従業員の雇用を守る 在籍型出向
コロナ禍の今、改めて注目されている働き方をご存じですか?今回は、「従業員の雇用を守る 在籍型出向」というテーマで深掘りしました。

- ゲスト
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厚生労働省
職業安定局雇用開発企画課 労働移動支援室長
小林 学
ストリーミング(音声で聴く)
- 放送日
- 令和4年(2022年)3月20日
- 時間
- 18分02秒
- 配信終了予定日
- 令和5年(2023年)3月19日
文字で読む
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青木 - コロナ禍が長引いていて、様々なところに影響が出ています。ダメージを受けている業界というと、どんな業界を思いつきますか?
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足立 - 飲食業、ホテル、旅行関係の業界でしょうか。
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青木 - こうした業界は仕事が減って人手が余っているところが多い状況です。では、逆に、コロナ禍で仕事が増えている業界というと?
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足立 - 医療業界は増えていますよね。
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青木 - そうですね。他には、ペーパータオルやマスクを使うことが多くなりましたよね。そういった衛生用品関係業界や、IT業界などありますが、これらの業界では、先ほどとは逆に仕事が増え人手が足りないという課題を抱えています。特に医療業界や介護業界などはコロナ禍に関係なく常に人手不足に悩んでいます。こうした、それぞれの課題を解決する方法として、今、注目されているのが【在籍型出向】なんです。それでは、スペシャリストにお話を伺っていきましょう!厚生労働省労働移動支援室長の小林学さんです。
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足立 - まずは、在籍型出向というのは、どういうものなのか教えてください。
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小林 - シンプルにご説明しますと、ある企業の従業員が、その企業との雇用関係を保ったまま、別の企業で働くために出向することを在籍型出向と言っています。従業員は、出向元の企業と、出向先の企業の両方との雇用関係を持ちながら、一定期間、出向先で働いて、一定期間が終わると、また元の企業に戻って働くことになります。
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青木 - なぜ、こうした在籍型出向が注目されているのかというと、人手が余っている企業、人手不足の企業、そして、そうした企業で働く従業員、三者にとってメリットがあるからなんです。
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小林 - 在籍型出向という出向のスタイルは以前からありますが、新型コロナの影響で産業構造や働き方が大きく変わってきていて、その結果、多くの企業が雇用に関する課題を抱えはじめ、改めて注目されるようになりました。
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足立 - それぞれにメリットがあるということですが人手が余っている企業には、どんなメリットがあるんですか?
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小林 - 今は仕事が減って経営が厳しいけれど、この先再び業績の回復が見込まれる場合、その企業は経験豊富な従業員を手放したくはないです。でも、在籍型出向ならば、従業員と雇用契約を維持したままの出向なので、出向期間が終わったら戻ってきてもらえるメリットがあります。
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足立 - 再び人手が必要になった時に、人手不足で困ることがないんですね。
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青木 - また、長いこと仕事がない状態が続くと従業員の働く意欲が低下してしまうことが心配されます。でも出向先で働くことができれば、モチベーションの維持や向上につながる可能性も期待できます。
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足立 - では、人手不足の企業にとってのメリットはどんなことが挙げられますか?ひとつは労働力を確保できるということだと思いますが。
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小林 - はい。そのとおりです。それに伴って自社の従業員の業務負担が軽くなります。それから、即戦力となる人材を確保できるということもメリットの一つです。その方は、出向前も社会で普通にお仕事をされている方ですので、社会人としての基礎スキルや、職務を遂行するノウハウがすでにある場合がほとんどですから、人材育成のコストが削減できる可能性が高いということになります。
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青木 - また、新しい従業員の存在が自社の社員の刺激になり、業務が改善されたり、職場が活性化することも期待できますよね。違う業界からの新しい視点、新しい考え方が持ち込まれますよね。業務改善が図られるだけでなく、もしかしたら、イノベーションが生まれるかもしれません。
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足立 - では、出向する従業員にとっては、どんなメリットがあるんですか?
