ヤングケアラー 子どもが子どもでいられるように
“今”しかない貴重な「子どもとしての時間」を家族や家庭に費やしている子どもがいます。あなたの周りにもいるかもしれません。今回は、「ヤングケアラー 子どもが子どもでいられるように」というテーマで深掘りしました。

- ゲスト
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厚生労働省子ども家庭局
家庭福祉課室長
羽野 嘉朗
一般社団法人ケアラーアクションネットワーク協会
代表理事
持田 恭子
ストリーミング(音声で聴く)
- 放送日
- 令和4年(2022年)7月17日
- 時間
- 18分36秒
- 配信終了予定日
- 令和5年(2023年)7月16日
文字で読む
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青木 - 足立さんは【ヤングケアラー】という言葉を聞いたことがありますか?
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足立 - 正直、聞いたことがありませんでした。
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青木 - ヤングケアラーとは、本来、大人が担うと想定されている家事や家族の世話などを日常的に行っている子どものことです。子どもが家の手伝いをするのは普通のことと思われるかもしれません。でも、ヤングケアラーは年齢などに見合わない重い責任や負担を負うことで、本来なら享受できたはずの、勉強に励む時間、部活に打ち込む時間、将来に思いを巡らせる時間、友人との他愛ない時間、これらの「子どもとしての時間」と引き換えに、家事や家族の世話をしていることもあり、社会全体による支援が求められているんです。
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足立 - 意外とこういう子どもたち、居そうだなと聞いていて思ったのですが、ヤングケアラーといわれる子どもたちは、どれくらいいるのか分かっているんですか?
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青木 - その辺りも含めて、ここからはスペシャリストと一緒に深掘りしてまいりましょう。今日はお二人、お招きしています。ヤングケアラー支援の制度作りをされている、厚生労働省 子ども家庭局 家庭福祉課室長の羽野嘉朗さんと、ケアラーやヤングケアラーを様々なスタイルで支援されている、一般社団法人ケアラーアクションネットワーク協会 代表理事の持田恭子さんです。
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足立 - 早速ですが羽野さん、ヤングケアラーといわれる子どもたちは、どれくらいいるのか分かっているのでしょうか?
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羽野 - 2020年度から昨年度に掛けて、小学6年生、中学2年生、高校2年生、大学3年生を対象に実施した調査によると、世話をしている家族が「いる」と回答したのは、おおむね4パーセントから6パーセントであるなどの実態が明らかとなりました。これらがそのままヤングケアラーというわけではありませんけども、この中には支援が必要なヤングケアラーが一定数いると思っております。実は、ヤングケアラーは家庭内のデリケートな問題であることなどから表面化しにくく、また、ヤングケアラーという概念自体、まだあまり知られていないので、支援が必要な子どもがいても、子ども自身や周囲の大人が気付きにくい状況です。
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青木 - 割合からすると、クラスにだいたい一人から二人は家族をケアする子どもがいるということになりますね。
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足立 - 意外といますね。先ほど、ヤングケアラーは「本来、大人が担うと想定されるような家事や家族の世話などを日常的にしている」と説明がありましたけど、それは具体的にどういうものなんでしょうか?
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羽野 - 例えば、何らかの家族の事情によって子どもが食事の準備や掃除洗濯といった家事を代わりに行ったり、家族の身の回りの世話、更には日本語を母国語としない親への通訳なども含まれ、ケアの内容は多岐にわたります。
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足立 - こうしたことを日常的に行うと、子どもたちの生活に影響が出てきますよね?
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羽野 - 先ほど申し上げました調査では、世話をしている家族が「いる」と回答した子どもに対し、世話をしているためにやりたいけどできていないことを聞いたところ、「勉強する時間が十分に取れない」「友人と遊ぶことができない」「睡眠が十分に取れない」という回答が一定数あり、中には「学校に行きたくてもいけない」といったものも見られました。
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青木 - こうした状況ですと、「遅刻や早退・欠席が増えて学業に影響がでる」「友人とのコミュニケーションを取れる時間が少ない」「就職の際は自分にできると思う仕事の範囲を狭めて考えてしまったり、自分のやってきたことをアピールできない」などの影響が出る可能性も考えられるそうです。持田さんは、以前、ヤングケアラーだったそうですが、どんな役割を担っていたんですか?
