候などによって大きく変化し、安全と思われる場所でも、上流で豪雨などがあると急に増水し、水難につながる危険があります。
川などでの水難を避けるためには、前述したような海での注意点に加えて、次のような注意をしてください。
川の地形を知り、急な増水に備えるために
(1)出掛ける前に天気や川の情報をチェック
川などに行く前に、天気や川の情報をチェックしましょう。悪天候が予想されているときは、無理をせず、中止・延期を検討しましょう。また、上流にダムがある場合は水量や水の需要に応じて放水することがあり、その場合は急激に増水することがあります。
川の防災情報(国土交通省)
全国のリアルタイム雨量・水位などの情報を提供しています。
全国の水難事故マップ(公益財団法人河川財団)
2003年以降の全国の河川で発生した水難事故のうち、報道などで把握できた事故の発生場所と発生状況を地図上に表示しています。
(2)危険を示す掲示板、水流が速い・深みがあるところは避ける
川では、「危険を示す掲示板」が設置されているところがあります。そうした掲示板がある場所では遊ばないようにしましょう。また、川の地形は複雑であり、同じ川でも場所によって川の流れが速くなっていたり、急に深くなったりする場所があります。そのようなところには近づかないようにしましょう。
危険を示す掲示板の一例
地形などによって流れは変わります。
(画像提供:(公財)河川財団)
(3)河原や中州、川幅の狭いところに注意
河原や中州は、急な増水により水没する可能性があります。特に中州は、増水すると逃げ道がなくなり、取り残されてしまう危険があります。また、川幅が狭い場所は、増水すると短時間のうちに水位が上昇し、川の流れが速くなるおそれがあります。こうした場所では特に注意が必要です。
急に増水する川に注意
(画像提供:(公財)河川財団)
(4)天気や川の変化に注意する
川辺にいるときは、天候の変化や川の状態に注意しましょう。次のような変化が見られたときは、川の水が急に増えるサインです。すぐに避難しましょう。
- 上流(水が流れてくる方)の空に黒い雲が見えたとき
- 雷が聞こえたとき
- 雨が降り始めたとき
- 落ち葉や流木、ゴミが流れてきたとき

(5)ライフジャケットを着用する。
たとえ浅い川でも急に増水することがあるため、ライフジャケットを必ず着用しましょう。特に河川では、水面下に複雑で強い流れがあります。途中で脱げてしまわないように、ベルトを締めるなど正しく着用し、身体にしっかりフィットさせましょう。
豪雨・台風などのときは、くれぐれもご注意を!
中小河川や用水路などでも、多くの水の事故が発生しています。集中豪雨などのために、ごく短時間のうちに水位が急上昇して水があふれ出し、川沿いの公園や道路にいた人が押し流された事例や、あふれた水のために河川や用水路の位置が分かりにくくなり、足を踏み外して流されてしまう、といった事例が起きています。
川での水難防止については、下記も参考にしてください。
4.依然多い、中高年の山岳遭難
遭難の理由は「道迷い」「転倒」「滑落」。遭難者の約5割が60歳以上
令和3年(2021年)には2,635件の山岳遭難が発生し、計3,075人が遭難しています。そのうち死者・行方不明者は283人でした。過去10年間の山岳遭難発生件数をみると、増加傾向で推移していたのが、令和元年から2年連続で減少したものの、令和3年は増加に転じ、過去最多となった平成30年に次ぐ件数となりました。3,000m級の山岳では、例年と比較して遭難者数が減少しましたが、首都圏近郊の標高の高くない山等では増加しました。
山に入った目的別に遭難者の割合をみると、1位が「登山(ハイキング、岩登り、スキー登山などを含む)」で全体の77.9%、2位が「山菜・きのこ採り」(11.3%)となっています。
遭難の内容別にみると、1位が「道迷い」で全体の41.5%、2位が「転倒」(16.6%)、3位が「滑落」(16.1%)となっています(グラフ4)。
グラフ4:令和3年 山岳遭難の態様(n=3,075人)
資料提供:警察庁「令和3年における山岳遭難の概況」
年齢層別にみると、60歳以上が全遭難者の48.3%を占めています(グラフ5)。そして死者・行方不明者においては、60歳以上が71.7%にはね上がります。
グラフ5:令和3年 山岳遭難者の年齢層別割合(n=3,075人)
資料提供:警察庁「令和3年における山岳遭難の概況」
5.こうして防ごう! 山岳遭難
体力・経験などに応じた安全な登山計画と十分な装備を
山岳遭難の多くは、不十分な装備で体力的に無理な計画を立てたり、天候に対して適切な判断ができなかったりするなど、知識・経験・体力の不足などが原因で発生しています。比較的気象条件に恵まれることの多い夏の山でも、山には様々な危険があります。また、標高の高い山だけでなく、低い山でも山岳遭難は発生しています。遭難を防ぎ、安全に山を楽しむために、次のことに注意しましょう。
遭難を防ぐための注意点

(1)知識・体力・経験に見合った山選びを
登山者の体力、体調、登山の経験、気象条件などに見合った山を選択し、登山コース、日程、十分な装備、食料などに配慮して、余裕のある安全な登山計画を立てましょう。例えば滑落などの危険箇所が、目的とするコースのどこにどのようにあるか、山小屋などの宿泊施設、避難施設がどこにあるのか、営業しているのかなど、事前によく調べ、回避コースを含めて十分に把握しておきましょう。
また、単独登山はできるだけ避け、信頼できるリーダーを中心にグループを組むようにしましょう。
(2) 登山計画の作成、提出
登山計画を立てたら、登山者の氏名や連絡先、日程やコースなどを登山計画書にまとめて、家庭、クラブ(山岳会)、職場、登山口などの登山届ポスト、山を管轄する警察署などに提出しておきましょう。また、インターネットによる登山届(一部の県警察ホームページ、公益社団法人日本山岳ガイド協会オンライン登山計画システム「コンパス」など)の方法もあります。
登山計画書を提出しておけば、救助機関が遭難の発生を認知した際、捜索・救助が迅速に行われる可能性が高まります。
なお、登山計画書の書き方は、山岳関係団体や山を管轄する警察のホームページなどに参考例があります。
(3)冷静な状況判断と、慎重な行動を
山岳遭難では、気象の急変による「気象遭難」も多発しています。登山予定日の数日前から現地の気象に注意し、悪天候の場合は無理に登山をするのはやめましょう。
登山中に、霧(ガス)や雨、あるいは雪などで視界不良になった場合や、疲労や病気などで体調不良になった場合は、滑落や道迷いなどの危険があります。そうした場合は状況を冷静に判断して、早めに登山を中止するよう努めましょう。道迷いを防ぐためには、地図、コンパス、登山用GPSなどを活用して、常に自分の位置を確認するよう心がけましょう。
また、滑落や転落を防ぐためには、あらかじめ滑りにくい登山靴やストックなどの装備を有効に使うとともに、気を緩めることなく常に慎重な行動を心がけましょう。
(4)通信手段の確保
万一、遭難したときに地元の警察などに通報して助けを求められるよう、携帯電話やスマートフォンなどの通信手段を携行しましょう。山では携帯電話の通話圏外になる場所も多くありますが、GPS付き携帯電話などからの通報で救出された例も少なくありません。山ではバッテリーの消耗が速くなることがあります。予備のバッテリーもお忘れなく。
(取材協力:警察庁、国土交通省、海上保安庁 文責:政府広報オンライン)
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