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小林 - はい。まずは、出向期間が終われば確実に元の企業に戻ることが保障されていますから、安心して働くことができるという点があります。それから、出向先での新しい仕事の経験や新しい人間関係も含めて、本人のキャリアアップにつながる可能性もあります。
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足立 - 確かに、出向元の企業、出向先の企業、従業員と、三者にとってメリットがあるのですね。
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小林 - はい。こうした在籍型出向は大手の企業が行うものと思われがちですが今は中小企業でも活用が広がっています。
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青木 - ここからは在籍型出向の具体的な例をご紹介していきましょう!事例その1「シティーホテルから、コンビニエンスストアへの在籍型出向」です。シティーホテル側は「コロナ禍の影響により宿泊者が大幅に減少しているので、在籍型出向を活用して従業員の雇用を維持したい」コンビニ側は「直轄のコンビニエンスストアの店長となる人材を確保したい」という思いがあり出向契約を結びました。これによりシティーホテルの従業員6名がコンビニ側とも2年の雇用契約を結び、出向となっています。
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足立 - 仕事の内容がだいぶ違うような気がしますけど。
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小林 - 実は、こうした異業種であっても、少しだけ視点を変えると仕事内容の相性が良い場合が多くあります。このケースでは、どちらもシフト勤務、夜勤があるという点は共通していると思います。ホテルの従業員の方もシフト勤務が多いでしょうから、その点でコンビニの仕事に抵抗感が少ないと思います。また、コンビニは店舗が多いですから、出向される方に対して、勤務地を住まいから通いやすい場所にするなどの配慮ができる場合があります。
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足立 - 異業種でも相性の良いマッチングなんですね。
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青木 - では続いて、事例その2「鉄道会社から、介護事業所への在籍型出向」。鉄道会社側は「コロナの影響で車両運行本数を減らしているため在籍型出向を活用して運転士や車掌などの雇用を維持したい」。介護事業所側は「慢性的に人手不足。1年以上、継続して働いてくれる人材を確保したい」という思いがあり、出向契約を結びました。これにより鉄道会社の従業員6名が介護事業所側とも1年の雇用契約を結び、出向となっています。
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足立 - これは先ほどの事例と違って、まったく相性の良い点が思い浮かばないのですが。鉄道の運転手さんに「明日から介護の仕事をやってくれない?」と言っても戸惑っちゃいますよね。
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小林 - そうですね。このケースの場合、鉄道会社は予め希望者を募って出向する従業員を選びました。一方、介護事業所側は受け入れに先立ち、自治体と連携して介護職員の研修を1か月間行って、必要なスキルを身に付けてもらったそうです。
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青木 - わざわざ研修を受けなければならないと聞くと、出向する従業員にとって負担になるように感じてしまいますが、考えようによっては、その従業員に介護のスキルが身に付くとも言えます。出向期間が終わって鉄道の業務に戻った時、車掌さんであれば、身体の不自由なお客さんのサポートにスキルを発揮することができます。また、家族に介護が必要となった場合にも役立てることができますよね。
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足立 - ここまでメリットを伺ってきて、出向のイメージがだいぶ変わったのですが、在籍型出向のポイントは相性のいい企業を見つけることが大事じゃないですか? 皆さん、どのように見つけているんですか?
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青木 - 厚生労働省が実施したアンケート調査によると、在籍型出向の相手先は、元々取引関係のある企業と回答した企業が半数ほど、また社長同士が知り合いの場合も多いようです。でも、一時的であっても業績が悪くなっていることを関係している他社に知られたくない場合もあります。また今回のコロナ禍の場合、同じ業種の企業が影響を受けていて、取引関係のある企業から相手を探すのが難しい場合もあるんです。
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小林 - はい。そこで、政府ではいくつかの支援制度を設けて在籍型出向を促進しています。例えば、新型コロナの影響で一時的に雇用過剰となった企業が在籍型出向を活用したいと考えた場合、【産業雇用安定センター】という団体で相談を受け付けています。【産業雇用安定センター】は、企業同士の出向のマッチングを無料で行っていて、コンサルタントが一緒に相手先を見つけたり、出向の契約を結ぶサポートをしたりしています。
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青木 - 【産業雇用安定センター】は企業間の出向や移籍を支援することにより「失業なき労働移動」を実現するために1987年に設立され、これまで22万件以上の出向や移籍の成立実績がある公益財団法人です。全国47都道府県に事務所があるので全国の企業の中から在籍型出向の相手を探すことができます。
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足立 - マッチングの手数料が無料というのは、厳しい時だけに助かりますね。
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小林 - また、厚生労働省では【産業雇用安定助成金】という支援制度も用意しています。出向中に、出向元と出向先それぞれの企業が負担した、出向労働者への賃金や教育訓練などの費用の最大9割の助成を受けることができる制度です。
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青木 - 新しく研修するってお金がかかりますからね。最大9割の助成があるのですね。また、在籍型出向を成立させるために必要となる初期経費も助成します。例えば、就業規則や出向契約書を整備する費用、出向元の企業が出向に際してあらかじめ行う教育訓練費、出向先の企業が従業員を受け入れるために整備する機器や備品費用などです。こうした出向を成立させるための措置にかかった費用は、従業員1人当たり最大15万円の助成が受けられるそうです。
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足立 - こうした支援制度があれば、中小企業も積極的に在籍型出向を進められそうですね。
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青木 - 在籍型出向という形態をご存じない社長さんや人事労務担当の方も多いと思いますので、コロナ禍の影響を受けている方々は、社内で話題にしてもらいたいですね。
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小林 - はい。企業にとって人材は宝といいます。新型コロナの影響を受けても何とか頑張っておられる企業の皆様には、我々の制度も是非ご活用いただきながら、在籍型出向で従業員の雇用を守り、明るい未来に向けて厳しい時代を乗り切っていきましょう!
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足立 - 今日の話の中に出てきた「産業雇用安定センター」で企業同士の出向のマッチングを無料で行ってくれることを知れたので、良かったと思いました。
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青木 - 出向といっても、労働者の賃金や教育訓練にお金がかかりますよね。その費用を最大9割助成する「産業雇用安定助成金」。こういった支援制度を国が用意してくれているというのは、良いことですよね。厳しい時代ですが、こういった制度を上手く利用して乗り切って欲しいです。
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