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持田 - はい。私は、両親と兄との四人家族で、兄はダウン症と知的障害があります。私が小学生の頃から母の感情面のサポートを主にしていて、母が入院していた時には家事を全て担っていました。また、知的障害のある兄のお迎えをしたり、洋服の着替えを助けたり、トイレに積極的に行かせていました。
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青木 - 先ほど羽野さんにご紹介いただいた調査では、こんなことも分かっています。大学生が世話をしているのは「母親」の割合が最も高く、その母親の状況は、精神疾患の割合が高いということです。また、母親の世話の中には「愚痴を聴く、話し相手になる」など、親の話を親身に聞くことも含まれるため、子どもにとっては精神的に負担が掛かるケアだと思います。
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青木 - 持田さんは当時、ご自分の状況をどのように感じていらっしゃいましたか?
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持田 - やはり、“世話をしている”という感覚は全く持っていませんでした。また、その時、誰かに相談しようという発想や、誰かに話そうという気持ちにもならないんです。友達に家族が不安定な時の話をすると、暗い印象を与えるので、友達から話を反らされてしまったりだとか、逆に、兄といて楽しい時の話をしていても、知的障害や障害を持っている兄というのは、周りの友達には理解できないことなので、その楽しさも伝わらないんです。結局、誰にも本音を打ち明けることはできませんでした。当時は、これからどうなるのかという見通しも見えてなかったので、将来のことを考えると、自分が家族を支え続けるか、それとも家族から離れるかの究極の選択しか思い浮かびませんでした。自分と似たような体験・経験をしている同世代の人に会ったことがなかったので、気軽に打ち明けられる人が欲しかったし、自分の気持ちを分かってもらえる人に会いたいと小学生の頃からずっと思っていました。
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青木 - ご自身の経験を経て、持田さんは日頃からヤングケアラーの人たちと接する機会が多いと思います。子どもたちは、自分の状況をどのように感じているようですか?
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持田 - 子どもたちは、「自分が家族を支えるんだ」と強い責任感を持つ子どもがいるかと思えば、「家族を支えるのは当たり前のことだ」と家族や親戚から頼りにされ過ぎて苦しくなっている子どももいます。精神疾患のある母親に対応している高校生は、学校の先生たちに精神疾患の特性とその生活を理解してほしいと話していました。また、発達障害のある弟がいる中学生は、こんな思いをしているのは自分だけだと思って毎日泣いていたと打ち明けてくれました。誰かに相談しても、家庭の状況は変わらないと諦めている子どもは多いですね。一方、私たちが提供しているヤングケアラー向けのプログラムに参加した高校生・中学生は、当初は自分がケアをしているとは認識していませんでしたが、日々家庭でやっていることを誰かに聞いてもらい、自分の状況を客観的に受け入れることができるようになって「自分も頑張ってケアをしてきた」と徐々に認識することができるようになりました。昔も今も変わらないということは、ケアラーの支援が今まで見過ごされてきたということだと思っています。
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青木 - 持田さんは、日々こういった支援活動をされていますが、ここからはヤングケアラーの支援について伺わせてください。羽野さん、課題がいろいろあるそうですね。
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羽野 - はい。昨年、立ち上げた厚生労働省と文部科学省とのプロジェクトチームでは、三つの課題が指摘されています。一つ目は、表面化しにくいヤングケアラーについて、実態把握や学校等関係機関での研修が十分でなく、発見・把握も十分でないことです。
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青木 - 学校側も家庭のことにどこまで踏み込んでいいのか、そのラインは難しいですよね。
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羽野 - はい。そのとおりです。二つ目は、支援策や支援につなぐための窓口が明確ではないことです。三つ目は、ヤングケアラーの社会的認知度が低く、支援が必要な子どもがいても、子ども自身や周囲の大人が気付くことができないことが指摘されています。そのため政府では、関係機関が連携しヤングケアラーを早期に発見して適切な支援につなげるための取組を進めているところです。
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青木 - 適切な支援につなげるための様々な取組、一例を挙げますと、ヤングケアラーの実態調査、ヤングケアラーについて学ぶための研修、更には地方自治体に関係機関と民間支援団体などとのパイプ役となる「ヤングケアラー・コーディネーター」を配置、様々な取組を行っています。
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足立 - ただ、、家族の世話を日常的にする子どもはずっと昔からいたと思うんですけど、昔と今で何か変わったり違うことがあるんですか?
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羽野 - 祖父母や兄弟などの面倒を見る子どもは昔からいたと思いますが、近年は核家族化や共働き世帯の増加と同時に、高齢化や精神疾患を持つ人など、ケアを必要とする人が増えていることが分かっています。こうした様々な要因が絡み合い、子どもがケアを担う割合やその内容の程度が重くなってきているので、社会でサポートすることが必要になってきています。
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足立 - 先ほど、羽野さんがヤングケアラーは子ども自身が自覚していない場合もあるというようなことをおっしゃっていましたよね。持田さんは、そういった子どもとは、どのように接しているんですか?
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持田 - 私たちは、子どもたち自身がそういった気付きや発見を得られるように接しています。具体的には、子どもに最初から「あなたはヤングケアラーだよ」と決め付けるのではなく、ケアとはどういうものなのかを伝え、日頃から子どもたちが「していること」と「ケア」を比較し、結び付けて考えていきます。最終的には子ども自身が自分の役割を認知し、案外家族だけで抱え込んでいるのだなということに自分自身で気付くようになります。先ほどの話にもありましたように、子どもたちは昔も今も家族の世話を当たり前にしてきていますが、これからはもっと、たくさんの人に頼りながら一緒に考えていけるような社会になるといいなと思っています。
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青木 - 具体的にはどういったツールでコミュニケーションを取っているのでしょうか?
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持田 - 今は、LINEや電話による個別相談をしていますが、アドバイスというよりは、丁寧に話を最後まで聞くようにしています。たとえ、子どもたちが否定的なことを言っていても、諭すのではなく、一旦は子どもたちの言葉を全て受け止めて、「どうしてそう思ったのか」、「その時、どんな気分だった」と深く掘り下げていくようにしています。
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足立 - 周りの大人たちができることはありますか?また、ヤングケアラーと接する際に心掛けておいた方がいいことはありますか?
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持田 - 子どもたちは、自分の話を自分事として捉えてほしい、そして最後まで聞いてほしい、と願っています。自分がもし、同じような立場だったらと考えると、出てくる言葉の雰囲気も変わりますよね。そうしたことを、敏感に察知していますので、「こうしたほうがいいよ」、「こうしなよ!」というアドバイスは必要としていません。やはり、受け止めてほしいといつも言っています。子どもだから状況はまだ分からないだろうと思わず、必要な情報や知識、家族の病気の状態や障害の特性はしっかり教えてあげてほしいです。
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羽野 - 行政がヤングケアラー支援に意識を高く持つことは必要だと思っていますが、行政だけが頑張っても、できることは本当にごくわずかだと思います。そういう意味で、支援者団体を始め、地域の方々の力を借りることは必要だと思いますし、そういうところと関わりのない方であっても、お一人お一人が、ヤングケアラーについて少しだけアンテナを高くしていただいて、もし身近にヤングケアラーがいたら少し気に掛けてもらって、そして親身になって、話に耳を傾けてもらうだけで、きっと大きな助けになると思います。日本全体で、多くの人が、ヤングケアラーについて正しく理解し、考えられるような社会になっていけるよう、政府で取組を進めてまいります。
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足立 - 今日の話を聞いて、なかなか周りに話ができない状況や自分自身がヤングケアラーだと思っていない子どもたちが多いという現状に何とかしたいという気持ちになりました。もし、自分が気付けることがあるのであれば、最後まで話を聞いて受け止めていくことが、私たちにできることなのかなと思いました。
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青木 - 私は、ヤングケアラーは家庭内のことですのでなかなか気付かない部分もあるんですが、確実に悩んでいる子どもが、クラスにだいたい一人から二人の割合でいるということを、まずは頭に入れたいなと思いました。調査によっても、おおむね4パーセントから6パーセントは世話をしている家族がいると回答していますから。
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